Yahoo!ニュース

LINEスタンプお年玉企画:景表法違反か?刑法賭博罪も際どい

木曽崇国際カジノ研究所・所長

Facebookの方で以下のようなサービスに関して情報提供がありまして、さすが天下のLINEさんは怖いもんなしだなと思った次第です。

お年玉袋付きスタンプ発売=抽選で1等100万円―LINE

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161215-00000157-jij-bus_all

LINEは15日、無料対話アプリ「LINE(ライン)」を使ったお年玉キャンペーンを実施すると発表した。お年玉袋が付いた「年賀スタンプ」を1種類当たり120円(税込み)で販売。お年玉袋を受け取った相手が画面をタップすると、抽選で1等100万円~4等10円の現金が当たる。

お年玉袋の付いたスタンプを120円で販売し、それを送られた相手が空くじなしで100万円~10円を獲得すると。。普通の企業さんなら相当躊躇する企画だと思うのですが、これを大々的にキャンペーンとして行うあたり流石、現在飛ぶ鳥を落とす勢いの企業さんは違います。

で、本サービスに関する私なりの所感ですが景表法違反の可能性は濃厚です。景表法は、規制対象となる景品類に対して以下のように定義しています。

景品類とは、顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって、次に掲げるものをいう。[…]

一 物品および土地、建物その他の工作物

二 金銭、金券、預金証書、当せん金付き証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券

三 きよう応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)

四 現役、労務その他役務

ここで非常にトリッキーなのが、実はこのLINEさんのお年玉企画、お金を払う人はスタンプの送り元、その結果、100万円~10円の経済上の利益を受ける人はスタンプの受け手、すなわち金を払う人と利益を得る人が異なるのでここに定められる「取引に付随」にあたらないのではないか?という主張です。そして、私のお答えは「ハイ、この点においては恐らく景表法の規制対象にはあたりません」というものになります。

一方でそれでもなぜ私がこのサービスを景表法違反の可能性が濃厚とみているかと言うと、実はこの賞金の受け取りが「お年玉を受け取るには、決済機能LINE Pay(ライン ペイ)を導入する必要がある」と要件づけられていること。すなわち、ラインスタンプの購買という意味では賞金の受け手となる人は景表法のいうところの取引の相手方にはあたりませんが、賞金の受け取りに必ずLINE Payを使わなければならないとした時点でこの賞金の受け手はLINE Payのユーザー、すなわちLINEにとっては取引を行っている相手方となり、この賞金が法の定めるところによる「顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず」行われる経済上の利益の提供と判断される可能性が高くなります。

一方、LINE Payで賞金を「受け取る」だけなら手数料も無料だし「取引」とは言えんのではないかという反論もここに出て来ることは予想に難くないのですが、実は景表法における「取引に付随する」という概念は、「取引を条件とする」よりもかなり広い定義として捉えられており、「取引に関連する」と同様の意味に解されています。すなわち、そこに実際の金銭取引が行われているかどうかは実は問題ではなく、LINEをインストールしてLINE Payの使用にあたって必要な設定を行うことを賞金の受け取りの要件としていること自体が実は景表法上は取引に付随する行為として解される可能性が高い。

そして、その行為が景表法の規制対象となった時点で、そこで提供できる賞金上限は景表法の定める「元商品の取引価額の20倍の金額、もしくは当該金額が10万円を超える場合には10万円」が適用されますから、最高賞金が100万円とされているこのお年玉付きスタンプは景表法違反と可能性が濃厚であると言えます。

一方、さらにこのサービスで問題となるのは刑法賭博罪、もしくは富くじ罪の適用有無の論議。まず大前提としてこのLINEのお年玉企画はスタンプを「相手に送る」という行為が前提として成り立っているので、スタンプの購買者と賞金を受ける相手が異なるため、直ちにこれが刑法が禁ずる賭博にあたるとは言えません。この点に関しては、以前のエントリで詳しく解説をしています。

参照:【悲報】松本人志さん、違法ギャンブル大会を主催か?

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9430086.html

但し、実はこのサービス、例えばスマートホンを二台持ちしているユーザーなどにおいては、己の持っている片方の端末から、もう片方の端末に向けてスタンプを送ってしまえば実質的にこのスタンプが賭博、もしくは富くじと同様の機能を果たしてしまう。また、スマートホンの二台持ちでなかったとしても、例えば友人に120円を支払ってその場で自分に向けてスタンプを送って貰えば同様の機能を果たすワケで、このサービスは利用の仕方によっては賭博もしくは富くじと同様の機能を果たしてしまうものとなっています。

だとするのならば、ここでの罪の成立は1)LINE社がこのサービスを悪用すると賭博に利用できることを理解し、2)多くの人がこれを悪用し、3)またそのように使用される蓋然性が高いと認識されているどうかという、かつてwinny裁判で使用されたこの種のサービスへの違法性判断の基準が適用され、場合によっては罪に問われる可能性が出て来る。

さらにもう一つ言うのならば、このお年玉付きスタンプに賞金を支払うという機能そのものが、スタンプの購買に付随するものとして解されるのか、もしくはこのスタンプが「お年玉の付与」までもを含んだ一種の証票として認知されているのか、という観点もあろうかと思います。前者として解される場合はいわゆる景品扱いになるので前出の様な景表法の規制範疇には入っても、刑法の定める賭博もしくは富くじに関する罪は適用されない。一方で後者として解される場合には、刑法賭博罪、もしくは富くじ罪が適用される可能性も出て来る。

この点に関しては、もう少し突っ込んだ論議が必要かと思われますので、現時点では「際どいところに居る」という表現で留めておきたいと思いますが、いずれにせよLINEさんは本商材に関しまして、少なくとももう一度法務チェックを行って頂いた方が良いものと思われます(特に景表法適用の確認有無は必須)。こちらからは以上です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事