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専門家として語る、カジノにまつわる利権の話

木曽崇国際カジノ研究所・所長

一昨日、金融メディアのブルームバーグが以下のような報道を行ないました。

細田超党派議連会長:カジノ解禁法案、議員立法で臨時国会提出目指す

http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130918-00000045-bloom_st-nb

9月18日(ブルームバーグ):超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連)の細田博之会長(自民党幹事長代行)は18日、カジノを解禁するための法案を10月に召集される予定の臨時国会に議員立法での提出を目指す考えを明らかにした。来年の通常国会での成立を期している。[...]

業界の関係者の中には、様々な思惑の元でつい最近まで「今年の臨時国会で法案成立か!?」などという情報を吹かしまくってきた方々が居ます。また特に五輪の東京開催が決定して以降、そのような関係者のコメントに乗せられて、各メディアからも何となくこの秋に法案が成立するかのような報道が発信され続けておりました。

しかし現実はというと実務上、どう考えても今年の秋の法案成立は難しいという事は、私自身はかなり早い段階から申し上げて来たこと。上記、ブルームバーグの報道がそれら私の発言を裏付けるものとなったワケですが、一方で各メディアの方々に申し上げたいのは、根拠の薄い観測情報を「飛ばし」まくっていた方々をもはや情報源として信頼してはなりませんよ、という事です。

以下、私が今年の通常国会が閉会した直後、参院選の前にエントリした今秋の法案成立は難しいということを解説した記事。改めて読んで頂ければ、私が論じたことのほぼ全てが現実のものとなっています。

秋の臨時国会でカジノ合法化!?いやいやいやいやいや

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7960163.html

[...]カジノ合法化を支持する国会議員による超党派議員連盟(通称:IR議連)は、この4月に開かれた総会で「今期臨時国会への法案提出を目指す」と発表していますから、そういう意味では法案の提出は行なわれるかもしれません。もっと言えば、実は維新の会あたりからは既に独自法案が先の通常国会に提出されているわけですが、一方で上に説明した諸々の事情を考えると、それが審議&成立に至る可能性はそれほど高くないといえるでしょう。

さて、冒頭にご紹介したブルームバーグによる報道では、「細田氏は同案を超党派議連内でさらに調整し、賛同する与野党議員で国会に共同提案したい考え」と、IR議連会長の意向が紹介されています。ただ、ここにも幾つかハードルがあって、その調整が上手く実現できなければ、この秋の法案提出すらも危ぶまれると私はみています。議連としては、すでに来月中旬に予定されている臨時国会の召集直前に総会を開催する方向で調整が始まっていますが、何しろ今年の臨時国会は期間が非常に短い。その短い期間で、超党派を纏めきらなければなりません。

国会提出の為に準備されている法案は「IR推進法案」と呼ばれる法案なのですが、実はこのIR推進法案は現在、我が国に二種類存在しています。一つがIR議連が民主党政権下であった2011年に作成したもの、もう一つが今年の春の通常国会に日本維新の会が提出したもの。もともと法案は2011年に政権与党であった民主党議員が中心として作成したものだったのですが、2013年に日本維新の会がそれに幾つか修正を加えたものを「独自法案」として国会に提出してしまいました。当時の維新の会の独走は、その後予定されていた参院選に向けた一種のパフォーマンスだったのですが、その辺りの顛末と混乱に関しても、以前ブログで纏めたことがあります。

【速報】カジノ法案、いよいよ国会提出 *)維新によって

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7913231.html

この秋に議連が第一になさなければならない事は、上記のような顛末で二つに分かれてしまったIR推進法案をもう一度、一つに集約させることです。しかし、維新側はすでに法案の修正が必要だとしているワケですから、それがどのように議連内で調整されるのか。。その辺りが注目される点となります。

議連案と維新案には幾つかの差異があるのですが、最大の違いとなっているのが「特定複合観光施設区域整備推進会議」と名付けられた機関の組成に関する取扱いです。議連案では、この特定複合観光施設区域整備推進会議を以下のように定めています。

(特定複合観光施設区域整備推進会議)

二十一条 本部に、次に掲げる者につき内閣総理大臣が任命する委員二十人以内で組織する特定複合観光施設区域整備推進会議(以下「推進会議」という。)を置く。

一 衆議院議員のうちから衆議院が指名する者 六人

二 参議院議員のうちから参議院が指名する者 四人

三 学識経験を有する者 十人以内

2 推進会議は、特定複合観光施設区域の整備の推進のために講ぜられる施策に係る重要事項について調査審議し、本部長に意見を述べるものとする。

3 推進会議は、前項の規定により意見を述べたときは、遅滞なく、その内容を公表しなければ'ならない。

4 本部長は、第二項の規定による意見に基づき措置を講じたときは、その旨を推進会議に通知しなければならない。

(出所:http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/6197147.html

IR推進法案が成立した後、担当省庁に設置される部署が中心となってカジノ合法化を具体的に実施に移すための実施法の作成にあたるワケですが、その官僚組織に向って意見を述べる主体として衆参両議院議員、および民間有識者の20名によって構成される会議体が作られるというのが現在の議連案です。一方、維新の会はその独自案においてこの会議体の設置に関する項目をゴッソリと全削除している。

維新側のカジノ推進派議員の筆頭格である小沢鋭仁議員はこの特定複合観光施設区域整備推進会議の設置に関して、そこに利害関係者が入り込む事が利権の温床となると主張しており、このような会議体の設置は必要ないというのが維新側の立場。専門家である私の目から見ても、維新の主張は非常に良いところを突いていると思っています。

本条項が定めているとおり、この会議体は「法の施行に係る重要事項の調査審議」を行なうなど、ただの諮問の枠を越えた権限が付与されています。しかも、その中には民間委員と合わせて国会議員までもが任命され、審議に参加するものとされている。ただ、当り前の事なのですが、法施行にまつわる様々な審議に関して本来は立法府である国会にその機能が存在しているワケで、わざわざ別の審議体を作ってそこに機能を持たせる意味はない。国会の本会議で扱えない詳細事項に関しては、国会内に設置される各担当の常設委員会が、常設委員会でも追いきれない場合にはそれらを集中審議する特別委員会を設置し、審議を行なってゆくというのが我が国における通常の立法プロセスです。

そのプロセスに反して別途、国会議員までもを含めた審議体を作るという現在の制度設計は、正直、非常に異様な形式。委員の選出も含めて、そこに様々な「思惑」が入り込むのは当然であって、私としてもこの部分に関しては維新が主張する「特定複合観光施設区域整備推進会議は不要」という論を支持せざるを得ない。一般の法制プロセスと同様に国会に特別委員会を設置して、公の場で各種重要事項の審議を行なうのが筋であろうと考えます。

ただね、これまでのIR推進法案の組成の内情をずっと見てきた私として可笑しくて仕方がないのは、これを今更のように維新の会が、しかも小沢鋭仁議員を筆頭に立てながら主張している点なんですよね。先述の通り、現在、議連案として存在しているIR推進法案は民主党政権下であった2011年に当時の議連の中核にいた民主党議員が中心となって作成したものです。そして、その法案作成を担当したのが、当時、民主党議員としてIR議連の幹事長の職にあった小沢鋭仁議員そのひと。それが民主党から転出し維新の会に所属した途端に、同党のカジノ賛成派議員を引き連れて「そこに利害関係者が入り込む」などとノタマっている姿は、放火犯が自分が起こした火事に向って「火事だ!!」と叫んでいるようなものであって、これをマッチポンプと呼ばずして何と呼ぶべきか(笑)

要は、IR推進法案におけるこの特定複合観光施設区域整備推進会議に関する条項は、与党にとって非常に都合よく作られているものであって、法案作成を行なった当時はそれで良かったものの、野党転落した現在となっては非常に都合が悪いものとなっているという事。元々、ご本人が作った法案ですから、そりゃどこに権力が集中し、どこが利権化するかなんてのは、ご本人自身が一番良くご存知ですわな。現・IR議連の中心にいる自民党議員の皆様としては、そういう皮肉でもぶつけながら維新との修正協議に応じるのが吉かと思われます。

もっと言えば、当時、小沢鋭仁議員の後ろで様々な知恵を吹き込みながら民間側のパートナーとして動いていた有識者連中なぞはとっくの昔に逃げ出しているワケで、冒頭でご紹介したような「今年の臨時国会で法案成立か!?」なぞといういい加減な情報を飛ばしながら世間の耳目を集め、新たな政権下における体制を何とか再構築しようとしている。要するに、個別で発生している様々な事象は、すべて繋がっているという事です。その辺に関しては、以前別途まとめた事があるので、下記リンク先あたりをご参照していただければ幸いです。

日本でカジノが合法化されない理由

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7756137.html

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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