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「日本人はギャンブルにめり込みやすい」とした厚労省に聞きたいこと

木曽崇国際カジノ研究所・所長

時事通信が何やら厚生労働省の動きに関してあやしげな報道を行なっており、理解に苦しんでおります。以下、時事通信からの転載。

カジノ、日本人はNGに=依存症懸念で働き掛け―厚労省

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140819-00000007-jij-pol

厚生労働省は、海外からの観光客誘致の一環として政府内で検討が進むカジノ解禁に関し、ギャンブル依存症患者が増加する懸念があるとして、日本人の利用を認めないよう求めていく方針だ。安倍政権は内閣官房に検討チームを設け、米国やシンガポールなどの先進事例の調査に乗り出しているが、同省は関係府省に対し、解禁の場合も利用者は外国人観光客に限るよう働き掛ける。[…]

前置きになってしまいますが、私自身がこの記事を読んだファーストインプレッションとして、記事内の複数ヶ所に非常に大きな違和感をもっています。時事通信が、何も根拠なくこのような記事を書くとも思えないのですが、取材の過程で何かしら情報に尾ヒレが付いたり、捻じ曲がってしまったりしているのではなかろうかと思っているのが本音です。ただ、少なくともこのような形で報じられているわけですから、上記内容が正確なものである事を前提として以下は話を続けます。

上記記事の厚生労働省の主張によれば「日本人はパチンコなど、ギャンブルに比較的のめり込みやすい傾向が統計上見て取れる」ので、日本のカジノには日本人は入場させないように他省庁に働きかけるのだということです。

ここでいう統計とは、アチコチで引用されている2007年厚生労働省調査による我が国のギャンブル依存症有症率5.6%(成人男性9.6%、成人女性1.6%)という結果ですね。また、つい先だっては成人人口中4.8%という最新結果が発表されました。この数字は、多くが1~2%の間に落ちるとされている諸外国の有症率と比べると飛びぬけて高い数字であり、これをもって「統計上、日本人はギャンブルにのめり込みやすい」としていらっしゃるのであろう事は理解しています。

しかし、これに関して私の立場から2点ほど、厚生労働省に対して質問があります。

1)妥当な国際比較なのか?

実は、これは2007年に非常に高い有症率推計値を出した調査の中でも明確に述べられていることなのですが、そもそもここで使用されている有症率推計のスケールそのものが異なる文化圏における有症率の比較を行なうのに適したものなのか?という非常に根源的な問題があります。

例えば5.6%という推計値を出した2007年調査で使用されたのは修正SOGSと呼ばれる依存症の判定手法なのですが、この推計手法は脳内物質の分泌量や脳波の計測を行なったりといったような定量的な判定ではなく、非常に定性的なアンケート調査が有症率判定に使われます。例えば、SOGSでは、

「身内とギャンブルに関して口論になった事がありますか?」

「ギャンブル行為やその結果に対して罪悪感を持った事がありますか?」

といったような、回答者が属する文化的背景がその回答結果に大きく反映されてしまうような質問を投げかけ、YESの数を数えて有症判定がなされるワケですが、このような評価方法を使えば、伝統的に賭博そのものを「害悪」と考えているような文化圏における調査結果と、そうではない文化圏での結果に大きな開きが出てくるのは自明です。

この種のスケールによる判定結果は同一地域内における経年の傾向を追うには意味があるものの、異なる文化背景を持つ地域の傾向を相対比較するには適してないという事は、これまで多くの専門家が指摘し続けてきたこと。また、そもそもの厚生労働省の行なった2007年における調査内にも調査実施者自身の手によってこの点に関して明確に指摘がなされており、本調査の数字を調査実施者自身が「暫定値」と表現しています。

そこで厚生労働省に第一の質問なのですが、そのような専門家内での大きな論議がある事を貴省が知らないわけはないのを前提として、それを圧して統計上の国際比較を行い、また「日本人はギャンブルにのめり込みやすい」と日本国民の民族的特性に関する結論を導いた理由をご説明頂きたいです。

2)なぜカジノなのか?

そして何よりも判らない点が、上記の結論をもって切り込む対象が、なぜ「カジノ」なのか?という事です。貴省が行なった調査によって得られた「我が国のギャンブル依存症有症率が高い」という結論は、あくまで現状の我が国の社会環境の中から得られた結果です。そこに存在するのは競馬、競艇をはじめとする四公営競技、および類似するものとして宝くじ、サッカーくじ、そしてパチンコ、パチスロなどであって、カジノではありません。

国民の健康と福祉をつかさどる貴省が、もし国際統計比較の中で「日本人はギャンブルにのめり込みやすい」という判断し、日本国民がそこに入場できてしまうこと自体が問題なのだという結論を導き出したとするのならば、まずは現・統計上、依存の対象となっている賭博業種(および類似行為)に対してアプローチを行うのが筋。それを行なわずして、矛先をカジノに向け「日本人利用を認めないように関係省庁に働きかける」などというのは完全なる論理の飛躍です。

そこで第二の質問なのですが、なぜ現存する賭博種ではなくカジノに対して「日本人はNGとすべき」という結論を導き出したのか?もしくは、他の賭博業種に関しても同様の「働きかけ」を各府省に対しておこなってゆくのか?この点に、お答え頂きたいと思います。

最後に繰り返しになりますが、上記質疑はあくまで時事通信の報道内容が正確なものであるという前提で行っているもの。冒頭で申し上げたとおり、私自身はそもそも報道内容の真偽自体が怪しいなと思っている事は、改めて申し添えておきます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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