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読売巨人軍にコッソリとお教えしたい「賭博/祝儀/罰金」の違い

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

読売巨人軍の数々のショウモナイ「言い訳」のお陰で、怒髪天を衝きまくった挙句、己の頭がハゲ上がるんじゃないかと日々心配で仕方がありません。

昨日のエントリにも書いた「巨人軍選手全員がチームの勝敗に現金のやりとりをしていた」という問題に対して、読売巨人軍の森田清司・総務本部長は以下のように申し開きを行っているようです。

●試合前に組んだ円陣で「声出し」をした人間に、試合に勝ったら選手全員が5000円を支払い、逆に試合に負けたら「声出し」した人が全選手に1000円を支払う

→【巨人軍の説明】勝敗のいずれかに賭ける行為ではなく、チームの士気を高めるという、野球協約が禁止する敗退行為とは正反対の目的があり、お金のやり取りは小額で、験担ぎの色合いもあり、賭け事とは全く異質

(出所:サンケイスポーツ

そういえば以前はこんなのも有りましたね。

●練習中、同じ組でノックを受ける選手に対して、互いにエラーをした数だけ1万円を支払う

→【巨人軍の説明】選手が技術向上を目指し、厳しい練習のモチベーションを維持するため、かなり以前から自然発生的に行われていたもので、賭博行為とは性質が異なる

(出所:週刊文春

要は、前者は「ご祝儀」であり、後者は「罰金」なのだから賭博ではないというのが巨人軍の認識のようですが、素晴らしいコンプライアンス意識と言うべきか、何と言うべきか。さらに言えば、私のところに「監督賞や勝利ボーナスと何が違うんだ、このクソ馬鹿」などと凸ってくる巨人ファンと思しき人々も居るわけで、さすが「紳士たれ」を標語とする巨人軍は、選手・ファン共々みなさん同様に紳士なんだなぁと感動もひとしおなワケです。

ただ非常に残念ながら、巨人軍や外野が、必死に「賭博とは違う」釈明を行っている事案は法的にはすべて違法な賭博行為にあたるものと思われます。

これは、これまでも何度かエントリ内で説明してきたことですが、それが「ご祝儀/罰金」であるか「賭博」であるかの境目は、ゲームの勝敗で付与される財物の流れが「双方的であるか/一方的であるか」の違いです。例えばご祝儀、罰金の財物の流れを図解すると以下のように、一方向にしか財物が流れないものとなっているんですね。

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選手の業績に応じて支払われる監督賞や勝利ボーナスというのは、まさに上図でいう所の「祝儀」にあたるスキームであり、「業績に応じて一方的に選手が貰うだけ」という形式である限りは、これは賭博とはみなされません。

ただ、これが若干トリッキーになってくるのが、以下のようなスキームのゲームも、主体Aと主体Cが完全なる第三者である限りは「賭博ではない」と見なされるという点。具体的に言えば、例えばプロゴルフの賞金大会などは、このスキームで合法のものとして成り立っています。

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実はあまり知られていませんが、プロゴルフの賞金大会というのは、多くの場合がエントリを行うゴルファー自身がそれぞれ最初に数万円のエントリー料を支払う仕組みになっているんですね。ただ、そのエントリー料はあくまで大会を運営する主催者の「売上」として計上され、大会運営費として費消される。一方、大会賞金というのはこの主催者とは異なるスポンサー企業が拠出する褒賞であるワケで、上図の「主体B」の視点では一見、「偶然の結果により財物の得喪を争う」という賭博の定義に当てはまるようにも見えますが、法的にはセーフであるとされています。(但し、繰り返しの確認となりますが、この際の主体A、主体Cは直接的な利害関係のない第三者である事が必要)

一方今回、巨人軍で発覚したレギュラー選手のほぼ全員が関与していたと見られる、「声出し」と呼称される行為は、以下のような構図。

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勝った時に「声だし」を行った選手にチームメイト全員から5000円が支払われるというだけならば、巨人軍が説明しているようにご祝儀の範疇となりますが、負けた時に逆にチームメイト全員に千円を支払うというオプションが付いている時点で、財物の移動に双方向性が生まれてしまいご祝儀の範疇を超えてしまいます。

一方、今月冒頭に報じられた、守備練習中に同じ組でノックを受ける選手に対して、互いにエラーをした数だけ1万円を支払うとされる「ヘビ万」なる行為ですが、これを図解をすると以下の通り。

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ヘビ万に関しては、単独の選手が第三者に向かって「エラーをしたら貴方達に1万円を支払います」と宣言をしてノックを受けるだけならば、巨人軍が説明している通り賭博とは異なる「ただの罰金制度」となりますが、一方で同じ組で順番にノックを受ける事が前提となっている選手同士が、エラー毎に互いに1万円を支払うという構図になった時点で、上図の通り選手間の財物のやり取りに双方向性が生まれてしまい賭博となってしまいます。

と、いうことで「声出し」にしても「ヘビ万」にしても、そこに参加してしまった選手は誹りを免れ得ないワケですが、何よりも最悪なのが各種問題に対する読売巨人軍の対応です。

勿論、これを「賭博」と認めてしまった時点で自チームの多くの選手が野球協約第180条に定められる「賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止」に抵触し、最悪チームの主要選手が軒並み処分対象となってしまう可能性が出て来る故の「強弁」なのでしょうが、一連の問題となった行為に対して何やかんやと言い訳を積み重ねて「賭博ではない」というスタンスを意地でも崩さない。状況としては野球協約の遵守の為に、刑法の定める賭博罪の解釈を無理やり捻じ曲げている状態でありまして、巨人軍のフロントの皆様に対しては改めて「貴方達にとっての『コンプライアンス』とは一体、何なんでしょう?」と問いかけざるを得ない状況であります。

この巨人軍の論調を突き詰めてゆくと以下のような状況になってしまうワケで、全国の野球ファン達の「鑑」であるプロ野球選手、もしくは球団としてのスタンスが、そのようなもので良いのでしょうか?と改めて疑義を呈したいと思います。

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追伸:

阪神でも巨人と同様の問題が行われていたそうです。もはや一部の球団のみならず、野球界全体の問題ですね。以下、ニッカンスポーツからの転載。

阪神でも円陣「声出し」やノックで現金やりとり

http://www.nikkansports.com/baseball/news/1617021.html?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=nikkansports_ogp

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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