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消費税引き上げを延期しても家計が苦しくなる理由 

橘玲作家

2017年4月から消費税を10%に引き上げるかどうかが議論になっています。ここで、消費税が2%上がることと、それ以外の税・社会保険料のコストをざっと計算してみましょう。

年収300万円でかつかつの生活をしている若者で考えてみます。貯蓄の余裕はまったくないでしょうが、家賃には消費税はかかりません。アパート代を年80万円(月額約6万5000円)とすると、残りの220万円が消費に当てられます。税率8%なら消費できるお金は約204万円、税金は約16万円です。これが10%に上がると200万円+税20万円ですから年間4万円の増税になります(食品等には軽減税率が適用されます)。

それに対して所得税は、サラリーマンの場合、給与所得控除など各種控除を差し引いた課税所得約120万円に5%の所得税率が課されて6万円、住民税は東京都区部で約4万円で計10万円です。自営業者は仕事に必要な経費を差し引いて自分で課税所得を計算するのですが、ここでは同じ税額としましょう。

この若者がアルバイトなどで生計を立てていると、国民年金の保険料は月額1万6260円(平成28年度)なので、年19万5120円です。

国民健康保険は医療分・支援分・介護分(40~64歳)に分かれ、さらに均等割と所得割があって複雑なのですが、東京都区部の1人世帯では、概算で39歳以下なら年約18万円(40歳以上で約22万円)になります。ざっくりいうと、国民年金と国民健康保険で約37万円(40歳以上で約41万円)が徴収されるのです。

この負担をもういちど整理してみましょう。

年収300万円の自営業の場合、消費税負担が約16万円、所得税・住民税が約10万円、社会保険料(年金+健康保険)が約37万円(39歳以下)です。これをすべて足すと約63万円で、総収入(300万円)に対する負担率は21%。年収300万円のフリーターでも月約5万円を税・社会保険料として支払い、実際に生活費として使えるのは月額20万円弱しかないことになります。

こうして見ると、家計を圧迫しているのは「税金」以上に、年金・健康保険料なのは明らかです。そしてこの社会保険料は、気づかないうちにどんどん値上げされているのです。

国民年金は10年のあいだに17%以上も引き上げられました。国民健康保険は計算方法が複雑に変わっていますが、1990年代に比べてほぼ2倍になっています。こんなに負担が重くては、年金や健康保険料の滞納が増えるのも当然です。そのうえこの引き上げは、厚生労働省や自治体が国会などの審議なしに勝手に決めているのです。

だったら低所得者層の負担を減らせばいいのでしょうか。実はそうもいきません。高齢化で社会保障費用がどんどん膨らんで、日本の財政はにっちもさっちもいかなくなっているからです。ここでは自営業者を例にあげましたが、負担はサラリーマンの方がさらに重く、健保組合の保険料は9年連続の引き上げで負担増は5万円を超え、2020年にはさらに15万円増えると経団連は試算しています。

ひとびとは2%の消費税引き上げで大騒ぎしますが、不思議なことに、それよりさらに金額の大きな社会保険料についてはなにもいいません。たとえ消費税率を据え置いたとしても、社会保険料で毎年「増税」しているのでは、家計は苦しくなるばかりで景気がよくなるはずもないのです。

『週刊プレイボーイ』2016年5月16日発売号

禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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