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パチンコ税に対する正しい解説

木曽崇国際カジノ研究所・所長

えっと、何やら先の投稿で言及したパチンコ税創設の報道が、非常に大きな誤解をもって広がってしまっている感じがして、こりゃアカンという事で慌ててエントリを連投します。若干、技術的でヤヤコシイ話になるけど、なるべく判りやすく解説するつもりなので付いて来てね。

ちなみに前回の投稿を読んでない方は以下のリンク先からどうぞ。

「パチンコ税で2000億円」の皮算用

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8425390.html

まず、賭博、もしくはそれに類するモノ(以下、賭博と記す)の原則的な理屈を説明するならば、技術論としては色々な違いはあれども、原則的にプレイヤーから賭金を収拾し(パチンコにおいては貸し玉、以下すべて同じ)、一定の方式に基づいて払出す点では共通します。一方で、いずれの賭博行為においてもゲーム運営には様々なコストがかかっているワケで、胴元となる運営者はゲーム手数料として全体の賭金の中から一定比率を手元に残します。その時に、運営費用としてゲーム主催者側の手元に残される比率を控除率、そしてプレイヤーに還元される比率を払戻率と呼びます。

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で、今回のパチンコ税の基本的な考え方は、以下の産経ニュースの報道の中にも示されていますが、以下のようなものとなります。

「パチンコ税」創設浮上、1%で財源2000億円試算 政府・自民、法人税率下げ減収の穴埋め

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140622/plc14062209500004-n1.htm

政府・自民党内で、安倍晋三首相の主導で政府が決めた法人税の実効税率の引き下げに伴う税収減の穴を埋める財源の一つとして、パチンコやパチスロの換金時に徴税する「パチンコ税」の創設が浮上していることが21日、分かった。1%で2千億円の財源が生まれるとの試算もある。ギャンブルとして合法化する必要があるため異論もあるが、財源議論が活発化する中、注目が集まりそうだ。(太字は筆者)

上記の太字部で示されているとおり、現在検討が行なわれている徴税方式において、課税標準(課税の対象となる数字)はパチンコやパチスロの「換金額」とされています。現在のパチンコ業界における三店方式システムの元での景品買取行為(換金行為)は特殊景品と呼ばれる売却専用の景品を介在して行なわれるわけですが、現在の構想の下ではパチンコ店からの「払出し」という形で特殊景品を獲得したプレイヤが、それらを買取り所に売却する行為に対して課税が行なわれるわけです。すなわち、「換金をする」主体は一義的にプレイヤであり、「換金をさせる主体」は景品買取所。パチンコ事業者ではありません。

一方で、この報道に対する多くの方々の反応を見ていると、あたかもパチンコ事業者の売上(=貸し玉売上)に課税がなされるかの如く、壮大に勘違いしている意見が氾濫しているのが非常に滑稽です。以下、上記産経ニュースの報道に対して行なわれているtwitter上のコメント。

中には「パチンコ屋憎し」で「1%と言わず、もっと壮大に取ってやれ!」と拍手喝采している人もいるワケですが、繰り返しますがこのパチンコ税の担税者(税の負担者)となるのは一義的に換金をする主体である消費者たるプレイヤであり、この税の本質はタバコ税や酒税と同様に消費者に担税を求める形式の税金だということを認識して頂く必要があります。また、百歩譲って「換金させる主体」が担税をするとしても、それは景品買取所であってパチンコ事業者ではありません。

あと、今回のパチンコ税論議を、一方で論議されているカジノ合法化時の税制と比較してモノを語っているような人もいますが、コレも間違いです。パチンコ業界の売上捕捉方式が、プレイヤに玉を貸した金額の総額(賭金総額に相当)を「売上」として捕捉するグロス方式であるのに対して、カジノ業界の売上方式は「プレイヤの『賭金総額』から『賞金として払出した総額』を引いた差額(=控除額)」を売上として捕捉するネット方式です。そもそも課税標準となる「売上」の捕捉方式が違うワケで、これらを並列で比較して語ることはできません。

ということで、以上を判りやすくまとめて図にすると下のようなものになります。(あくまで簡略化した概念図です)

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もっと言えば、実はパチンコプレイヤにとっては、パチンコ税の新設と換金の法制化が実現せずとも、現状の景品買取制度さえ法解釈の中でOKとされ、三店方式が維持されてさえいれば、遊技環境には全く変化はないんですよね。また、景品買取所にとって現在提案されている制度案は、自らの業種そのものの存亡を脅かすような仕組みとなっています(この辺は非常にヤヤコシイ話なので説明はまた別の機会に)。

一方で、パチンコ換金の法制化を実現したいのは、それが法によって明文化されていない事で営業上、もしくは産業上の様々な制約を受けているパチンコ事業者側です。すなわち、今回のパチンコ税の創設とパチンコ換金法制化の構想は、「利益を享受する受益者と、それを負担する担税者が一致していない」という点でも、相当、論議を呼ぶ制度案となっています。先のエントリで言及した刑法解釈との兼ね合いとは別に、このあたりも必ず将来的に論点となってくるものと思われます。

あと、公営競技の控除率との比較の中で「25%取れ」とかコメントしている人も散見されますが、これも間違いです。公営競技は、「公営である」という性質上「控除=公の取り分」となっていますがが、それが右から左にそのまま公財源に充当されるわけではなく、「=税率」とはなりません。

例えば、その具体例として2013年の中央競馬による公庫納付金比率を挙げると、2013年中央競馬会は中央競馬による総売上、約2.4兆円の中から約2,500億円を納付金として納めています(参考)。競馬はあくまで公営の事業であるため法律上これを「税」とは呼ぶのは厳密には間違いですが、あえて「税率」という表現で中央競馬を語るのならば2013年における中央競馬事業の実効税率は馬券売上に対しておよそ10%と言い換えられます。一方で、競馬の売上総額から控除された25%のうち、残りの15%ほどがどこに行っているかというと主に競馬事業の運営費等として拠出されているんですね。すなわち、それを図として示すならば(こちらも、あくまで略式化した概念図だが)、以下のようになります。

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また、そもそも論として公営競技が提供するゲームと、パチンコ事業者(もしくは同様にカジノ事業者)が提供するゲームはその性質が全く異なるため、それを単純比較すること自体に意味がないとか色々な論はあるのですが、いずれにせよ公営競技の控除率である「25%」から、他の賭博種の税制における税率を論ずるのは間違いといえます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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