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恋愛やビジネスに成功するカンタンな方法

橘玲作家

今回はちょっと趣向を変えて、すぐに役立つ知識をお教えしましょう。

「あたたかな気持ち」「高い地位」などの言葉を私たちは当たり前のように使っています。「蜜のような甘い言葉」は、愛の囁きの比喩として、誰でもすぐに理解できます。

でも考えてみれば、これは不思議な話です。世界にはさまざまな言葉や文化、習慣があるのに、なぜこの比喩が注釈もなく翻訳できるのでしょうか。

この疑問に、現代の脳科学はこう答えます。「それは比喩ではなく、実際に脳の味覚に関する部位が活動しているからだ」――愛の言葉と蜜は、脳にとっては同じ刺激なのです。

これだけなら驚くようなことではないかもしれませんが、テルアビブ大学のタルマ・ローベル教授は、この因果関係が逆にしても成り立つことを発見しました。「甘いものを食べながら聞いた言葉は甘く感じる」のです。

ほんとうにこんな不思議なことがあるのでしょうか。それを次のような実験で確かめましょう。

学生がエレベーターに乗ると、そこには本とクリップボード、コーヒーカップで手がふさがった助手がいます。助手は学生に、「ちょっとコーヒーカップを持ってくれませんか」と頼みます。

次に学生が研究室に入ると、実験担当者からある(架空の)人物についての資料を読むようにいわれます。その後、学生にこの人物の印象を尋ねます。

ランダムに選ばれた学生が同じ資料を読むのだから、質問への回答に統計的な差は生まれないはずです。しかし興味深いことに、特定の質問項目にだけはっきりとしたちがいが現われました。それは、「親切/利己的」など、性格があたたかいか冷たいかを連想させる質問でした。

なにが学生たちの回答を左右させたのでしょう。

じつはエレベーターのなかの助手は2種類のコーヒーを持っていました。ホットコーヒーとアイスコーヒーです。

驚いたことに、エレベーターのなかで一瞬、ホットコーヒーを持った学生は資料の人物を穏やかで親切だと感じ、アイスコーヒーを持った学生は怒りっぽく利己的だという印象を抱いたのです。温度の感覚は、無意識のうちに、その後の人物評価に影響を与えるのです。

こうした知見から、ローベル教授は次のようにアドバイスします。

初対面のひとにはあたたかい飲み物を出した方がいい。

交渉の際は、やわらかな感触のソファに座らせると相手の態度が柔軟になる。

相手より物理的に高い位置に座ると、交渉が有利になる。

相手と冷静に話し合いたいときは距離を取り、感情に訴えたいときは身体を寄せる。

プレゼンの資料は重いものを用意する。ひとは重い本を持つと、それを重要だと感じる。

赤は不安や恐怖を高める。試験問題を赤で書いたり、受験番号を赤で印刷しただけで成績が下がる。

その一方で、赤は注目を引く。スポーツではユニフォームが赤のチームが有利だし、赤い服の女性や赤いネクタイの男性はもてる。

どうでしょう、すぐに実行できることばなりではないでしょうか。最新の脳科学を使って恋愛やビジネスに成功してください、結果は保証しませんが。

参考:タルマ・ローベル『赤を身につけるとなぜもてるのか?』(文藝春秋)

『週刊プレイボーイ』2016年4月18日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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