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シリーズ:ギャンブル依存問題を考える(2)

木曽崇国際カジノ研究所・所長

「ギャンブルに問題を抱えている状態というのは『上手く遊べない』ということ。だとしたら、それを病気として捉えるのではなく『遊び方を考える』という捉え方をした方が良い」

木曽:

ナルホド。だとすると、現在の「ギャンブル依存症への対策をするんだ」というアプローチ自体がひょっとすると間違っているのかもしれないということですか?

中村:

そうですね。少なくとも入口をそこにしてしまうのは間違いですね。カジノに関してはまだ判りませんが、パチンコに関しては「ただGAに行きなさい」というアプローチだけでは対応が難しい人達が多いと思うんですよね。

GA(ギャンブラーズ・アノニマス)とは:

ギャンブルをやめたいという願いを持つ人達が集う自助グループ。現在のギャンブル依存回復支援の主流となっている「集団療法」の場を提供し、参加者達がそれぞれ過去の自らのギャンブル体験などを語り合うミーティングや「12ステップ」と呼ばれるプログラムの提供を中心に活動する。詳細はコチラから→GA公式サイト

木曽:

中村さんは自助グループの問題点をよく指摘されていますが、ここでもう一度その辺りをザックリと伺っても良いですか?

中村:

ワンデーポートは2000年に設立されて、2008年位までは一律に全員毎日GAに行って下さいということでやってきました。2008年くらいからどうもGAに「合わない」人が居るなぁということで、ウチの施設の中で発達障害の人達だけでミーティングをやったり、GAではない発達障害のミーティングに行って貰ったり幅を広げて来たわけです。

特に2008年くらいの当時の施設入居者で知的障害のある方だったんですけど、彼が「絵を習いたい」と言ってきて、本人が自分で絵画教室を調べて持って来るんですよ。「ここの先生が良い」とか言って。当然月謝がかかるわけですけど、生活保護の中でどうにかやりくり出来る金額ではあったので、多分、彼にとっては絵を習う事が必要なんだろうなと思って、それに行かせたんですね。

そうしたら凄く生き生きとしていて、その彼が暫くしたら今度は空き時間にジムに行き始めたんですね。横浜市がやっている公共のやつなんですけど。僕も一緒に行ったら、これもまた楽しそうにやってるわけですよ。彼を見ていたらこれも悪くないなぁと思って、当時、ミーティングで上手く話が出来ない人とかが実はウチの施設にも結構沢山居たので、そういう人達にはGAじゃなくて良いという方針を出したんです。その代りにランニングを始めてみたり、皆で一緒にウォーキングを始めてみたりGAではない考え方をやってみたら、結構みんな楽しんでいて、GAに出るよりも何か楽しいことをやった方がみんな生き生きしているな、と。

(壁に貼ってあるアイドルのポスターを指さしながら)例えばこれなんかもワンデーポートに3年居て、来週やっと施設から出ることになった入居者が張ったものです。実は、彼はワンデーポートに来てから介護の資格を取って、もう2年くらいずっと働いているんですが、週末はGAとかに行くのではなく自分の好きなように使ってもらってるんですね。

彼も最初のうちはずっとGAに行ってたんですけど、半年くらい経って「施設長、実はライブに行きたいんですよね」とか言ってきたんですよ。彼はどうも売れてない地下アイドルが好きなようで、そのライブに行きたいと。勿論、僕は「それも良いんじゃない」って言いました。そうしたら週末は頻繁にライブに行くようになって、非常に楽しそうにやってるわけですよ。

そうしたら、そのうち彼もGAに行かなくて良いですか?とか言い出して、自然消滅的にGAに行かなくなったんです。ウチの施設はこちらからGAに行くなと言ってるわけではないんですけど、自然と入居者側から「行かなくて良いですか?」という話になって、今は実はうちの入居者は誰もミーティングに行ってないんです。最近の入居者だと、GAという存在自体を知らない人も居るくらい。

木曽:

実際、そういうプログラムで皆さんは回復に向かって行っているんですか?っていうか、それってもはやプログラムですらないですよね?

中村:

そうです、そうです。「プログラムがない」というのが大事だと思っているんです。逆に、何か特別なプログラムがあれば回復するという考え方自体が幻想だと思ってる。だから、ウチの施設ではプログラムという言葉は使いません。ワンデーポートもミーティングという形のものはやるんですけど、そのスタイルというのはGAでやるような「ギャンブルについてどう思いますか?」とか「貴方の過去のギャンブル体験はどうでしたか?」といったようなミーティングではなく、マラソン大会に行った次の日は皆に感想を話して貰ったり、特にテーマがない時は「3000円あったら何食べる?」とか(笑

そもそもギャンブルに問題を抱えている状態というのは「上手く遊べない」ということじゃないですか。だとしたら、それを病気として捉えるのではなく「遊び方を考える」という捉え方をした方が良いのではないか、そのように思っているんです。

「その3」に続く

【追記2016/12/22 7:38】

本エントリに関して中村さんから以下のようなコメントが届いております:

ワンデーポートのカリキュラムは個々の利用者のニーズを汲み上げて作ってきました。たとえば、遊び方を教えるであったり、地域と連携しなが生活支援に関わることなどです。それは、社会の変化を見ながら、個々のニーズに応えていくというNPOのミッションと重なります。ワンデーポートは日本ではじめてのギャンブルの問題を抱える人の回復施設として先駆的だと言われてきましたが、私としては、行政や既存の考え方に縛られないで、徹底的に社会や個人のニーズに応えていくという点で、NPOらしい活動であるという意味でも先駆者だと自負しています。この対談で、ワンデーポートで見えてきたことを発信するのも、NPOで働く人間としと課せられた使命だと思ってやっています。

今、ギャンブル依存問題の支援は、国や医療主導で相談・支援体制づくりが行われようとしていると思います。回復施設や当事者活動が下請けのような位置付けになると、良いものができないと思います。ギャンブル依存問題は社会の変化や個人のニーズに寄り添うことで、質の高いサービスが提供できると思うからです。ギャンブル依存問題に関しては、NPOを対策の中心に置けば、良いものができると私は考えています。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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