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ギャンブルで世界遺産保全の財源確保!?「世界遺産宝くじ」

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:伊藤真吾/アフロ)

こういう発想が、むしろ文化観光の推進をしている側から出て来るというのは、私としては非常に喜ばしいことであります。以下、京都新聞からの転載。

「世界遺産宝くじ」で保全の財源確保を 連携会議が事業計画

http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20160830000131

世界文化遺産がある自治体や観光関係者らでつくる「世界文化遺産地域連携会議」は30日、東京都内で総会を開き、世界遺産を守る財源を確保するため「世界遺産宝くじ」の創設を政府に求める方針を決めた。会長の門川大作京都市長は、世界遺産を取り巻く現状について「保護する予算や遺産の特質に合わせた支援策は不十分で、行政の縦割りなどの課題がある」と説明した。

このことは私自身が方々で何度も繰り返し申し上げてきていることでありますが、文化観光、エコツーリズムというのは伝統的に振興が叫ばれる観光形態でありますが、それら自体が沢山の観光収益を生み出すワケではありません。

そして、その究極とも言えるのが「世界遺産」でありまして、依然として全国では世界遺産登録を目指す動きが各所で起こっておりますが、そこに登録が行われたとして国際条約上(世界遺産条約)の「保全義務」は負わされることはあっても、そこに特別な保全予算が充当されるわけではないのです。それどころか、遺産の保全の為に人間の立ち入りを制限する必要性なども出て来るのが世界遺産の本来的な制度目的である「保全」の考え方でありまして、世界遺産というのは「そもそも」そういう制度であり、それを理解した上で登録の必要性を訴えるべきものであるワケです。

観光業界のモンドセレクション化した「世界遺産」に疑問

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8063566.html

一方、世の中では依然として世界遺産という制度を観光振興の一手段として「利用しよう」とする言説というのは根強く存在しているわけで、だったら本来は東京都が設定しているような「宿泊税」を徴取するなどして、それを利用しようとしている観光業界側が財源を拠出しろ、というのが筋論ではあります。ところが、地域の観光業者としては、当然、宿泊税などは払いたくはなく、結局、行き付いた先が宝くじ、すなわちギャンブルによる財源獲得であったワケです。

このような特定の目的をもった宝くじの販売というのは制度上は認められておりまして、最近では今月17日に東京都が「五輪協賛宝くじ」というものを発売しました。その売上の一部は、当然、東京五輪の整備費用にあてられることとなります。

東京五輪を応援、宝くじあす発売(朝日新聞 8月16日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12513555.html

そして、この考え方をより発展させて考えてゆくと出て来るのが、私自身が主張するカジノ財源を利用した「循環型の観光推進体制の確立」となります。以下、拙著「日本版カジノのすべて」の記述より。

例えば統合型リゾート周辺の観光施設の強化や、それこそ前出の統合型リゾートから周辺地域にアクセスする公共交通網の整備などにカジノ税を使うこともできるでしょう。[…]この発想のもとでは、カジノから獲得される公的財源を周辺観光の魅力向上に利用し、地域にさらなるお客様を呼び込むことが可能です。その施策によって次なる観光客が地域を訪れ、その一部がカジノを利用することで次なる政策財源を生みます。これが、「循環」発想のカジノ税収の使い方です。

カジノに反対する人達というのは、殊に文化や自然をカジノと対立する対立する概念として捉え、「日本はギャンブルなんかではなく、独自の文化や自然を中心とした観光立国を目指すべき」といったような主張を取りまわすことが多いのですが、実は別にギャンブルと文化や自然というのは対立概念でもなんでもなく、両者が互いに補完しながら繁栄するモデルというのは存在するわけです。

私は賭博業界の専門研究者として、世界文化遺産地域連携会議の提唱する 「世界遺産宝くじ」構想を支持して行きたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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