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名古屋が「観光都市」を目指す愚行

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

「地域の特色ある発展」なんていうお題目は地域振興の世界では遥か昔から掲げられてきた標語でありますが、結局、地域行政がこうやって総花的な政策方針しか打ち出せないから「地域の特色」なんてものがなくなってしまうのですよ。以下、朝日新聞からの転載。

「行きたくない街」は名古屋 市自ら調査、つらい結果に

http://www.asahi.com/articles/ASJ8Z51Q9J8ZOIPE01N.html

国内主要8都市で、名古屋は「行きたくない」街ナンバーワン。名古屋市が「ライバル」7都市と比べた魅力度を各都市で調査したところ、そんな結果が出た。「名古屋が日本を支えている」。河村たかし市長はイメージアップへ号令をかけるが、前途は険しそうだ。[…]

市は6月、東京23区と札幌、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡の7市に住む20~64歳を対象にインターネット調査を実施、各都市から418人ずつ回答を得た。どの程度行きたいか尋ねて指数化すると、名古屋は「1・4」。首位京都(37・6)の27分の1という結果となった。  「最も魅力的に感じる都市」に名古屋を選んだのは全体の3%で最下位。首位の東京23区(22・4%)の7分の1だった。「最も魅力に欠ける都市」は大阪市(17・2%)を引き離し、30・1%に上った。[…]

名古屋城が有名なことから、河村氏は「都市の一番重要な誇りになる」と持論の天守閣木造復元を力説した。大村秀章愛知県知事は「愛知県民は黙々と仕事をして『観光はええわ。来たけりゃ来い』という雰囲気があったのは事実だ。それがいかん」と分析。2027年に予定されるリニア中央新幹線の東京―名古屋間開通に期待感を示した。

朝日新聞の論調は、全国主要8都市で取得されたアンケート調査の結果により名古屋がダントツで「行きたくない街ナンバーワン」という不名誉な称号を得たというニュースから、行政側の主張する観光振興政策の必要性に展開するというものとなっています。しかし、この報道を見て私の中に沸々と湧き出て来るのは、日本有数の「モノづくり大国」たる中京圏を代表する都市・名古屋が、なぜ今更「観光都市」を目指さなければならないのか?という大きな疑問です。

「地域の特色ある発展」というのは、総花的な政策を実行するのではなく、地域の特徴に合わせて力点を付けた政策選択をしましょう、ということであります。日本で最も「工業」に軸足を置いて発展してきた中京圏を代表する都市・名古屋が、「観光」の観点からみて必ずしも良い評価を得ないというのは寧ろその地域の特殊性を前提とした「選択と集中」の結果なのであって、正直「だから何だ?」と笑い飛ばして良いレベルの話でしかないハズなのですよ。

ところが、愛知県知事と名古屋市長がガンクビ揃えて「こりゃ、アカン」と。名古屋市長に至っては、市民の血税を500億円も投じて名古屋城を復元するなぞという計画を持ち出し、アリもしない経済効果を延々と語るというなんというお粗末さ。「んなもん、大阪なり姫路なりに任せとけよ」としか申し上げようがないワケです。

【参考】名古屋城復元、最大504億円 市長「理にかなう値段」

http://www.asahi.com/articles/ASJ3Y62HCJ3YOIPE029.html

「地域の特色ある発展」というのは、安倍政権の掲げる地方創生政策の胆となる標語でもあるワケですが、「選択と集中」が苦手なこういう地方行政の総花的な政策方針によって、地域の特色というのは失われてゆくのですね。その結果、全国に出来るのは「何でもあるように見えて、特筆すべきものは何にもない」そんな特徴のない都市であります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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