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球界珍「下手投げ」対決を制したのはヤクルト山中。29歳のプロ初勝利!

田尻耕太郎スポーツライター

【6月12日 ヤクルト9-3西武 西武プリンスドーム】

6月12日の西武×ヤクルト。先発は西武が牧田和久、ヤクルトが山中浩史という球界でも希少なアンダースロー投手同士の投げ合いが実現した。実績では断然牧田(通算38勝22セーブ)。だが、試合は9対3でヤクルトが勝利。6回を3失点で凌いだヤクルト山中に白星がついた。これが悲願のプロ初勝利だった。

西武森友哉から「球界一遅い」直球で3打席連続三振

おかわり君こと中村剛也をはじめパ最多安打を独走する秋山翔吾らを擁する強力レオ打線を幻惑した。山中のストレートは110キロ台後半から120キロ台前半しか出ない。「おそらく球界一、スピード表示の遅いストレートです」と自認する。だが、「真っ直ぐを武器にしたい。その遅さをどれだけ生かせるか、球種やフォームなどの様々な引き出しで勝負したい」。それが持ち味だ。

立ち上がりのピンチでは味方の好守に助けられた。秋山には手痛い一発も浴びた。それでも、強気に攻めた。ただいま注目株の森友哉からは3打席連続三振を奪ってみせた。ウイニングショットはすべてストレートだった。

ホークス1年目には開幕ローテ入りも…

嬉しい、本当に嬉しいプロ1勝目だ。今季がプロ3年目だが、9月の誕生日で三十路に突入する。プロ入りが27歳と遅かったのだ。2012年、ドラフト6巡目で福岡ソフトバンクホークスに指名された。その冬には結婚を決めており、社会人のホンダ熊本で野球を続けた方が間違いなく「安定」はしていたはずだ。だが、「挑戦したい」と山中は夢を選んだ。

1年目、じつはソフトバンク投手陣の競争に勝ち抜いて開幕ローテ入りを果たしている。開幕5試合目にプロ初登板初先発。舞台は奇しくも西武ドームでの西武戦だった。しかし、緊張から、本来の投球が出来なかった。4回途中4自責点で負け投手。即2軍落ちとなった。この年はファームで10勝を挙げてウエスタン最多勝を獲得するも、1軍では17試合に登板して0勝2敗だった。

2年目もファーム暮らし。そして2014年7月20日、ヤクルトへのトレードが決まった。ソフトバンクからは山中と新垣渚、ヤクルトからは川島慶三と日高亮。2対2の交換トレードだった。

トレードはヤクルトからの「指名」だった

じつはこのトレード、新垣ともう1人は、別の投手が移籍するはずだった。しかし、寸前のところでヤクルト側が山中の名前を挙げた。球団幹部の「独特の下手投げ。面白いピッチャーじゃないか」との言葉が決定打となったという類の話を聞いたことがある。

優しい表情を見て分かるように、マジメ一本の性格。ソフトバンク時代には「表情が険しすぎるぞ。もっと余裕を持て」と投手コーチから言われるほどだった。

2015年6月12日、ここまでの努力は報われた。

この一歩を、次の一歩への力に変え、この先の明るい未来をその右腕ですくい上げてほしい。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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