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強運と決意の坊主と。ソフトバンク育成樋越に大変身の予感

田尻耕太郎スポーツライター
樋越(右)はオリックス伊藤から数々のアドバイスをもらっていた

「肩が急に強くなった」

バットを握れば、ボールとの衝突音が明らかに変わった。

難題だったスローイングも改善され、コーチから「どうしたんだ。肩が急に強くなったじゃないか」と驚かれた。

キャッチングのコツも、一流選手から直に教わった。

「これ以上ない最高の時間でした。本当に感謝です」

ソフトバンク育成選手の樋越優一は、きれいに刈り上げた頭をさすりながら笑顔を浮かべた。

「たまたま」で超一流選手と自主トレ

入団2年目を迎える右投げ左打ちの捕手は、1月18日から21日まで、コウノエスポーツアカデミー(KSA)代表の鴻江寿治トレーナーが毎年主催するトレーニング合宿に参加した。わずか4日間。だが、それは、濃密すぎるほどの時間だった。

鴻江氏の理論に基づき、自分の体のタイプに合ったプレースタイルが何かを知った。投げに行くときの姿勢、バットの構え方、重心のかけ方など一つ一つ教わるたびに、体が自然と反応する。目からウロコとはまさにこの事だった。

KSAトレーニング合宿には毎年多くのトップアスリートが参加する。今年はオリックスの中島宏之、伊藤光、松葉貴大や中日の吉見一起が顔をそろえた。

3日目なのに、3年一緒にいる感じ

一言も聞き逃すまいと真剣な表情
一言も聞き逃すまいと真剣な表情

「ほかの球団の人たちと絡むこと自体が初めてで、しかもテレビで見る選手ばかり。最初は緊張しっぱなしでした」

自分のことなど相手をしてくれるのかという不安があった。しかし、そこは樋越の「いじられキャラ」が奏功した。伊藤からは「会って3日目で、もう3年くらい一緒にやってる感じ」というありがたい言葉をもらった。投球練習で捕手を務めた際には、すぐ横に立って丁寧にアドバイスもしてもらった。

「2月のキャンプ中に宮崎で食事に連れて行ってくれるそうです。伊藤さんとの距離がこれほど縮まるなんて思ってもいませんでした。ホント、千賀さんに感謝です。頭が上がりません」

WBC右腕の千賀が橋渡し

本来、合宿の参加メンバーに名前はなかった。きっかけを作ってくれたのは千賀滉大だった。千賀はプロ1年目のオフから毎年この合宿に参加している。今年は石川柊太を誘ったのだが、捕手役を探そうとしていた時に、たまたま筑後の若鷹寮で目の前を歩いていた樋越に声をかけたのだという。

「(筑後の屋内練習場に)練習に行こうかなと思っていたら、突然声をかけられて。今から行くからすぐに準備しろと。慌てて支度をしました」

これも縁だ。思えば、千賀がこの合宿に参加したのも、先輩の近田怜王に誘われたのがきっかけ。それがなければ、当時育成枠だった右腕がWBC戦士まで成り上がることはなかったかもしれない。

気合の断髪式

仕上げは自ら
仕上げは自ら

合宿最終日の前夜には「丸刈りにします」と宣言。“断髪式”では伊藤や千賀もバリカンを持った。

ルーキーイヤーの昨季は二軍公式戦出場3試合のみでノーヒット。三軍では58試合で171打数47安打(打率.275)0本塁打13打点の成績。春先こそ健闘したが、シーズン中盤以降は失速した。また、捕手での出場機会はほとんどなく「マスク剥奪」の危機なのだ。

「自分としては捕手にこだわりもある。とにかくまずは出場機会を増やすこと。佐々木誠三軍監督をはじめコーチ陣にアピールしたい」

数々の名選手を指導してきた鴻江トレーナーは「思った以上に素質がある。バッティングも目を引くものがありました」と好評価。まったくノーマークだった背番号132が2月の春季キャンプでどのような存在感を示すのか、楽しみにしたい。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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