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残り0.4秒からの逆転負け。バスケットボールの本質を改めて体感したジョージ・ワシントン大と渡邊

青木崇Basketball Writer
残り0.4秒からのトリックプレイで敗れたジョージ・ワシントン大(来日時より)(写真:アフロスポーツ)

2月8日のVCU(バージニア・コモンウェルズ大)戦、渡邊雄太は右コーナーからブザービーターとなる逆転3Pシュートを成功。誰もが53対52でジョージ・ワシントン大の勝利と思ったが、レフェリーはNCAAの規定に沿ってリプレイでチェックした結果、“残り0.4秒”で試合を再開するという判定を下す。タイムアウトを取ったVCUのウィル・ウェイドコーチは、ちょっとしたトリックプレイを指示した。ジョージ・ワシントン大のモーリス・ジョセフヘッドコーチ代行は、エンドラインからインバウンドしにくくするため、ここまで一度もプレイしていなかった211cmのコリン・ゴスを起用するも、これが完全に裏目。インパウンドパスをしやすくするためにエンドライン沿いにスクリーンをかけたジェイクアン・ルイスに対し、その存在にまったく気付かず横に動いたゴスは体当たりしてしまい、時計が動く前にファウルを取られてしまったのである。

後半9個目のチーム・ファウルだったため、VCUに与えられたフリースローは1&1だった。しかし、ルイスが冷静に2本とも成功させ、ジョージ・ワシントン大は10年に1回起こるか否かという稀な結末で敗戦(現地で取材した杉浦大介氏の記事はこちら)。“残り0.4秒”からの逆転劇につながったプレイについて、VCUのウェイドコーチは「ホール・イン・ワンと呼ばれるプレイで、練習で毎日やっている。あそこでのスクリーンは、長いパスを投げやすくするためだった」と振り返る。プレイの過程でファウルになったのはVCUにとって最高のシナリオであり、ジョージ・ワシントン大のジョセフヘッドコーチ代行は「素晴らしいプレイを作った彼らを称えるしかない」と、負けを受け入れるしかなかった。

奇跡の逆転劇を呼んだ理由は、ウェイドコーチの策とルイスが最高のタイミングでスクリーンをかけたことに尽きる。しかし、改めてラストプレイの映像をチェックすると、VCUは幸運に恵まれ、ジョージ・ワシントン大にとって不運だったことに気付く。レフェリーのコールだ。ルイスがベースラインでスクリーンをかけた際、左足は明らかにラインを越えており、ゴスが接触した瞬間もラインを踏んでいた。試合が終わってしまった以上、判定が覆ることはないし、レフェリーのミスコールもゲームの一部と理解するしかない。しかし、バイオレーションなのは明白であり、ジョージ・ワシントン大にとってはアンラッキーだったとしか言うしかない。

現地の報道をチェックしても、スクリーンの左足が出ているからバイオレーションでは? という指摘の記事は、自分がチェックした範囲で一つも見ていない。アメリカ中西部で行われるNCAAディビジョン1の試合をコールしていた経歴があり、NBAのレフェリー・オブザーバーもしていた友人に問い合わせてみたところ、次のような答えが返ってきた。

「コーチによる素晴らしいコールだ。しかし、スクリーンをかける際の左足がアウト・オブ・バウンズだから、イリーガル(不正)である。したがって、レフェリーはVCUに対してブロッキングのファウルをコールすべきだった。もし、ジョージ・ワシントン大が(相手のチームファウルで)ボーナスだったら、1&1か2本のフリースローを打つことになっていただろう」

NBAのように残り2分で5点差以内の接戦だと、レフェリーのコールが正しかったか否かを公表するLast Two Minute Reportというのがある。NCAAがアマチュアを理由にこれを導入されることはまずありえないといえ、レフェリーのミスで試合の行方を大きく左右してしまった場合、彼らに何らかの処分を下した例が過去にある。ジョージ・ワシントン大とVCUが所属するアトランティック10カンファレンスは、このコールに関して何の声明も出していない。しかし、レフェリー全員に“ミスコールだった”いう通達が出ていてもおかしくないし、見逃したレフェリーも映像を見て悔しい思いをしていたのでは? という想像もできる。

試合時間残り1秒未満でも逆転劇が起こるのは、正にバスケットボールというゲームの醍醐味。VCUはジョージ・ワシントン大と対戦する前のセント・ボナベンチャー大戦で、“残り0.4秒”に逆転3Pシュートを決められた。しかし、セント・ボナベンチャー大のファンが試合終了と勘違いしてコートになだれ込んたことが妨害行為となり、VCUはテクニカル・ファウルをもらった後のフリースローで同点に追いつき、延長で勝利を手にしている。NBAでは2004年のレイカーズ対スパーズのカンファレンス・セミファイナル第5戦、デレック・フィッシャーが逆転勝利となるブザービーターを決めたのも、“残り0.4秒”からのプレイだった。

残り0.3秒からであればキャッチ&シュートが認められている以上、クロックが0.00になるまでバスケットボールはゲームオーバーにならない。ジョージ・ワシントン大と渡邊はVCU戦で、バスケットボールというゲームの本質を身を持って体感することになった。しかし、次のセント・ボナベンチャー大戦で気持の切り替えをうまくできたことは、76-70で勝利という結果でも明らか(杉浦氏による試合後のインタビュー)。2017年2月の出来事は、渡邊がバスケットボールIQの高い選手として、さらなる成長のきっかけになることを期待したい。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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