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「転出超過自治体」ランキング、ワースト3が判明。人口減自治体はどう転入を呼び込むか

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

自治体におけるもう1つの人口問題が「社会増減」

これからの自治体に取って最も重要な要素に人口構造の変化がある。少子高齢化の加速など自然増減による要因ももちろんだが、人口問題が自治体にとって重要になればなるほど、その問題は、自治体間での都市間競争にすらなりかねない。こうした状況の中で、みなさんは、自らが属する自治体の社会増減の実態をどれだけ把握しているだろうか。

全国の自治体における転入転出数の差から転入超過、転出超過を調べたデータがある。最新の2014年に最も転入超過となった自治体は、+8,363人の札幌市だった。次いで2位が+7,458人の福岡市、3位は+7,162人の大阪市。4位以下も川崎市+6,553人、大田区5,907人、さいたま市+5,776人、横浜市+5,332人、名古屋市+5,280人、江東区+4,718人、中央区+4,509人と並び、ベスト10に入っているのは、全てが政令都市と、東京23区の特別区だった。

2014年の上位の傾向を見ると、そのほとんどは昨年より転入超過数を減らしている。ベスト10の中で大きく伸ばしたのは、大田区と中央区ぐらいだった。こうした人口動態を見ていくと、現状の人口移動のトレンドや方向性が見えてくる。

ちなみに、一般市の中でのベスト10は、川口市+2,636人、流山市+2,387人、吹田市+1,939人、市川市+1,877人、ふじみ野市+1,736人、越谷市1,667人、船橋市+1,577人、藤沢市1,505人、三鷹市+1,486人、柏市+1,480人となる。

ただ、自治体の今後を考える際に、真剣に考えなければならないのは、言うまでもなく、こうした転入超過自治体ではなく、むしろ転出超過になっている自治体だ。

国も人口構造を問題と捉え、とくに15歳から64歳までの生産年齢人口の減少に歯止めをかけるため、外国人労働者の受け入れ、つまり移民政策の検討を行い始めている。

国レベルの問題で考えれば、生産年齢人口減少による労働力の低下に歯止めをかけるためには、現在働いていない生産年齢人口の方々を働かせなければならないからであり、女性の社会進出、高齢者の定年延長や再雇用、若者の活用とこれから進み、さらに移民問題の検討へと進んでいく事が予想される。

しかし、自治体の場合は、状況が少し異なる。日本全体としては、生産年齢人口の減少は止められないが、各自治体は、移民を本格的に受け入れずとも、他の自治体から生産年齢人口を集めてくるという選択肢があるからだ。

2014年転出超過ワースト3は、北九州市、日立市、東大阪市

図表1: 2014年・転出超過上位10市の転出超過数推移

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2014年に最も転出超過となったのは、▲2,483人となった北九州で、2位に1.5倍もつけ圧倒的だった。2位は昨年に続き日立市が▲1,590人。以下、20位まで並べると、東大阪市▲1,427人、豊田市▲1,397人、長崎市▲1,257人、佐世保市▲1,199人、沼津市▲1089人、尼崎市▲1,037人、青森市▲1,028人、函館市▲1,012人、小樽市▲987人、枚方市▲963人、静岡市▲962人、釧路市▲941人、堺市▲928人、呉市▲904人、横須賀市▲899人、室蘭市▲831人、今治市▲811人、鹿児島市▲808人となる。

細かい分析を行った訳ではないが、昨年同様、転入超過ベスト3が札幌、福岡、大阪だったのに対して、転出超過ベスト20に北海道が4市、大阪府が4市、3市が福岡に近い自治体だった事には、何らかの関係性がある様にも見える。

日本全体で考える中では、とくに経済的には、都市部への集中は一つの方向性として考える事もできる。しかし一方で、地方には地方の事情があり、経済も含め地域から活性化させて行く仕組みが求められる。こうした中で、地方現場は、少なくとも自らが置かれている現状と、このままの状況が継続した際の現実をしっかりと把握し、対策を考えていく必要がある。

震災直後の2011年は、郡山市、いわき市、石巻市と被災地等が並んでいた

図表2: 2011年・転出超過上位10市の転出超過数推移

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ここ数年で転出超過が大きかった自治体についても振り返ってみる事にしよう。震災のあった2011年は原発の影響もあり、一般市の転出超過自治体のワースト10は、郡山市▲7,232人、いわき市▲6,194人、石巻市▲5,459人、福島市▲4,410人、南相馬市▲3,523人、市川市▲3,160人、気仙沼市▲2,375人、浦安市▲1,956人、多賀城市▲1,463人、松戸市▲1,457人と東北や福島の自治体が並んだ。

転出超過の人数も、最新の2014年ワーストの北九州市の▲2,483人と比較しても圧倒的に多かった事が分かる。

こうした震災の影響で転出超過となっていた自治体は、少しづつ改善してきている事も見て取れる。

2012年の転出超過ワースト3には、市川市、松戸市といった千葉県の自治体が

図表3: 2012年・転出超過上位10市の転出超過数推移

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翌年の2012年になると、ワースト10は2011年から約半数の市が入れ替わり、最も転出超過だった一般市が、市川市▲2,750人になる。以降、郡山市▲2,709人、松戸市▲2,190人、福島市▲1,939人、いわき市▲1,879人、浦安市▲1,584人、沼津市▲1,439人、長崎市▲1,185人、日立市▲1,174人、横須賀市▲1,173となっており、1位の市川市、3位の松戸市、6位の浦安市と上位に千葉県の自治体が並ぶ。

筆者自身、元市川市議であり、震災前後は、松戸市役所で政策担当官や審議監として部長職を務めていた事もあり、この人口問題の調査や分析も行っていた。

今回のデータでは、転入と転出の差しか出てこないが、自治体でより細かく調査を行うと、こうした近隣自治体への転出超過や震災や放射能等の影響によると思われる様なものもあったが、それ以外にも大きな構造的な問題も見えてきた。

こうした人口問題への対策は、より直接的に関わる住宅政策により対応できる問題と、行政サービスの差別化やブランド化など、新たな人口移動の流れを創る事も求められる。

各自治体議会での議論を見ていると、「他市がやっているこうした政策を我が市でも」というものが多いが、それぞれの自治体の状況の把握から行ってみるのはどうかと提案したい。

こうした状況こそ、行政はもちろん、議会、そして住民と共有しておく必要があるのではないだろうか。

横須賀市は大幅に改善し、ワーストから浮上

図表4: 2013年・転出超過上位10市の転出超過数推移

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2011年▲846人、2012年▲1,173人、2013年▲1,772人と転出超過を増やし続け、1年前に転出超過日本一となってしまった横須賀市は▲899人へと一気にV字回復しまだ、ワースト20には入っているものの17位まで浮上した。

同じ様に寝屋川市が復活しているのが分かるが、その他の自治体は、トレンドとして下がり続けていることが分かる。

こうした状況は、2011年や2012年の震災直後や震災や放射能などの影響などを受けて一時的に転出超過になった自治体と異なり、本質的な転出超過構造になっている可能性もある。

896自治体が人口減で消滅と言われて・・・

昨年、「人口減によって896の自治体が消える」とのレポートが話題となった。

実際に自治体が消滅するかについては別の議論が必要だが、東京をはじめとした大都市集中への対応は自治体にとって最も大きな課題だと言える。

冒頭に書いた様に、これからの自治体にとって最も重要な要素にこの人口構造の変化がある。少子高齢化の加速など自然増減による要因ももちろんだが、人口問題が自治体にとって重要になればなるほど、その問題は、自治体間での都市間競争にすらなりかねない。

こうした課題に対して、どうしていくのか、政治家はその対応策を持っているのか、4月の統一地方選挙では、自分たちのまちの将来を真剣に考え、選挙に挑んでもらいたいと思う。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

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