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最高裁、高裁判決を支持へ「外れ馬券は経費」

木曽崇国際カジノ研究所・所長

注目の裁判が確定する模様です。以下、朝日新聞からの転載。

外れ馬券購入費は「経費」 最高裁、確定へ

http://www.asahi.com/articles/ASH2L5PYJH2LUTIL033.html

独自の競馬予想ソフトを使って馬券を大量購入していた元会社員男性(41)の脱税事件で、外れ馬券を「経費」と認めて脱税額を大幅に減額した一、二審判決が確定する見通しとなった。最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)が3月10日に判決を言い渡すことを決めた。二審の結論を見直す際に必要な弁論を開かないため、二審判断が維持される公算が大きい。

本件は、2007~2009年の3年間に計約28億7000万円分の馬券を購入し、計約30億1000万円の配当を得、約1億4000万円の利益を獲得していた男性に対する裁判です。焦点となったのは馬券購入費用の28億7000万円の「扱い」であり、これまでの税制解釈上は馬券購入分のうち「外れた馬券」は経費としては認められず、経費として認められるのは当たり馬券の購入原資となった購入費用分だけでした。すなわち、この男性においては3年間の累積馬券購入分のうち約1億円程度しか「経費」として認められず、それを配当から差し引いた約29億円が課税標準額とされ、約5億7000万円を脱税したとして無申告加算税を含む約6億9000万円を追徴課税が課されていました。

一方でこの男性が3年間で出していた利益は1億4000万円であり、追徴課税をそこから差し引くと5億5千万円の赤字となるワケで(無申告加算税含む)、世の競馬ファンは「勝負に勝ってるにも拘らず、徴税で赤字とかフザケンナ」と怒り心頭であったワケであります。

ところが、今回の判決はそのようなこれまでの解釈を覆すもの。「外れ馬券は経費」という判決が確定することによって、この男性においては3年間で獲得した利益である1億4000万円に対する追徴課税のみで難を逃れたこととなります。取り急ぎヨカッタデスね。

但し、本判決はあくまで当該男性に限った特殊な判決であるという点は重要です。本男性は競馬の予想ソフトを使って継続的かつ大量の馬券購入を繰り返しており、この馬券購入手法が裁判上は「資産の運用にあたる」と判断されたが故の「外れ馬券は経費」という判決。一般の競馬ファンが行う馬券購入に関しては、これまでと同様の税制が適用されますので、その点はご注意ください。

一方で、この報道をtwitter上(@takashikiso)でご紹介したところ、宝くじの税制との違いに関して質問が出てきました。この点に関して解説します。宝くじによって獲得した当選金に関しては、実は我が国の「宝くじ法(当せん券付証票法)」は所得税の免除を規定しています。

第十三条 当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない。

このような規定があるために、宝くじの当選金に関しては、冒頭でご紹介したような税制問題が発生しえないワケです。これだけを見ると、「宝くじだけズルい」となりがちですが、忘れてはならないのは公営競技が標準控除率が25%であるのに対して、宝くじは50%という、そもそもの控除率の違いです。即ち、宝くじは控除率が高い代わりに、配当には所得税を課さないという形でバランスが取られているともいえます。

一応、この制度的整理に関しては、「結果予想」という行為が介入する公営競技と、予想は原則的に不可能である宝くじのゲームとしての性質差が根底にあるとされています。

即ち、公営競技はそのゲームに「結果の予想」という一種の技術介入性が伴う故に、同じゲームをしても「勝てる人」「負ける人」という差異が出てくる。だとするのならば、解釈上は競馬の賭け行為を「所得」として獲得することが出来る人間が存在することになるワケで、ならば勝った人間には所得税を課し、一方でそれを所得と出来ない人間(負ける人)には税を課さないという運用が必要であるという解釈です。

一方、宝くじというのは原則、それを購入した時点で万人が確率論上では同じ「負け額」を抱えるワケで、このゲームで所得を期待できる人は居ません。だとするのならば、ゲームの結果に所得税を課する必要はなく、そこで取得されない公的取り分は、くじを購入した時点で購入者により厚く控除をかける方が納付金の取得方法として効率的である…というのが通説的な解釈であるとされています。

「配当金に所得税を課される」という一点においては、公営競技は宝くじよりも虐げられているかのように見えてがちです。しかし、そこに至るまでの解釈を整理してみると、実は「負けた人は税を課されなくて良い」分だけ公営競技の方がプレイヤーにとっては優しい制度であると言えるかもしれません。

(但し、ここにチャリロトなどへの税制論が絡んでくると、またヤヤコシクなるのですが)

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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