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京都市長「京都では観光が活況なのに、市の税収はまったく伸びてない」のミスリード

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

以下のような京都市長によるコメントが日経ビジネスオンラインに掲載されております。以下、本日更新の日経ビジネスから。

京都では観光がとても活況なのに、市の税収はまったく伸びていません。(門川 大作 京都市長)

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/246215/051700239/?n_cid=nbpnbo_twbn

その理由は宿泊施設や飲食店といった観光業で働く人の75%が非正規雇用であることと無関係ではないと考えています。製造業は非正規雇用の比率が30%です。観光業の非正規雇用の比率がこのままだと、持続可能な産業ではなくなるような気がします。観光は京都にとって基幹産業でもありますから、何とかしなければならない。

京都市長によれば「京都観光が活況なのに市の税収が伸びないのは非正規雇用中心の観光産業のせいだ」とのことでありますが、私からすれば不可解極まりないのですよ。そもそも長期休暇とその他の期間、休日と平日と繁閑差が非常に大きくなってしまう観光産業が、非正規雇用中心となるのは産業としての宿命であって、それを「在庫」という概念のある製造業と比べて非正規比率が高い/低いという論議を行う事自体が非常にナンセンスな話です。

勿論、この繁閑差は一日の中にも存在しており、例えば観光業界の中核にある宿泊業種などは、お客様がチェックアウトをしてから次のお客様を迎えるまでの10時~15時にどうしても局地的に労働人員(客室清掃員)が必要となる。これら労働需要を支えているのは、例えば子供を学校に送り出してから彼らが夕刻に帰ってくるまでの間に働いているパートの主婦(主夫)の方々。即ち非正規雇用者であるわけですが、これはこれで事業者側と労働者側の受給がマッチした雇用形態なのですよ。

それを、どっかの労働組合の如く、ひとからげに「非正規が悪い。正規化せよ」と批判の対象にするなどというのは、観光都市・京都の首長とはとても思えぬ発言…と思いましたが、そういえば京都は左派系の労働団体の政治的圧力が非常に強い「お国柄」でしたね。それはそれで、京都の首長らしい発言であるのかもしれません。

また、京都市長の発言が根源的にオカシイのはそもそも消費税の中には地方消費税分が含まれておって、域内に観光客が沢山来て金を落とせばその発生元となる京都市に税収として還ってくる仕組みになっているのです。にもかかわらず「観光客が増えても、税収が増えてない」とするのならば、寧ろ何かそこに別の問題があるのではないか?と考えるのが筋であるワケです。

…という目で、京都府の発表している観光統計を見てみたのですが、京都市長が本件を完全にミスリードしているという事実が判りました。

京都市の観光客数と観光消費額(平成26年 vs . 平成25年)

画像

出所:「観光入込客数及び観光消費額」(京都府)を元に筆者編集

残念ながら平成24-25年の間に統計の取得手法に変更があったようで平成24年以前の数字がないのですが、例えば平成26年と平成25年の二か年の観光統計を比較すると上記のようなものとなります。

・観光客数自体は前年度比7%増

但し、その増加の中心は日帰り観光客 (9.5%増)であって、宿泊客(2.5%増)ではない。

・観光総消費額自体は前年度比8.9%増

但し、一人あたり消費額を見ると宿泊客消費が32,630円(H25)から35,872(H26)に増加しているのに対し、日帰り客消費は7,096円(H25)から6,670円(H26)へと下がっている。

京都市長のミスリードは、第一に「税収が増えていない」という発言。上記の統計を見ると、日帰り、宿泊を合わせた観光消費額は前年度比で8.9%と増えていますから、少なくとも京都市に還元される地方消費税収は増えているハズ(但し、地方消費税の市町村還元分は独特の計算手法で出すので増加分が即反映するワケではないが)。また、地域観光が活気付くことで域内不動産価格が上昇すれば必然的に京都市が得る固定資産税収が増えますから、地方消費税以外の部分でも税収は増えているハズです。京都市長が何をもって「京都では観光が活況なのに、市の税収はまったく伸びてない」と主張しているのかが全く判らないですし、もし本当に税収が全く伸びていないのだとすると観光以外の原因で税収が伸びていないだけなのではないでしょうか?

京都市長のミスリード(その2)は、京都市内の観光産業の抱える問題点を「非正規雇用比率」という全く別のところに求めている点。上記観光統計が非常に象徴的に示しているのは、平成26年から平成25年にかけて宿泊客の一人あたり消費額は32,630円から35,872円へと増加しているのに対して、日帰り客の一人あたり消費額が7,096円から6,670円へと大きく減少している点です。

もし、京都市長が市の税収が「思ったより」増えていないという意味で冒頭の発言を述べているのだとすれば、この部分が原因。観光客の中で最も大きな構成比率を占めているのが日帰り観光客ですから、この部分の消費額が減ってしまえば「一見客が増えているようにみえるが、実は見た目ほどは儲かってない」という状況が生まれます。実はこのような状況は、今、全国の多くの観光地で見られ始めているものであり、先日個人的に訪れた日光の観光業者の方も同様の感想を述べていました。

さて、実は本日まで日光に居たのだが、現地の観光業者曰わく「外国人客数は増えたけど、世界遺産(東照宮)を見て帰るだけ。ホテルは素泊まりでコンビニ飯だし、土産も殆ど買わないし、地域への経済貢献は殆どない」と。頭数(あたまかず)で観光振興を語ったらダメな典型例。

出典:twitter

京都も日光も、いわゆる歴史観光資源を「売り」とする観光地でありますが、歴史観光というのは観光客数は稼げても実は観光消費を誘引するのは非常に難しい観光資源であるというのは常々私も当ブログで申し上げてきたところ。京都市もまさに、同様の問題に直面しているのではないか?と思っておるところです。京都の観光振興に関しては、以前、以下のようなエントリを書いたことがあるワケですが、京都市長は観光業界の雇用構造なんぞを意味も分からず批判してないで、このような地元商業者の声をもうちょっと細かく拾ってゆくべきではないでしょうかね。

祇園はテーマパークじゃない:「儲ける観光、儲かる観光」の必要性

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9153003.html

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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