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カジノとの共存!?大阪万博の誘致先に「夢洲」

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

大阪府市が大阪のカジノ誘致候補用地として既に指定している夢洲を、同様に2025年誘致を目指す万博の誘致候補として指定するというニュース。以下、朝日新聞の報道より。

大阪万博の誘致先、「夢洲」に集約 カジノと共存狙う

http://www.asahi.com/articles/ASJ9N7SFGJ9NPTIL03G.html

大阪府が誘致を目指す2025年の国際博覧会(万博)について、府と大阪市は21日午後、湾岸部の人工島「夢洲(ゆめしま)」(大阪市此花区)の約100ヘクタールに会場を集約させる方針を正式に決める。ただ、府市は夢洲にカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致も目指しており、限られた面積で「二兎(にと)を追う」ことに課題は多い。

ただね、朝日新聞さんの論調は、ちょっと違う様な気がするんですよね。

そもそもこの夢洲は、2008年に大阪にオリンピックが誘致されることを見込んで何故か先行して埋立をしてしまった広大な遊休地。ところが当時、同じく2008年のオリンピック誘致を目指していた北京に敗れ、全く使い道が見込めなくなった広大な用地であります。この広大な用地は、その後マトモな使い道がなく完全に府政の「お荷物」化していたワケですが、この夢洲の次なる使い道が決定したのが2014年。当時、大阪府市の合同で開催されていた「大阪府市IR立地準備会議」で決定された、「カジノ誘致先」としての指定でありました。

当時このことを報じたロイター通信は、大阪府によるコメントとして以下のようにレポートをしています。

大阪府によると、埋め立て工事完了後の夢洲の全体面積は391ヘクタール。うち170ヘクタールが将来活用用地に位置付けられている。物流関連施設や運動広場などがすでに立地する舞洲と異なり、夢洲は一般的なIR敷地面積の2倍以上の土地が活用できる利点があるほか、東京の湾岸部に比べ地価も安い。

(出所:http://jp.reuters.com/article/idJPL3N0N404H20140414

ところがです。当初は夢洲のカジノ立地としての「利点」であると上記ロイターでも報道されていた「一般的なIR敷地面積の2倍以上の土地」がその後、民間の開発事業者から不評を買います。その理由の一つが開発用地として「大きすぎて逆に手に余る」ことでした。

実は、大阪府のカジノ立地検討が行われた当初、関西圏のカジノ市場規模というのは過剰評価がなされた推計値がアチコチで使用されてきました。その根拠となったのが、「日本のカジノ市場は2~3.5兆円にも達するのだ」とする大阪商業大学商経学会論集(第5巻、第1号)に掲載された「カジノ開設の経済効果( 佐和良作・田口順等)」という論文。

この論文の問題点に関しては私自身は何年も昔から推計モデル上の間違いを指摘してきたワケですが、残念ながら特に関西圏においてはあたかもこの実際の市場規模の2~3.5倍程度も大きく見積もられた推計値がさも正しいかのような受け止め方をなされ、それを「参考値」としながら様々な論議が行われてきたのが実情です。結果、関西経済同友会などは昨年1月に夢洲全面を使って開発を行う、以下のような関西版統合型リゾートプラン(推定開発コスト:2兆円)なども発表しました。

ところが前出の通り、実際に大阪府市が夢洲をカジノ開発用地として指定してみたところ、これが「広すぎる」として民間事業者側への「ウケ」が非常に悪いのです。

それもそのはず、先の巨大な開発プランを示した関西経済同友会が今年に入ってから改めて関西のカジノ市場規模を試算し直したところ、関西圏での統合型リゾートの年間事業規模は5500億円程度であり、そこから逆算して算出される開発投資予想額は6759億円程度であるということが判明。すなわち同団体が先に発表を行った推定2兆円規模の巨大開発プランの半分にも満たない投資額しか実際は見込めないことが判明したわけであります。その辺の顛末は以前書いたことがあるので、別エントリを参照。

そして、当初想定していたものよりもかなり下回ってしまったカジノ投資の不足分をある種「補う」ものとして急に持ち出されきたのが、実は今回の万博誘致候補地としての指定であります。

万博の誘致候補地に関しては、カジノ論議とは別に昨年に大阪府内に設置された検討会合(国際博覧会大阪誘致構想検討会)において論議が続けられてきましたが、当時の論議の中では1)万博記念公園、2)服部緑地、3)花博記念公園、4)舞洲、5)大泉緑地、6)りんくう公園、の6地域が候補地として検討されており、夢洲に関しては全く言及が為されておりません。

その万博誘致候補地の中に急に夢洲が浮上したのが今年5月のこと。松井知事は昨年から積み上げられてきた有識者による検討会合での論議を完全に根底から覆す形で、万博誘致の検討を夢洲を軸に進める方針を発表。そして、今回、これが最終候補地として決定されるとの一報が流れて来たわけです。

【参考】25年大阪万博誘致、会場「夢洲」軸に検討 知事が方針

http://www.asahi.com/articles/ASJ5P04WVJ5NPTIL02M.html

よって、冒頭でご紹介した「限られた面積で二兎(にと)を追うことに課題」という朝日新聞の表現は必ずしも本件に関しては正しくありませんで、寧ろ「カジノには広すぎた面積に、万博を後付けて無理やり詰め込んだ」と表現するのが正しいものと思われます。

これによって、何とか夢洲が持つ100ヘクタールを超える広大な遊休地の利活用プランが出そろい、府政のお荷物とされた夢洲の有効活用が見えてきたわけですが、ここには新たな悲劇がまた生まれつつあります。その点に関してはまた次回のエントリにてご紹介したいと思います。(つづく)

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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