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カジノのせいでパチンコが「やり玉」に挙げられている

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

衝撃的なメッセージがパチンコ業界から発されております。以下、産経Bizからの転載。

□ワールド・ワイズ・ジャパン代表、LOGOSプロジェクト主幹・濱口理佳

http://www.sankeibiz.jp/business/news/170218/bsd1702180500004-n1.htm

カジノ一つをつくるのに、遊技業界がどうしてここまでやり玉に挙げられ、追い詰められなければならないのか。ギャンブル依存症にせよ、誰かが「カジノができると依存症が問題だ」と言い出すと、「パチンコはどうなのか」と矢が飛んでくる。

このワールド・ワイズ・ジャパンの濱口理佳さんという方、私ですら顔と名前が一致する御仁ですから、パチンコ業界においてはそれなりに名前の知れた、いわゆる「業界識者」であります。そのパチンコ業界の識者が一般メディアにおいて臆面もなくこのようなメッセージを公に発している状態に、私としては開いた口がふさがりません。

問題点1 今パチンコが追い詰められているのはカジノのせいなのか?

濱口氏は、昨今のカジノ合法化論議のせいでパチンコ業界が槍玉に挙げられ、追い詰められているという認識のご様子ですが、それは全くの間違いです。今回、各種問題がクローズアップされているキッカケがカジノ論議にあるとしても、語られている内容はパチンコ業界の中に長年内在してきた問題であり、それらとカジノの存在は全く関係が有りません。それを「カジノ一つをつくるのに、パチンコ業界がどうしてここまでやり玉に挙げられ、追い詰められなければならないのか」などと表現すること自体が大きな認識違い。完全に「身から出た錆」です。

問題点2 この局面で「パチンコはギャンブルではなく遊技」は完全に詭弁

濱口氏は、リンク先コラムにおいて以下のように主張しています。

パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽であるにもかかわらず、ギャンブルと並列に扱われ、しかも「パチンコは依存に対して何もしてこなかった」などと吹聴する人も出てくる始末。

昨年12月26日に政府は「ギャンブル等依存症対策推進閣僚会議」を開催しました。なぜこの会議の名称が「ギャンブル『等』依存症」と銘打たれてているのか? それは、法律上その行為が「ギャンブル」であるかどうかは問わず、そこに射幸性が含まれる行為を全て論議の対象とするためです。

本会議の構成員には、各公営賭博を所管する省庁はもとより、富くじを所管する総務省と文科省、パチンコを所管する警察庁、そして各種金融商品を所管している金融庁までが含まれています。法律上の定義をいえば、宝くじとtotoは「富くじ」、パチンコは「遊技」、そしてFXや商品先物取引は「金融商品」とそれぞれ「賭博」とは異なった定義がなされています。しかし、それらが日本の法律上ギャンブルと定義されているかどうかに関わらず、そこに一定の射幸性が含まれており、その射幸性に対して依存する人が居る。だとすれば、それに対して社会的に何らかの手当てをしなければならないというのが現在の論議です。

そのようにして進行している現在の論議に対して、今更のように「我々業界はギャンブルではなく、風営法上規定される遊技である」などとする論で、その謗りをかわそうとする行為にどれ程の意味があるのか。そういうのを世の中では詭弁と呼びます。

問題点3 ギャンブル等依存の8割はパチンコ依存

あわせて濱口氏は以下のようにも主張しています。

業界は遊技への過度なのめり込み(依存)問題にかねて積極的に取り組んできた。業界団体が支援して2006年に設立した「認定特定非営利活動法人リカバリーサポート・ネットワーク」もその一つだが、無料の電話相談を実施するほか、自助グループへの橋渡しや、司法書士会・弁護士会を紹介するなど、公的機関とも連携を取りながら問題解決をサポートしている。

長らく「依存」という用語の使用を避け、なぜか「のめり込み」という独自用語を使ってきた業界の内部事情は別として、パチンコ業界がその他のギャンブル等産業と比べて依存対策に力を入れてきたことは事実であり、その点に関しては私自身も幾度となく言及してきています(→参照)。一方で、それら業界内の対策は、今起こっている事象に対する一切の「免罪符」にはなりません。

パチンコ業界は他と比べて業界独自の対策は行ってきた一方で、臨床の現場ではギャンブル等依存で持ち込まれる相談のおよそ8割がパチンコに関するものだとされています。

【参照】ギャンブル依存症の8割が「パチンコ依存」 国内400万人以上に疑いあり

https://dot.asahi.com/wa/2014111400068.html

すなわち業界独自の様々な対策は行ってきたとはいえ、我が国のギャンブル等依存問題における最大の依存対象がパチンコであるという謗りは免れ得ません。逆に言えば、我が国の依存対策論議の中心が「パチンコ」に置かれてしまうのは必然であるともいえます。

問題点4 パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽?

そもそも、濱口氏は「パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽であるにもかかわらず」と仰るが、パチンコ業界は社会問題ともなった「検定時と性能が異なる可能性のある型式遊技機」72万台を昨年12月にやっと撤去し終わったばかり。長年に亘って法令を無視しゲームの射幸性を高めることを追求し続けてきた業界が、舌の根も乾かぬうちに「パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽」などと主張するのはあまりにもお粗末な話。最低10年、健全営業を維持してから出直して来いというのが正直な気持ちであります。

濱口氏はこれまでも産経Biz上のコラムで幾度となく上記と同様の主張を繰り返してきており、彼女は彼女なりの覚悟をもって主張をしているのでしょうが、正直、現在のギャンブル等依存対策に関する社会的論議の流れを完全に見誤っているようです。こういう論調がパチンコ業界全体の論調でないことを祈ります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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