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消費者庁が賞金制ゲーム大会に法令適用判断

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:ロイター/アフロ)

さて、先のエントリ、そしてその前のエントリと私がここ数か月に亘りeスポーツの賞金制大会を巡って消費者庁とやり取りを行った法令適用の確認手続きのやり取りをそのままご紹介しました。本日は、その総括をしたいと思います。未だ、過去エントリを読んでいない方は以下のリンク先から。

【参照】賞金制大会を巡る法的論争、消費者庁からの公式回答アリ

(その1)(その2)

1. 参加料積み上げ型

世界のeスポーツ大会ではEvolutionなどのように、大会参加者の参加料を積み上げ、それを原資としながら賞金を提供する形式の大会があります。 しかし、この種の賞金制大会は少なくとも我が国においては刑法賭博罪に抵触する違法な行為となります。

我が国において参加者の参加料を積み上げて成績優秀者になんらかの「褒賞」を提供する場合には、刑法185条の例外規定として定められている「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない」に当てはまるもの、すなわち現在の法的解釈に基づけば1万円以内程度の日用品に留めておく必要があります。現金を褒賞として提供する事は、1円からでも「違法」となります。

2. 第三者によるスポンサー制賞金大会

参加者、および当該イベントと完全に利害関係のない「完全なる第三者」が協賛する形で賞金を拠出する形式においては、大会賞金を現金で提供する事が可能であり、またその上限金額もありません。また、実はこういう形式の賞金制大会においても、その参加料が大会の運営費を充足する為に使われる(=賞金に積み上げられることがない)限りにおいては、大会参加者から参加料を取ることも可能。

実はゴルフの賞金制大会などは、スポンサー企業が成績優秀者に賞金を出しながら、一方で大会そのものの参加料として数万円程度を参加者から徴取し、それで運営費を賄うという方式が採られていたりします。当然ながら、こういう形式の大会はeスポーツにおいても実施可能です。

(※ちなみに上記2点は消費者庁の所管する景表法の規制範囲外にあるものですので、あくまでカジノ研究者としての私自身の法令解釈として読んでください。)

3. ゲームメーカー自身が賞金を拠出する大会

そして、本項目が先のエントリ、その前のエントリで私自身が消費者庁に対して法令適用の有無を確認した内容です。ゲームメーカー自身が賞金を拠出する場合、そのゲームの性質、もしくはその課金スタイルによって以下の2つにケースが判れるようです。

1)有料プレイヤーが大会において有利になると考えられるゲーム

大会で賞金を獲得するにあたって、有料プレイヤーの方がその他のプレイヤーと比べて有利になってしまう形式のゲームに関しては、その賞金の提供が「商品取引に付随する経済的価値の提供」にあたると判断され、景品表示法の規制対象となります。この場合に設定可能となる賞金は、景表法およびその関連法令の規定に基づき「元商品の取引価額の20倍の金額、もしくは当該金額が10万円を超える場合には10万円」が上限価格となります。

ここでいう「有料プレイヤーが有利になる」の意は:

ゲーム技術の熟達のためには繰り返しのゲームプレイが必要であり、その前提としてゲームソフトの購買(家庭用ゲームなどの場合)、もしくは繰り返しの都度払い課金(アーケードゲーム機などの場合)が必要となるゲームの他、スマホや一部PCゲームに採用される基本プレイ無料(free to play)型のゲームにあたっては課金者が無課金者と比べて競争上有利になる(pay to win)タイプのゲームなどが含まれるようです。

ちなみに、アーケードゲームに関してはプレイヤーがゲーム料金を支払っている先はあくまでゲームセンターであり、大会賞金を提供しているゲームメーカーとは異なる主体であるという抗弁も成り立つのではないかという意見もありますが、景表法の運用の中では

「自己の供給する商品又は役務の取引」には、事業者が製造し、または販売する商品についての最終需要者に至るまでの全ての流通段階における取引が含まれる(「景品類等の指定の告示の運用基準について」3(1))

という規定があり、少なくとも現時点においては消費者庁からはアーケードゲームとその他のゲームの取り扱いを法的に区分するような判断は出ていません。

2)有料プレイヤーが大会において必ずしも有利にならないゲーム

一方、スマホや一部PCゲームに採用される基本プレイ無料(free to play)型のゲームの中には、ゲームへの課金がプレイヤーによる競争上の有利/不利を生まないタイプのゲームも存在します。その代表格がゲーム内のスキン販売等で課金をするタイプのゲームですが、この種のゲーム大会に対するメーカーの賞金拠出は景品表示法の規制対象にはならず賞金上限が無制限となるようです。またいわゆる「スタミナ制」の採用で一定以上のボリュームのゲームプレイに課金がなされる場合であっても、大会ルール上、過去の課金状況が競争上の優劣に反映されないと判断されるゲーム形式の場合には、同様のルールが適用されるとのことです。

番外編:間に中間業者を立てた賞金拠出

ちなみに現在、行われている一部の賞金制ゲーム大会においては、賞金および大会実施を取り纏める中間組織を間に立ててゲーム大会を実施し、成績優秀者に対して間接的に賞金を提供する形式の大会が執り行われています。この点に関して、今回の消費者庁との遣り取りの中では残念ながら直接的な法令適用の有無の判断は出されていません。

一方、実は弊社が行っている上記とは別事案における法令適用判断の確認においては、中間的なサービス業者を立てて提供される「経済的な利益の提供」においても、提携元の事業者と一般消費者の「関係性において」それらが景品表示法の規制範疇に入る場合がある、との判断が出ている事案も存在します。この場合には、中間に居るサービス業者そのものには法的リスクは及ばないものの、その提携元となる事業者にはリスクが及んでしまう場合があるようですので、その点に関しては注意が必要であろうと思われます。

また、ここで行った一連の法的検討はあくまで私と消費者庁の間で行った個別、具体的な事業計画に対する法令適用の有無に対して、私自身が一般論としての法的解釈を加えたものです。消費者庁自身はその判断にあたって、

本回答は、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134条。以下「景品表示法」といいます。)第4条の規定を所管する立場から、照会者から提示された事実のみを前提に、景品表示法第4条の規定との関係のみについて、現時点における見解を示すものであり、もとより、捜査機関の判断や罰則の適用を含めた司法判断を拘束するものではないことを付記します。

としていることをご理解頂ければ幸い。また、本検討においてはゲーム大会への賞金拠出に限った法的検討を行いましたが、この他にも景表法上は大会会場内でその他の商業行為が行われているかどうか、その主体は誰か、はたまた大会告知の手法や参加要件など、様々な置かれている環境によって法令適用の有無の違いが生じてきます。さらに言えば、この種の大会の開催は景表法のみならず、風営法などその他の法律との兼ね合いも出て来るものでありますので、実際の大会実施にあたっては必ずそれぞれの分野の所管当局に直接相談を行って頂くようよろしくお願いいたします。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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