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「チンチロリン・ハイボール」に見る我が国におけるギャンブル教育の必要性

木曽崇国際カジノ研究所・所長

先の水曜日にBS-TBSで放送された討論番組「外国人記者は見た!日本inザ・ワールド」に出演しました。以下、番組情報。

外国人記者は見た!日本inザ・ワールド

  1. 27 実は賭博大国!ギャンブル好きの日本人

http://www.bs-tbs.co.jp/gaikokujinkisha/20160420.html

スポーツ界で相次いだ賭博問題。 本音と建て前を使い分ける日本人の ギャンブル観を外国人記者はどう見る? ゲスト:木曽 崇(カジノ研究家)

上記番組内でも滔々と訴えさせて頂いたワケですが、我が国日本はイギリスと並んで世界にも稀にみるギャンブル大国でありながら、あまりにもギャンブルの「リスク」に関する基礎教育が不足しています。昨今、スポーツ選手の賭博問題で大騒動となっていますが、実はギャンブルに対する基本的な教育が不足しているのはスポーツ選手だけの話ではなく、我々日本人全体の問題です。

我が国では、義務教育期間中に酒やタバコに関するリスク教育が行われるよう文科省の定める学習指導要領に指定されていますが、一方でそれらと同様に「大人になってからリスクをキッチリ理解しながら嗜むべきもの」とされている賭博に関しては、一切のリスク教育が為されていないんですね。一方で、世に出れば合法、非合法に関わらず賭博性を持つ遊びというのもの溢れているワケで、昨年発生したプロ野球選手、そして今回発生したバドミントン選手に例を見るまでもなく、当然のように「賭博との付き合い方」を間違えてしまう人間がそこに発生するワケです。

一方、昨日のことでありますが、オフィス近所の初めて入った食堂でランチを喰っていたところ、以下のようなプロモーションを見かけ、改めて「ギャンブルに関するリスク教育」の必要性を感じた次第です。

画像

こういうのを見ると、私としては溜息をつくしかないのですが、この商品を「プロモーション」と称して平気で掲げている店が普通に存在している事自体が私の指摘する「ギャンブルリスク教育」の不足の象徴です。

現在、文科省が定める学習指導要領では中学数学において確率を教えているようですから、少なくともこの国で教育を受けている限りは、サイコロを二つ振って「ゾロ目」、「遇数(ゾロ目以外)」、「奇数」が出る確率は一応、皆が理解をしているハズです。

ゾロ目:6/36

偶数(ゾロ目以外):12/36

奇数:18/36

ただ、ギャンブルにあまり馴染みのない多くの人は、上記のサイコロの「出目」の確率がギャンブルリスクの判断に繋がっているという事を理解していない。例えば、このお店の通常のハイボールの値段は350円ですから、それぞれのシナリオで発生しうる客の支払いは、店側の観点から見ると以下の通りになります。

ゾロ目:6/36 →0円

偶数(ゾロ目以外):12/36 →175円

奇数:18/36 →700円

このゲームから期待される収益は、すべてのシナリオにおける発生確率とその時に起こる結果の「積の総和」、即ち非常にシンプルに表現するのなら「横に数字を全部を掛け合わせた上で、更にそれを縦に足し合わせる」ことで求められます。よって、このゲームの期待収益は:

6/36*0

12/36*175

+)18/36*700

----

408.33

即ち、このゲームは通常価格350円で提供されているハイボールを実質408.33円で販売するという商品であって、少なくともプロモーションには全くなっていないわけです。

後で聞くところによると、このチンチロリン・ハイボールなるゲームは、巷の居酒屋では結構広く存在しているようで、通常は「奇数が出た場合には料金が二倍、かつ二倍に増量」というルールが採用されている模様。おそらく私がランチに入った店の経営者は、この一般的なチンチロリン・ハイボールのルールを誤って導入してしまったのだろうと想像しますが、これが何の違和感もなくメニューに載せられ、通常価格のハイボールと並んで商品として存在してしまっている事自体が冒頭で述べたとおり我が国のギャンブルリスク教育の不足を象徴しているとも言えるでしょう。

ちなみに、実はこのような基本的なギャンブルリスク教育の必要性に関しては、昨年4月に行われた衆院文科委員会における下村大臣(当時)の答弁で、文科省として検討に着手するというコメントが既に為されております。その後、国立競技場の建替え問題のゴタゴタで大臣が馳大臣へと変わってしまったワケですが、当時の文科大臣答弁の内容は堅持した形で、ひき続き文科省の方での検討を進めて頂きたいと思います。

【参考】文科省がとうとうギャンブル依存教育の検討着手

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8794366.html

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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