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カジノ合法化で新たな依存症は生まれない

木曽崇国際カジノ研究所・所長

福島みずほ議員と糸数慶子議員が、「カジノ合法化反対!」をテーマにして対談をしています。以下、youtubeより。

糸数慶子さん対談:「カジノはバクチで、バクチは刑法犯罪です!」

https://www.youtube.com/watch?v=rrzSm3TdKwU

(09:58あたりから)

糸数:

あえてカジノがないところにわざわざ誘致して、もっともっと多重債務者を増やしてゆく、依存症を増やして行くのは、なぜ自ら自治体が手を挙げて招き入れなければならないのか不思議なんですね。

論議の中心は依存症の発生なワケですが、ここに対して推進側の立場で幾つか論点を投げ込んでおきたいと思います。

1)カジノは依存症発生の原因ではない

糸数慶子氏も福島みずほ氏も「カジノが出来ると依存症が増える」と主張をするわけですが、依存症発生の原因というものを勘違いされているような気がします。依存症の発生に置いて、「ギャンブルにハマル」ことはあくまで病気の「結果」であって、「原因」ではないですよ。

これは依存の対象物をお酒に置き換えてみると判り易いと思います。誰かがアルコール依存になったとして、その原因は「そこに酒があったから」なのでしょうか? それとも、お酒に逃げなければならない何らかの事情があったからなのでしょうか? この答えは明白で、人はそこに酒があるから依存症になるのではなく、自身の生活環境や職場、もしくは過去の体験やひょっとすると遺伝子の中に(最近の研究では依存症に遺伝的要因が関与しているという研究結果もあります)、お酒に嵌ってしまう要因があるからこそ、人はアルコール依存になるのですね。

それと同様に、ギャンブルに依存する人の話を良く聞いてみると、定年退職後の自分の居場所がない、子育てで行き詰まっているがその相談の先がなかったなど、依存症になる人達はそれぞれそこに至るまでの何らかの要因を持っているのですね。依存症の発生を抑えるためには、このような社会の中にある様々な負の要因を解消する事、もしくは困った時に相談に駆け込める先を作る事が重要なのであって、「ギャンブルが無くなれば依存症が無くなる」などという主張は問題の本質を正確に掴んでない、全く間違ったアプローチであるといえます。

2)依存症はカジノ導入により発生するコストではない

糸数氏も福島氏も、「推進派はカジノ導入による経済効果を煽るが、依存症の発生など社会コストの方が大きい」という論調を取るわけですが、全段の前提に基づくと「はたして依存症の発生をカジノ導入により発生するコスト」として数えて良いのかどうかに関して疑問が出てきます。

繰り返しになりますが、カジノは依存症発生の原因ではありません。すなわち、世の中で不幸にも何かに依存しなければならない状況にある人達は、カジノがある/なしに関わらず、すでに何らかの問題を抱えているといえます。カジノがなければパチンコへ、パチンコがなければ競馬・競艇へと、その依存の対象は容易に移行します。もっといえば、ギャンブルが身近になければ、アルコールへ、アルコールが身近になければ薬物へという形で、依存の「出口」を求めて対象を変えてゆく。このような症状は、精神医療の世界でクロスアディクト(複合依存)などと呼ばれています。

すなわち、カジノが出来る/出来ないに関わらず、依存症は発生し、すでに社会コストとして存在しているわけですから、依存症発生をカジノ導入によって生まれるコストとして数えること自体が間違いとなります。

反ギャンブルの立場にいる人達は、依存症の原因をギャンブルの存在そのものに求め、ギャンブルさえなければ社会は幸せになるというスタンスを取りがちですが、それは大きな間違いです。繰り返しになりますが、依存症というものは人の中に内在する様々な負の要因が折り重なり、依存対象物に「逃げ場」を求めることで発現するわけで、個別の依存対象物を排除したところで問題は何も解決しません。

むしろ、依存症問題の解決にあたって必要なことは、1)日々のストレスを上手に解消する術を国民に教育すること、2)何かしら困ったことがある人達がそれらを一人で抱え込まず、気軽に他者に相談できる環境を作ること、3)そして、ギャンブルに限らず何らかの依存の兆候が見えた場合には、早い段階で精神科に相談に行ける社会環境を整備すること。要は、依存を未然に防ぐ活動こそが、今、本当に必要な施策であるといえましょう。

そして、我々カジノ合法化の推進派は、早期にそれら施策を行なう対策機関を国の機関として設立すべきだと主張しているわけです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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