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公営賭博の信頼はどこに?度重なる「ばんえい競馬」の不正行為

木曽崇国際カジノ研究所・所長

またも発生してしまいました。以下、十勝毎日新聞からの転載。

自浄能力に疑問の声 ばんえい騎手携帯持ち込み

http://kachimai.jp/article/index.php?no=201666132558

帯広市主催のばんえい競馬で、騎手2人が帯広競馬場内の調整ルーム(騎手が外部との接触を防ぐための専用施設)に携帯電話を持ち込んでいた問題は、昨年12月に発覚した厩舎(きゅうしゃ)関係者による違法な馬券購入問題を受け、再発防止策に取り組み始めた矢先に起こった。規範意識が欠如する厩舎の関係者だけでなく、市の管理態勢や責任の在り方も問われている。

ばんえい競馬といえば、記憶に新しいのが昨年12月に判明した競馬法違反(違法な馬券購入)容疑事件です。騎手を含む厩舎関係者らが競馬法によって禁じられている自らが所属する競技の投票券を購入し、十数名にもおよぶ逮捕者が出たという地方競馬始まって以来の前代未聞の大事件でありました。

関係者自らが所属する競技の投票券を購入しないこと、騎手がレースの前日から携帯電話の所持を含めて外部とのコンタクトを絶つことなどは、競馬が八百長等から隔離され適正に運営されている事を担保するための措置であり、ファンの信頼を維持する為に必要な行為としてすべての公営競技はもとより、totoくじの賭け対象となっているJリーグ選手までも含めて一律で採用されているルールです。

その信頼が完全に失墜してしまう事となったのが昨年起こった競馬法違反事件であり、ばんえい競馬の施行者である帯広市とばんえい競馬場は、この3月にファンの信頼を回復する為の再発防止策を発表し、信頼失墜行為の根絶を宣言したばかりであります。

ばんえい十勝オフィシャルサイト

【重要】競馬法違反事案に係る再発防止策

http://www.banei-keiba.or.jp/topics/post-310.html

平成27年12月11日、帯広市ばんえい競馬きゅう舎関係者による競馬法(法第29条勝馬投票券の購入等の制限)違反の疑いにより、帯広警察署による関係者への捜査が入り、平成28年2月1日、釧路地方検察庁帯広支部に書類送検されました。

これは、競馬法第29条第8号の規定により「地方競馬に関係する調教師、騎手及び競走馬の飼養又は調教を補助するもの」については、全ての地方競馬の競走について、勝馬投票券の購入又は譲受が禁止されており、これに違反した疑いとなるものです。

このことを教訓とし、このたび、今回の事案に限らず、信用失墜行為を根絶するため、再発防止策を策定いたしました。今回の競馬法違反事案を含め、ばんえい競馬の信頼回復に向け、この再発防止策をもとに、帯広市、調教師会、騎手会をはじめとする、ばんえい競馬関係者が一丸となって、決意を新たにし、取り組んでまいりますので、今後とも全国のばんえい競馬ファンの方々、市民の皆様のご支援、ご声援をいただきますようお願い申し上げます。

以上が再発防止策の発表当時にばんえい競馬場から発された公式のメッセージでありますが、文末の

"ばんえい競馬の信頼回復に向け、この再発防止策をもとに、帯広市、調教師会、騎手会をはじめとする、ばんえい競馬関係者が一丸となって、決意を新たにし、取り組んでまいりますので、今後とも全国のばんえい競馬ファンの方々、市民の皆様のご支援、ご声援をいただきますようお願い申し上げます。"

なる文言がもはや白々しいというか、なんというか。。

一方で、実は昨年度のばんえい競馬はこのような公営賭博の信頼そのものを棄損する重大な法律違反が発生したにも関わらず、過去最高益を出してしまうなど全くもって「自浄」が働くような環境になかったのが実態。

ばんえい売上げ過去最高更新へ 2億円の黒字確保

http://kachimai.jp/article/index.php?no=339167

何しろばんえい競馬の売上はその施行者である帯広市の財源でありますから、本来は問題追及すべき立場にある市政や議会全体が、その好調な売上を維持したいがために「何とか穏便に済まる」方向にしか動かない。先の競馬法違反が発生した当時、関連する質疑の行われた議会発言の中でも「せっかく好調な売上が…」とか「そもそも給与が低いから違反が起こるのだから待遇改善せよ」などと、全く持ってナンセンスな質疑答弁が地元市議によって展開される始末でありました。

【参照】度重なる公営競技での違法賭博:ファンは不買も辞さぬ構えで臨むべき

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9231707.html

しかし、昨年ばんえい競馬が最高益を出したのも、すべては全国の皆様が行っているネット投票の売上が好調だからに過ぎません。当該競馬場は、つい5年ほど前までは積みあがった赤字によって廃場寸前の状況にあった競馬場なのであって、本来、帯広市単体ではもはや存続が不能であった競馬場なのです。

そのようにして全国の競馬ファンによって、ある意味「支えられてきた」競馬場が、その売上が好調になってしまったが故に自浄作用が働かないような状況なのであれば、逆に外から圧力をかけてゆくしかない。先の事件が発生した時、私は競馬ファンの皆様に向かって、この種の信頼失墜行為に関しては「ファンは不買も辞さぬ構えで臨むべきだ」と論じたワケですが、改めて皆様には「今の」ばんえいに金を落とすことが果たして適切なのかどうか、について再考して頂きたいと思います。

正直、こんな不正の絶えない競馬場なんかに金を落とさずとも、世の中にはその他に沢山の地方競馬場がありますし、中央競馬もボートも競輪もオートもありますよ。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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