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カジノ合法化に向けてネガティブな情報を幾つか

木曽崇国際カジノ研究所・所長

IR推進法案の国会での成立を待たずして内閣官房に、我が国のカジノ合法化を検討する特任チームが作られることが各メディアによって報じられています。

カジノ施設整備へ内閣官房に新組織

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140719/plc14071908400015-n1.htm

菅義偉(すが・よしひで)官房長官は18日の記者会見で、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の整備を検討する新組織を内閣官房に発足させる方針を明らかにした。「特命担当の内閣審議官を置き、各省庁の出向者による態勢を整えて検討していきたい」とも述べ、政府を挙げてIRの推進に取り組む考えを強調した。

私自身はこのお話はすでに伺っておったわけですが、いずれにせよ我が国のカジノ合法化にとってはポジティブなニュースであるといえます。という事で、各メディアは「すわカジノ合法化か!」と、また何時ものように大騒ぎですが、一方でネガティブニュースも色々と私の耳には入ってきているわけで、必ずしも全面的にポジティブな展開というわけではありません。

その中で最大のネガティブなお話は、自民党の特に某法務族の有力議員を中心として、党内のカジノ合法化推進論を牽制する動きが出てきているなんて話が漏れ聴こえてきておりまして、しかもその議員グループが今後の法案審議のプロセスにおいてかなり重要なポジションを占めてしまっているという状況があります。このような法務族による牽制は、2011年、当時の民主党政権下でカジノ合法化の話が一気に動いた時にも同じく発生したものであって、私にとってはもはやお馴染みの動きです。

以前から繰り返しご紹介している、「民間賭博の合法化というIR議連が推奨している現カジノ法制化スキームが、賭博を禁ずる我が国の刑法規定と齟齬を起こしている」という奴ですが、刑法を掌握する法務省としては当然ながらこの種の案件に関して非常に慎重なスタンスにならざるを得ないワケです。一部のカジノ推進派は、何回同じ轍を踏んだら気が済むのか。。詳細に関しては過去に何度も当ブログ上で解説していますから、詳細は以下のリンク先をご覧下さい。

民営賭博の推進論者に答えて頂かなければならないこと

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8324128.html

正直、議連がさっさと「民間賭博の合法化」という変な看板を下ろして、現在の公営賭博の制度体系を守りながら民間の資金力とノウハウを100%活用できる公設民営制度の創出へと方針転換をすれば無駄な反対論は出て来ません。私個人としては、IR議連には「民営賭博案は悪手ですよ」という事は幾度となく申し入れをしているのですが、議連の後ろに付いている一部の有識者が「自分の提案した法制スキームが通らないとヤダ」的に意固地になっておりまして、もはやIR議連はそのスタンスを変更しようがない。民主党政権時代から数えて4,5年に渡って、カジノ合法化に対する障害を大きくし続けてきたのは、そのような民営賭博の合法化案を推し続ける専門家の面々ご自身なのです。

また、民主党の時代と違って、特に今回この辺りの論議が複雑怪奇になりつつあるのが、カジノ合法化の一方でパチンコ換金の法制化が自民党内において同時並行的に実しやかに語られている点です。例えば、産経新聞なぞは「遊技産業の視点」と題して行なっているパチンコ業界に関する連載の中で以下のようなコラムを報じています。

【遊技産業の視点 Weekly View】カジノ法制化がパチンコに影響

http://www.sankeibiz.jp/business/news/140726/bsd1407260500009-n1.htm

時代に適した風営法を求める議員連盟が画策する(換金法制化)案だが、原案はまぎれもなく特別立法案だ。パチンコがIR実施法のなかで、カジノと同じ民間賭博としてゲーミング規制法令に組み込まれる可能性が皆無というわけではない。換金をそのまま残して合法化するには手っ取り早い

カジノに足場を置く私なぞからすれば、迷惑以外のナニモノでもないパチンコ業界側の動きなワケですが、この点に関しても、私は何年も前から「民営賭博案を押し通せば、必ずカジノ合法化の障害として巻き起こる論議」と言い続けてきたワケで、ある面では我々業界の身から出たサビともいえます。

という事で、下手すりゃ今まで刑法解釈と風営法の規定に基づいて、「これは賭博ではありません。あくまで遊技です」と説明してきたパチンコが、新たな刑法解釈への改定によって急に「精査の結果、現行の刑法下でも民間賭博はOKでした。よって今日から遊技ではなく賭博とします」と、いきなりポジションチェンジしかねない展開。私の友人のパチンコライターPOKKA吉田氏が、7月13日に報じられた朝日新聞の取材にて、これを

「業界にとっては、憲法解釈で合憲としてきた自衛隊を改憲で国防軍にするような大転換」

(出所:http://www.asahi.com/articles/DA3S11239686.html

と評したのは「言い得て妙」といえましょう。さてさて、我が国のパチンコはこの先「国防軍」として認定され得るのか? 私の立場からすると、少なくとも刑法が明示的に賭博を禁止している以上、法改正なくしてそんなモンが出来るわけないだろという立場ですが、カジノが民営賭博として認められるのであれば、それがパチンコ業にも適用できぬ理由はないというのも一つの理屈。

この点は、今年下半期に始まる臨時国会において、大きなテーマとして語られることなるでしょう。勿論、現状は過去10年間において最もポジティブな状況にあるのは間違いないですが、カジノ合法化への道のりも、まだまだ前途多難です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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