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トランプ大統領を子どもの疑問で考えてみる

橘玲作家
(写真:ロイター/アフロ)

科学の世界では、「子どもの疑問」を使って正しい知識を持っているかが判別できます。ちょっとやってみましょう。

宇宙はなぜ暗いの? 真空で、光を反射するチリなどがないから

宇宙はなぜ真空なの? 空気を引き止めておく引力がないから

だったら、地球にはなぜ引力があるの? それは……

たいていのひとはこのあたりで言葉に詰まるでしょうが、専門家なら引力と質量の関係をわかりやすく説明できるはずです。

ところで、子どもが疑問を持つのは宇宙の神秘だけではありません。トランプ大統領就任などは、山のような疑問で押しつぶされそうになっているでしょう。そこでここでは、「なんであんなヘンなオジサンが大統領になったの?」という定番のものは脇に置いて、こたえてほしい「子どもの疑問」をいくつかあげてみましょう。

疑問1 「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)はアメリカに一方的に有利で、日本にはなにひとついいことがない」といってたひとがいっぱいいたけど、なぜトランプは「アメリカになにひとついいことがない」といってTPPから離脱したの?

疑問2 「自由貿易はグローバリストの陰謀で、日本の雇用を破壊する」といっていたのに、自由貿易を否定し、国境に壁をつくり、移民を追い出し、企業を恫喝して工場を誘致するトランプをなぜ大歓迎しないの? まったく同じことをいってるのに、「自分はトランプとは関係ない」というふりをするのはなぜ?

疑問3 「景気は政治でよくすることができる」といって株価を上げる政策をさんざん要求していたのに、就任直後にニューヨーク株価が史上最高値の2万ドルを超えたトランプ政権を大絶賛しないのはなぜ?

疑問4 「米軍基地は沖縄にいらない」といっていたのに、「もっと駐留経費を払え」と脅すトランプにビクビクするのははぜ? 「自衛隊を軍隊にして核武装するから、在日米軍はどうぞ撤退してください」といえばいいのに。

疑問5 「マスコミはマスゴミ」といって新聞やテレビを批判していたのに、トランプが同じことをいうとイヤな顔をするのはなぜ? あるいは、アラブの春のときは「SNSが世界を変える」といっていたのに、待望の「Twitter大統領」が誕生したのに青くなっているのはなぜ?

これ以外にもいくらでも思いつきますが、このくらいでやめておきましょう。不思議なのは、こうした子どもの疑問に誰もこたえようとしないことです。

たとえば、TPPから離脱したトランプが正しいのなら、これまで「TPPはアメリカのためのもの」と叫んでいたひとたちはウソつきばかりということになりますが、それでいいのでしょうか。「TPPはグローバリストの陰謀だ」というかもしれませんが、だとしたらトランプがいまやっていることはすべて正しい、と認めなければなりません。

もっとも、このひとたちに「子どもの疑問」を突きつけるのはちょっとかわいそうかもしれません。ある朝目が覚めて鏡を見たら、そこには自分ではなくトランプの顔が写っていた――だったら慌てふためいて狂乱するのも無理はないですね。

『週刊プレイボーイ』2017年2月6日発売号 禁・無断転載

作家

作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。最新刊は『言ってはいけない』。

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