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無観客試合開催前に、弱小時代からのレッズサポが考えたこと~趣味とお金の話を少々

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

弱小の頃からのレッズサポとして少し言いたい

まもなく、浦和レッズと清水エスパルスのゲームがJリーグ初の無観客試合としてキックオフされる。本欄は「マネーウィズダム」、お金の知恵の話を書き連ねる枠だが、無観客試合が開催されるまでにどうしても声をあげてみたくて浦和レッズの差別的横断幕の話を書いてみたい。最後には個人のお金の話もちゃんとするので、少々おつきあいいただきたい。

筆者は弱小の頃からのレッズサポである(これは差別横断幕を擁護するものではないことを予めお断りしておく)。記憶によれば1995年か96年、レッズとヴェルディの試合を国立競技場に観戦しにいったことがきっかけだったと思う。いわゆるビッグクラブはヴェルディだった当時、実際の観客動員数はレッズが圧倒、応援の力強さも圧倒していて、テレビのモニターだけでは分からない世界があるのだなと感心した。試合はレッズの負けだったが、帰り道、親子連れが多かったことと、負けても楽しそうに会話しながら帰宅している姿にも感銘を受けた。

当時、仲のよかった女子に連れて行かれたのだが、以来レッズサポのひとりとなった。観戦しても10試合に1試合くらいしか勝てないのに、観戦を繰り返した。応援はとても楽しかった。J2降格が決まったときは、観客の子どもの涙がテレビに映った瞬間、ようやく降格が実感されてもらい泣きした記憶がある。J2にいた1年間は開幕戦と最終戦を駒場に見に行き、(試合のレベルは低かったが)再昇格の瞬間を目の当たりにして大喜びした。

その後、J1優勝を決めたさいたまスタジアムにいて歓喜の輪にいたひとりであるし、翌年のACLではホームゲームを平日ながら全試合観戦し、最終的には優勝の目撃者となった。今でこそ仕事が忙しいことと子どもが小さいためスタジアムへ行く回数は減ったが、スカパー!で全試合観戦する程度にはレッズサポである(リアルタイムで観戦できないため、土曜の午後はSNS断ちを余儀なくされる)。

ここまで私のレッズサポ履歴を書いた理由は、「あえて、レッズサポーターとしてどう思うか」を述べたいと思うからだ。「1人の愚か者が39999人のサポーター仲間を悪者にした」ことについて、39999人の側から述べてみたいと思うのだ。

今回の差別問題の本質はサポーター同士での差別だ

今回の横断幕が差別的意図を持つことは、他の方の記事でも整理されているので、ここで詳しく繰り返しはしない。また、当該横断幕を掲げた者がいう言い訳が報道されたとしても、それを考慮する価値はない。差別意図はなかったと本人が言うのは当たり前で、自身の行為について悪くいうはずがないからだ。

むしろ一連の報道を見て不思議に思ったのは、この横断幕が何を対象に掲げられたかが整理されていない、ということだ。当時のスタメンに外国人はたまたまいなかったが(サブにいた李選手は日本人であるし、マルシオを排斥するサポーターはいないだろう)、もともとレッズは外国人の選手の力を借りている。弱小時にレッズを支えたブッフバルト氏は監督にもなったし、サポーターに愛されている。たくさんの外国人FWがいなければレッズの隆盛もなかった。

レッズサポであれば、「Japanese Only」が選手に向けられたとの初期報道に違和感を覚えていたはずだ。その後、該当の横断幕を紹介する写真を見て納得した。これは「サポーター同士の差別意識」を示すものだと分かったからだ。

横断幕というと、観客席において選手やテレビに映るようにでかでかと掲げる印象があるが、この横断幕はバックフロアーから観客席に入る箇所に掲げられている。スタジアムに通った人なら誰でも分かると思うが、暗い通路を通り抜け、明るい光が入り込み、何万人もの観客席とスタジアムが視界に入ってくる高揚感はなかなかの感動だ。その「通路」と「客席」の狭間に掲げられていたのが今回の横断幕だ。

これはつまり、「日本人のみがレッズを応援する資格を有する」という排斥メッセージなのだ。横断幕を掲げた場所がそれを明らかにしているからだ。外国人観光客がゴール裏に入り込むようになり応援の統率がとれないから掲出した、という報道があるが、なるほどこの報道なら掲出者の意図は整合的に理解できる。

もちろん、掲出者の意図は許されない。マンチェスターユナイテッドのゴール裏に日本人が観光に行ってはいけないのだろうか?正規のチケット代を払っているのに? 私たちが海外のサッカーチームのファンとなることに、国籍が関係ないのと同じで、レッズのサポーターであることに国籍は関係ない。

情報が整理されてきてよく分かった。報道は選手に対する差別を疑っている記事が多かったが、これは本質的に「サポーター間差別」なのである。だからこそ、個人的見解を述べられる機会にレッズサポーターのひとりとして声をあげたい。

レッズサポーターのひとりとして、本当に、怒りを覚える。

レッズサポはよく「We Are Reds」とコールするが、これは選手も、スタッフも、サポーターもみなひとつであることを宣言している。当該行為を行った愚か者は、自分がいつも発している言葉の意味を分かっていなかったということなのだ。

今回は国籍をフックにした横断幕であるが故にその差別問題は急速に拡大し、ペナルティも与えられたが、必要のない差別は常に許されない。つまり、たとえ「さいたま市民オンリー」という横断幕であっても、ダメということだ。私たちはそれくらい差別というものに意識をする必要がある、と思う。

(もちろん、オリンピックやワールドカップなどは国籍によるチームが作られる点で、ナショナリズムが差別とみなされないぎりぎりのラインにイベントが存在している。しかしたとえワールドカップであっても、他国籍チームや選手を差別していいわけではなく、自国籍のチームを愛し応援することだけが認められることを忘れてはならない。)

数千円の横断幕が1億円の損害(それ以上)を生み出す愚かさ

少しお金の話を考えてみる。彼ら(どうやら個人というよりグループだったようなので複数形とする)が横断幕をどのような気持ちで作ったかは定かではないが、製作コストだけ考えればスプレー缶と布地だけであるから、数千円というところだろう。

その軽い気持ちと数千円は、監督不行き届きを責められた浦和レッズに無観客試合1試合という経済的損失を与えた。報道ではおそらく1億円の損失になるとされる。仮に4万人の観客が平均2500円のチケットであるとすれば、純粋に1億円になるし、払い戻し(今回清水エスパルスのサポーター等が予約していた交通費や宿泊費があればこれも払い戻し対象としている)費用がさらにかかり、メディア対応等のコストは削られることがないわけで(むしろ増える)、1億円の損失を超えることは間違いないだろう。

さらに今後、何試合か連続して観客動員数に影響すれば(仮に4000人の観客減が10試合続けば)、追加して1億円の減収にもなる。個人がもたらす経済的損失として考えると、これはなかなかすさまじいパフォーマンスだ。軽い気持ちのサポーターの愚行が招いた影響が、いかに大きいものだったかが分かる。

当該サポーターは、今後スタジアム観戦を禁止されることになるようだが、自分が与えた経済的損失と社会的影響がいかに大きなものであったか反省してほしい。(もし、レッズが損害賠償を求めないなら、その温情に感謝こそすれ、入場禁止に文句を言うべきではないだろう)

管理者としてのレッズは何をすべきか

もちろんレッズは被害者だけではない。ゲームの主催者である浦和レッズは、こうした損失を回避することも可能であったはずだ。その点では自ら経済的損失を招いたともいえる。少なくとも、試合途中に差別的横断幕の存在を認識しながら、試合終了後まで撤去できなかったことが、無観客試合を招いた要因であったわけで、管理者としての運営体制についても考え直す必要があろう。警備会社とレッズとの連携不足にも問題があったように見える。

どうやら「掲出者の合意がなければ主催者の一存による横断幕撤去はできない」というのが横断幕の基本ルールだったようだが、これは辞めた方がいい。主催者には撤去の権利があり、撤去後、撤去理由について掲出者と話し合えばいい。過去、サポーターとのルール形成の積み重ねを誤ったのだろう。

ただし、撤去の判断基準ははっきりすべきだ。指針と具体例があることが望ましい。「差別的メッセージは撤去の対象となります」だけではなく、具体的にいくつか例を示すべきだ(選手の国籍や出自に触れた横断幕はNG。例×××のように)。こうした基準は予め開示されることも重要で、WEBに指針が掲載されることを期待する。

当面のあいだ、横断幕やフラッグの使用を禁止し、サポーターと話し合いながら新しいルール作りを行うとしているが、できるだけ早く、できるだけ具体的な話し合いをしてほしい。

レッズサポーターの横断幕はメッセージばかりではない。サポーターが赤色に染められない入場口周辺を赤色の布で丹念に覆って、選手からはゴール裏が深紅に染まったようにみせる工夫など、サポーターの愛情がこもった応援も多い。ゴール裏のみならず、スタジアム全体で人文字を描くときなど、「もっとテレビはこれを映してくれ!(当事者は全貌を見ることができないので)」と思う。

安全で快適なスタジアム観戦が取り戻され、かつ活気と創意にあふれた応援が見られることを期待したい。

FP的にみて、観戦趣味のコストパフォーマンスはどう考えるか

ここまで読んでいただいた読者に、最後に少しだけ「趣味とマネープラン」についてファイナンシャルプランナーの目線で触れておこう。

一般にFPは節約や倹約をアドバイスし、ムダづかいを戒める立場にある。しかし、筆者はファイナンシャルプランナーだが、趣味について使う予算については肯定的だ。むしろ趣味に使うお金はあったほうがいいと考えている。仕事への張り合いにもなるし、生きがいの存在はメンタル的にも必要だ。

ただし、趣味は没頭する危険性があるので、コスパも意識したほうがいい。特に危険なのは観戦・観劇系の趣味だ。どれほどお金を注ぎ込んでも、観戦・観劇の満足以上のものは返ってこないからだ。この点、AKBのファン層や宝塚観劇にスポーツ観戦者は近いところがある。掛けたお金が所有欲に反映されやすい車やカメラのような趣味と異なる(車やカメラは中古で売ることができる点でも資産価値がある趣味だ)。

少し古い本だが、「サッカー株式会社」という書籍がプレミアリーグを例に、サポーターは搾取され続けるが、チームは必ずしもそれに見合う満足を返してくれないという話をしている。レプリカユニフォームを買い、マフラーを買い、衛星放送の契約をし、スタジアムに通って声を枯らしても、成績が保証されることなどあり得ないし、むしろ忠誠心を試すかのようにチームは新たな商品を販売してくるばかりだと。

サッカー観戦については、勝ち負けと違うところでも、観戦を楽しめるようにしたいし、無理のない応援費用を考えたい。全試合アウェイ観戦はたいていの場合、家計へのインパクトが大きすぎるので、毎年絞り込みを行うほうがいい(筆者も一時期やっていたが、首都圏のみアウェイ観戦なら負担はかなり小さい)。

グッズもほどほどに「欲しいときは買う」「そうでないときは見送る」のバランスが必要だ。個人的には、古いレプリカユニフォームを堂々と着ているサポーターのほうが格好いいと思う(あえて9番ユニフォームは福田とか)。例えば、筆者はマフラーはタイトルをとったときだけ追加購入することにしている。

解放されるストレスと、かける趣味のコストがバランスが合うならとことんつぎ込むのもよかろう。しかし、とことんつぎ込んだあげく、借金生活となってもチームはあなたを助けてはくれないことは忘れてはならない(クレジットカードや消費者金融の残高があるならそれはもはや「行きすぎ」の趣味である)。借金まみれではなくても、家も買わず、貯金も増やせず働き続けてはまともな老後もおぼつかない。

趣味は溺れるものではない。自分から楽しめる範囲で飛び込み、疲れる前に陸に上がらなければならないのだ。もしかすると、当該横断幕を掲出した当事者は、趣味に溺れて我を忘れてしまったのかもしれない。だとしたら、それはとても不幸なことだ。

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無観客試合がスタートする8時間前に、レッズサポの視点でこんな文章をまとめてみた。レッズサポーターも今回の件を怒っていることを少しでも知っていただければ幸いである。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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