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絶対に寄付してはいけない国立競技場24時

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:ロイター/アフロ)

みなさん、昨年国立競技場の建替え問題であれだけ世間を騒がせてくれた独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が、新年早々またヤラカシテくれましたよ。以下、産経新聞からの転載。

国民に寄付募集へ 建設費に充当 「10万円以上」の寄付者にはいすに名入れも

http://www.sankei.com/politics/news/160106/plt1601060012-n1.html

2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の建設費に充てるため、発注元の日本スポーツ振興センター(JSC)は国民から寄付を募る方針を固めた。多く募金した人には、観客席に名前を彫り込むことも検討する。

[…]政府関係者は「国や都の費用負担で競技場が完成する枠組みを作った後なら、寄付を募ることも理解してもらえる」と指摘。「国民全体で競技場を建設したという意識も醸成したい」と語る。JSCは1月に大成建設などと設計業務委託契約を結んだ後、寄付を募り、国の支出返納などに充て国の財政負担を減らしたい考えだ。

昨年起こった一連の国立競技場問題が、toto売上から毎年拠出される55億円を巡る文教族による利権再配分談義から引き起こされた問題であったという事は、散々当ブログ上で申し上げてきたとおりでありますが、それに懲りずに今度は「寄付」という形で国民から直接資金を収集しようとのこと。「国や都の費用負担で競技場が完成する枠組みを作った後なら、寄付を募ることも理解してもらえる」なる政府関係者のコメントが掲載されていますが、どこの国民が盗人に追い銭なんか与えると思ってるのか?という気持ちで一杯です。

国立競技場建て替えとtoto収益金に関する一連の問題指摘に関しては、以下のリンク先をご参照ください。

もっと言えば、実は国立競技場の建て替え予算の補填に関しては、これだけじゃないんですよ。実は昨年の年末に以下のような報道が行われました。以下、産経新聞より転載。

100円ビッグ4月発売 新国立競技場、財源確保へ新商品

http://www.sankei.com/sports/news/151230/spo1512300032-n1.html

2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の整備費確保に向け、スポーツ振興くじ(サッカーくじ)を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)が、コンピューターが無作為に結果を選択するくじ「ビッグ」で、現行商品より安い1口100円の新商品を16年4月から販売することが30日、関係者への取材で分かった。

[…]新国立競技場は建設財源確保が課題となっており、今回の新商品とは別に、くじの売り上げから競技場の財源に充てる割合を5%から10%に引き上げる関連法改正が議論されている。ラグビーやバスケットボールをくじの対象とすることも検討されている。

上記産経新聞はtotoくじにおける新たな賭け方式である「100円BIG」の新発売をタイトルに持ってきていますが、論議の順番として先行しているのは記事の後段にある「くじの売り上げから競技場の財源に充てる割合を5%から10%に引き上げる関連法改正」の部分です。

前段にて「本国立競技場問題はtoto売上から毎年拠出される55億円を巡る文教族による利権再配分談義から生まれたものである」としましたが、この55億円の根拠は2013年制定の改正日本スポーツ振興センター法にあります。2013年に改正されたこの法律は、現在年間1100億円あるtotoくじ売上の最大5%を文科大臣と財務大臣が協議した上で指定する「特定業務」へ流用することを認めるもの。この特定業務勘定は、本来その使途に関して第三者委員会の審査が入るハズのtoto収益金から予め資金を分離し、「国際的なスポーツの競技会の招致」という大義名分さえ立てば、意思決定者たちが自由に利用できる「打ち出の小槌」化しているものであります。

【toto売上金の使途 概略図】

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詳細に関してはこちらの過去記事を参照

このようにして生まれた毎年55億円の拠出金を巡って、「オリンピック誘致」の名目で本来必要とされていない機能を競技場内にガンガン詰め込み、関連事業としてホテルや劇場までもが組み込まれたJSC自身の本部ビルを建設し…という形で予算が膨れ上がった挙句に破綻をしたのが前・国立競技場の建て替えプロジェクトであったワケです。

また、前出のとおりこの特定業務勘定は、一旦、財務大臣と文科大臣の下で指定が行われてしまえばその後の拠出金の具体的使途に関してその適切性を「審査」をする主体は存在しませんから、結局そこに誰も責任を取らない。JSCは「文科省の指導の下で進めてきた」と言い、文科省は「あれは独立行政法人の事業だ」と言い、建て替え計画を主導した有識者会議は「我々に決定権はない」といい、財務省は「使途詳細まで監督する権限がない」という。

「自由に使える。でも誰も責任を取らなくていい」

それがこの特定業務勘定の建て付けなワケです。そして、この流用幅を現在認められている最大5%から、さらにその2倍となる10%へと引き上げようとする計画は、国立競技場問題が勃発する前から関係各所の間で共有されてきたものであり、その法案を今月4日に始まったばかりの今国会に提出しようというのが先の産経新聞の報道の大前提にあるものであります。

ただ、その流用の比率を単純に増やしてしまうと、当然ながら法に定められたtotoくじ収益の本来的な用途に使うお金が減ってしまことになります。そうなると、今度はそちら側の受益者から不満が挙がってきて、ひいては法案に対する反対論に繋がってしまいますから、少なくともそちらに回る「比率」が落ちたとしても、その「金額」が落ちないようにtotoくじ全体の売上を大きくする必要が出てきます。

そこで必ず出て来るのが、新たなtotoくじの発売という発想。実は、このような思考過程は2013年のスポーツ振興センター法の改正によって特定業務勘定が新設された時にも起こったものであり、その結果、当時はサッカーくじへの海外リーグの採用が併せて論議され、実現しました。

今回の流用幅を5%から10%に引き上げる計画にあたっては、当初は「野球くじ」の導入が検討されてていたものでありますが、昨年別所で起こったプロ野球選手の野球賭博問題でその計画がご破算になります。その後出てきたのが、神風的に発生したラグビー日本代表の活躍とそれにあやかったラグビーくじ構想であり、一方で2016年にBリーグを開始し、自前の専用競技場がどうしても欲しいバスケットボール協会がこれまたtotoからの資金拠出を狙って「バスケくじ」を提案した。その辺りの顛末は、以前、別エントリでご紹介したとおりであります。

国立競技場問題の総括もないままに、しめやかに「バスケくじ」構想が発進

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9105418.html

ただ、「ラグビーくじ」も「バスケくじ」も未だ構想が始まったばかりの段階で実現段階にはなく、当面の資金不足の補てんにはならない。そこで手っ取り早く売上を増やす手段として文科省が中心となって企画したのが「100円BIG」であり、これは法改正の必要のない新商品ですからこの4月からスタート、と。。ただ、私は、自身の賭博研究者としての矜持をかけて、声を大にして言いたいのです。

いつからtotoは、こんな一部の権益者の玩具のような存在になったのか? こんなグダグダな状況下で「なし崩し」的に様々な事案が進んでゆくのを、当たり前のように許して良いのですか?

ということを。

泣いても笑っても当初予算から大幅に増加した国立競技場の建替えコストは発生してしまうワケで、寄付を募るも、流用幅を増やすも、新たなtotoくじを作るも究極的には仕方のない部分はあります。ただ、いずれの論議を進めるしても、まずは国立競技場問題の発端であり、完全にモラルハザード状態に陥っているtotoくじ収益における「特定業務勘定」に関する正しい対処を行ってください。それがなければ、第二、第三の国立競技場問題が必ず発生する。。というか、既に第二の問題の火種が見えつつある。(例:バスケットボールの専用競技場構想等)

という事で、以上を心からの叫びとして訴えさせて頂いた上で、本稿を閉じたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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