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内閣府消費者委員会:パチンコ業界に「終了のお知らせ」か?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

何やらドえらい事が起ころうとしているようです。昨日twitter側で、あるフォロアーさんから「内閣府消費者委員会がスマホゲームに対する意見書を出すようなのでコメント下さい」というご要望を頂いたんですね。当然、見に行くわけじゃないですか。そうしたら、消費者委員会からこんな文書が開示されているワケですよ。

スマホゲームに関する消費者問題についての意見

~注視すべき観点(案)~

http://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2016/233/doc/20160920_shiryou2.pdf

前段の「相談件数が増えてる/減ってる」という話に関しては、メディアが問題を大きく取り上げれば相談件数は大きく増えたり、それが下火になれば減ったりするもの。正直、被害の多寡とその害悪性を正確に現しているものとは思ってないので個人的には話半分程度にしか読まないわけですが(これは警察庁の通報件数も同じ)、注目すべきはその後に消費者委員会が示している「今後注視すべき視点」の部分であるわけです。

例えば「アイテム等の出現率やアイテム等を取得するまでの推定金額については、利用者に適切に情報提供されることが望ましい」という提案を含む「利用環境の整備」に関連する項目は、ゲーム業界を纏める業界団体であるCESAやJOGAに対する自主規制の徹底を求めているものとして読み取れます。また、風営法との兼ね合いに関しては「スマホゲームについては上記営業に該当するぱちんこ等とは異なって、物理的設備を設けて行われるものではないことから、現行の風営法の規制の対象とはならない」と現行法制に沿った原則的な解説をしつつも、「現時点においては、スマホゲーム利用による上記法の目的にあるような悪影響が顕著ではないところであり」という修飾をそこに付すことによって、「今は規制外だが将来的には判らんぞ」という牽制を業界に対して行っている様が見て取れるわけです。

消費者委員会としてはこういう意見書を出すことによって、業界に対して「これ以上踏み込むな」という一定のラインを示しながら、「当面は静観しますよ」というメッセージを送っているワケで、業界にとっても非常に意義ある意見書であると思うのですが、私として一見してギョッとした記載が以下の部分であります。

(電子くじの賭博罪該当可能性)

以上を踏まえると、一般論として、スマホゲームで見られる電子くじは、専らゲームのプログラムによって排出されるアイテム等が決定されることからすれば、上記「賭博」にいう「偶然性」の要因を満たしていると考えられる。また、上記「財産上の利益」の解釈に加え、有償で入手したオンラインゲーム内のアイテムを詐取した事案につき詐欺罪の成立を認めた下級審判決18があることなどからすれば、アイテム等については「財産上の利益」に当たる場合もあり得るところである。

実際に電子くじが賭博罪に該当するか否かについては、上記「財産上の利益」該当性に加え、「一時の娯楽に供する物」該当性等も含め、事案ごとに判断されるものである。電子くじで得られたアイテム等を換金するシステムを事業者が提供しているような場合や利用者が換金を目的としてゲームを利用する場合は、「財産上の利益」に該当する可能性があり、ひいては賭博罪に該当する可能性が高くなると考えられる。

スマホゲームに関わる事業者は、アイテム等の転売等の換金を規約等において禁止しているものも見られるが、引き続き、事業者、消費者ともにこうした観点を踏まえて行動することが望ましい。

この辺の表現は、ガチャと並んで業界内で問題視されているアイテムの現金売買(RMT)行為を念頭において記載されているもの。具体的には、今年冒頭にグランブルーファンタジーと並んでソシャゲ業界大炎上のキッカケの一つとなったDonuts社の公式RMTアプリのリリースを受けたものだと思われます。Donuts社の当該アプリに関しては私自身が年初に書いたコラムがYahoo!ニュースに掲載された事が炎上のキッカケになった事もあり、何やら「戦犯」的な扱いを受けている部分もあるのですが、ニュースで大きく報じられたことでDonuts社は当該サービス自体をすぐに停止するという対処を行うことで事なきを得ました。

消費者委員会としては、この種のソシャゲ業者によるRMT公認の方向性に対して、上記文言によって「オマエラ判ってんだろうな」と睨みを効かせようとしているワケです。

と、ここまでのソシャゲ業界に対する各種牽制は良しとして、上記、賭博罪に触れた消費者委員会の意見は別のところに甚大な影響を与えそうな様相でありまして…。その対象となるのが、本エントリの表題でも記載したパチンコ業界であります。今回、消費者委員会は電子くじによって獲得されたアイテムの換金に対して以下のような解説を付しています。

電子くじで得られたアイテム等を換金するシステムを事業者が提供しているような場合や利用者が換金を目的としてゲームを利用する場合は、「財産上の利益」に該当する可能性があり、ひいては賭博罪に該当する可能性が高くなる

パチンコ業界では、消費者がゲームの結果に基づいて獲得した景品を別所で売却することで、消費者がそれらを疑似的に「換金」する、いわゆる「三店方式」と呼ばれる景品流通システムが「公然の秘密」として存在しています。この三店方式、一般的には「警察が業界との癒着の中で黙認している」などという表現をなされる事が多いのですが、実際はそれを規制する枠組みと法令解釈というのが存在しております。

例えば、以前、過去のエントリの中でもご紹介したことがある昨年6月に提出された小見山幸治議員(民主党[当時])によるパチンコ三店方式の合法性に関する質問主意書に対して、政府は「内閣総理大臣 安倍晋三」名で以下のように答えています。

ぱちんこ屋の営業者以外の第三者が、ぱちんこ屋の営業者がその営業に関し客に提供した賞品を買い取ることは、直ちに風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二十三条第一項第二号違反となるものではないと考えられる。もっとも、当該第三者が当該営業者と実質的に同一であると認められる場合には、同号違反となることがあると考えられる。

(出所:答弁書第一五二号内閣参質 一八九第一五二号)

即ち、少なくとも政府が示している風営法上の法令解釈においては、賞品買取りをする事業者の「第三者性」が担保されている状態であればそれは違法とはならず、逆にそこに第三者性が存在しない場合には違法になることがある。これが少なくともパチンコ業界において、これまで存在してきた三店方式の基本的な法令解釈であり、パチンコ業界における景品買取はこの法令解釈を元にシステム構築が為されてきたものであります。

一方、これは上記の質問主意書をご紹介した当時のエントリ内でも言及したことですが、実はこの政府答弁は小見山議員の問うた「三店方式の合法性」に関して、風営法の法令解釈の立場からしかその合法性に関して言及をしていません。即ち、三店方式の合法性を問うにあたってもう一方で懸念される、刑法第185条に定められる賭博罪との兼ね合いに関して言及を避けているというのが実態でありました。(詳細解説はリンク先を参照

ところが今回、消費者委員会から発されている意見書では、あくまでソシャゲ業界のRMTを前提としながらも、政府が答弁を避けた刑法上の法令解釈に踏み込んでいるわけです。

消費者委員会は、本文書において「賭博罪に該当するか否かについては、事案ごとに判断される」と断わりを入れながらも、刑法上の適法性判断は「事業者自身が換金システムを提供しているかどうか」という風営法上の解釈でも見られる「買取り事業者の第三者性」のみならず、「利用者が換金を目的としてゲームを利用しているかどうか」というプレイヤー側の利用目的も問われ、その内容次第では「賭博罪に該当する可能性が高くなる」とまで意見しているわけです。

繰り返しになりますが、上記はあくまで消費者委員会が「事案ごとに判断される」との断りを入れた上で、ソシャゲアイテムのRMT行為に関しての刑法上の法令解釈に意見したものでありますが、状態としては「ソシャゲ業界を牽制するために威嚇射撃をしかけた弾が、関係のないお隣の業界の脳天を撃ち抜いている」という状態になっており、私としてはワクワクドキドキが止まらないわけであります。

本文書は未だ消費者委員会からの(案)として示されているものであり、正式な行政文書として発布されているものではありませんが、これがこのまま正式な意見書として採択されるのかどうか。息を呑みながら見守りたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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