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ポケモンGOは、スマホ版「ポケモン・スタンプラリー」に過ぎない

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:ロイター/アフロ)

ポケモンGOの世界的大ヒットに伴って、絶対こういう論調がすぐに出て来るだろうなと思ってたら、続々と出て来ましたよ。以下、各社報道の転載。

「ポケモンGO」識者が分析「10兆円規模、リニアに匹敵」

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2016/07/23/kiji/K20160723013019440.html

ポケモンGO 自民党IT戦略特命委員会、ポケモンで地方創生、任天堂に要望へ

http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/160722/plt16072218220017-n1.html

夏休みは鳥取砂丘でポケモンGO 「ゲーム解放区」宣言

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160725/k10010607751000.html

ポケモンGOで被災地に観光客を 宮城県知事

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160725/k10010607851000.html

私自身もAR(拡張現実)ゲームの集客ツールとしての可能性は今回のポケモンGOの前身(?)となったIngressの時代からジッとその動向を注目をしてみてきました。ただ、このARの地域振興や観光振興に対する効果というのは未だ検証が不十分な分野であり、上記のように「流行りものにすぐに政治が飛びつく」のではなく、もう少し冷静かつ落ち着いた論議&分析が必要なわけです。

例えばIngressでは、神奈川県横須賀市や岩手県などでゲーム連動の観光振興施策なども打たれ、当時、それなりの話題にはなっていましたし、ゲーム提供会社であるNiantic側が定期的に仕掛ける「イベント」などもあり、それなりの数のゲームファン達が全国を大移動をしていたわけです。

【参考】

Strategy Base for Ingress in Yokosuka

http://www.cocoyoko.net/ingress/

岩手県庁ゲームノミクス研究会(旧岩手県庁Ingress活用研究会)

http://www.pref.iwate.jp/kouchoukouhou/031399.html

ただ、上記のような自治体の取り組みも含めて私自身が思ったのは、結局、ARゲームで誘引される観光客というのはゲーム内で獲得される褒賞(アイテム)を一義的な目的として集まるものであって、その誘客がリアル世界側での観光消費に直接繋がるかというと実はそうでもなさそうだな、ということ。特にIngressに代表されるような位置情報と連動したARゲームというのは、そのゲームの仕様上、プレイヤーがどこかの観光地に場所を移したとしても彼らは一日中ゲームに張り付いてグルグルと移動しているだけ事が多いんですよね。

こういう観光客と言うのは、我々、観光業界で言うところの「周遊観光客」に該当する観光客であり、元々一人あたりの観光消費額はそれほど大きくなく、リピート率も非常に低い。それに輪をかけて、前出の通りARゲームで誘客される観光客は一義的にゲーム内での褒賞を目的として集まっていますから、ご当地で獲得されるゲーム内アイテムを入手してしまえばそれで満足してしまう事が多く、別にリアル世界側で「お土産」を改めて買う必要なんかない。横須賀でかつて行われたIngressイベントなんて、色々なレポートを見ていると結局日帰りで来訪している人も多く、そうなるとそこから生まれる観光消費は非常に限定的なものとなってしまいます。結局、観光客の頭数(あたまかず)は沢山集まるのかもしれないが期待されるほどの観光消費が生まれていないように見受けています。

もっと言えば、Ingressにおいてもそれをより明確に商業的な集客装置として利用しようとする試みというのはあって、ローソンなどはいち早くゲーム提供元のNinanticと提携を行い全国店舗を「レアアイテム・スポット」として指定するなどしていましたが、それら展開が商業ベースに乗ることはありませんでした。それ故に、Ingressは「商業的には大失敗したゲーム」とまで言われているワケで、現時点においてポケモンGOも結局ゲームの仕様がプレイヤーの移動とゲーム上アイテムの獲得に(今のところ)限られていますから、実はそれほどIngressの時とプレイヤーへの消費誘発の効果は変わらないかな、と。まぁ、ポケモンの場合は夜半や早朝にしか獲得できないキャラクターなんかを登場させて前泊分の観光消費を期待するなど、もう少し工夫のしようはあると思っていますが。。

ポケモンGOの兄弟であるイングレスが「大失敗」と言われてしまう理由

http://bylines.news.yahoo.co.jp/tokurikimotohiko/20160722-00060232/

ということで、ポケモンGO、そしてその前身となるIngressは、ゲームとしては革新的なものでありまた世界的なヒット商品であるのは確かですが、観光振興・地域振興的な観点で見れば今の所、スマホを片手にグルグルとその辺を移動して廻ってキャラをゲットして帰ってくるだけのスタンプラリーと変わらないもの。もしこのゲームが「それだけ」で終わってしまうものならば、毎年全国のJRさんがやってる「ポケモン・スタンプラリー」と振興効果の中身は変わらないワケで、それで儲かるのは消費者の「移動」で儲かる交通業者のみ。そんなものはJRさんがNinanticと組んで勝手にやって頂ければ良いものであって、ワザワザ地域が観光振興や地域振興などという仰々しい看板を立ててやるほどのモノではありません。

即ち、このブームを観光振興・地域振興として利用しようとするのであれば、ゲーム人気に「ただ乗り」するだけの発想ではなく、AR空間内での観光行為をリアル世界の需要に置き換えるような工夫を何かしら用意して臨まなければならない。特に政策としてそこに公金拠出を行う場合は、そこに投入されるコスト(含む人的コスト)に対してそこから期待される観光消費総額がどれだけ具体的に想定できるのかの検討がかかせないという事です。冒頭でご紹介した各自治体や政府与党の反応をみると、かつてのクールジャパンブームの時に全国の自治体や各省庁が一斉に「アニメ(マンガ)で観光振興・地域振興を」とか言い始めた時と同じような「臭い」がしてくるのですが、その点に関してはもうちょっと落ち着いた論議を積み重ねる事が必要であると思われます。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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