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四国アイランドリーグplus後期リーグ戦 愛媛マンダリンパイレーツ、優勝の理由(前)

高田博史スポーツライター
優勝の瞬間、選手たちがマウンドに一斉に駆け寄る(9月12日、土佐山田スタジアム)

9月12日、高知・土佐山田スタジアムで四国アイランドリーグplus後期リーグ戦の優勝チームが決定した。高知ファイティングドッグスとの最終戦に14安打と打線が爆発し8得点。投手陣は完封リレーという完ぺきな勝ち方で、12年後期以来3年ぶりとなるリーグ優勝を手にしたのは愛媛マンダリンパイレーツである。

勝率.731。2位の徳島インディゴソックスに5.5差(12日終了時)をつけての圧勝だった。5日に「M6」を点灯させてから一度もマジックを消滅させることなく、確実に消化し続けてきた。それどころか、8月29日の対徳島IS6回戦以来10試合負けなし、9連勝での優勝決定だ。

就任2年目の弓岡敬二郎監督(元阪急・オリックス)が、歓喜のなかで宙に舞った。

「目標はここじゃないんで。ここは通過点。もっと上にありますから。きょうはまあ『ほっとした』というとこですけど。まだまだ気を抜かずに」

「継続して行われたトレーニング」

弓岡監督、加藤博人コーチ(元ヤクルトほか)森山一人コーチ(元近鉄)に続いて胴上げされたのは、伊藤和明トレーナーだった。今年は合同自主トレから、昨年以上のトレーニングメニューを選手に課し続けてきた。

「普段、シーズン中はウェート・トレーニングはしないで『イージー』ぐらいなんですけど、それを度外視して。シーズン中も強化するように、というのはもう、今年の最初から決めていて。NPBだったら多分『この期間はしっかりやって、シーズン中はそれを落とさないように』っていう考え方がメーンになると思うんですけど。同じことをやっていても、優勝はできるかもしれないけどプロには行けないので」

当然、疲労から来るケガのリスクも増える。だが、ステップアップするために1年間、覚悟をもってトレーニングを継続させることを決めた。そこでケガをしてしまうようなら、しょせんそこまでと、選手たちには腹をくくってもらった。練習グラウンドの一角を改築し、新たにトレーニングルームを作ってもらっている。最新鋭の機材も搬入された。

ウェート・トレーニングの結果、レベルアップした選手がいる。遊撃手の四ツ谷良輔(深谷商)だ。

昨年9月、.250ほどあった打率が.230まで落ちた。去年のこの時期と言えば、60キロ台前半まで落ち込んでいた体重が、今年はベストの68キロ前後をキープできている。打率も.257と、昨年を上回る(11日終了時)。

「去年、ここで成績が落ちて、ラスト1カ月で全然打てなかった。足も全然動かなかったので。ただ、それが今年は上がってきているっていうのは感じますね。余裕があるっていうか、ある程度、自分の力がしっかり使えているっていうか。思ったように動かせているっていうのはあります。オフシーズンからウェートもやって、伊藤さんからも『オフだけじゃダメ』って言われてるので。連戦のなかでもウェートを継続して、維持するっていう形で」

「体重を落とさない」

それは、伊藤が考える今季目標の1つだった。高校野球などのように、大会が行われている数日~1、2週間にピークを合わせるのではない。前・後期の2カ月ずつをいかに戦うかを前提に計画している。後期リーグ戦が行われる8月、9月の2カ月間、そのなかでも「この辺りがヤマになる」と思っていたのは、8月後半から9月の頭にかけてだった。そこにコンディションのピークが来るよう計算していた。

「そこで連勝できたので。たまたまだと思うんですけど、読みが当たったというか。思うように行ってくれたかなというのはあります。あと、離脱してる選手がいないので」

ケガ人がチームにいない。強化したウェート・トレーニングの成果は、確実に表れていた。

「量をやって、姿勢を見せよう」

前期終了時の数字を見てみると、投手陣のチーム防御率は2.29(2位)と、優勝した香川オリーブガイナーズの2.12(1位)に近い数字を残している。あとの2球団は3点台だ。

問題は攻撃陣にあった。

同じく前期終了時のチーム打率を見てみると、愛媛MPは4球団中、最下位の.206である。香川OGの.262(1位)と大きく水をあけられており、安打数で82本、61打点もの差があった。三振の数は4球団中トップとなる243個を数えている。

弓岡監督が「特に成長したなあと思いますね。後半よく投げてくれました」と語った伴和馬(名古屋商科大)に「前期から後期の間に、何があったのか」について聞いた。

「前期が終わって、森山コーチが『野手が打てない試合が多くて、ピッチャーに負担を掛けてる』って話をして。『(北米遠征期間中の)6、7月でとにかく『量』をやって姿勢を見せよう。こうやって取り組むっていう姿勢を見せよう』っていう話をされて。実際、6月7月、かなり(バットを)振り込んでいたんです」

姿勢を見せる。その相手は投手陣に対してだ。

選抜チームが北米遠征に出ており、公式戦の行われない6月、7月の2カ月間を使って、野手はとにかくバットを振った。「これだけ頑張って、それで打てなかったら逆に諦めがつく」というぐらい徹底的に練習量を増やした。

「それで後期ダメだったらもうしょうがない。『もっとやれば良かった』という悔いを残さないっていう意味だと思うんですけど『しっかり練習しよう』っていう話をされて。かなり量は振っていましたし、下手したら春のキャンプより振ってたんじゃないですか。北米遠征組が6人、野手は3人しかいないですけど、その3人が減っただけで練習の密度が違いますから。すごく振り込んでいるのを見て、僕らもそれを見ながら、自分らの強化練習やトレーニングをやっていましたし」

後期に入って首位を快走するなかで、北米遠征期間の猛練習の話はいくらか漏れ聞こえてきていた。選手からも「とにかくバットを振った。あの練習が自信になっています」というコメントが出て来る。だが「1日に何本ぐらい振ったのか」と聞いてみても、誰からも明確な数字が出て来ないのだ。

森山一人コーチに野手が取り組んだ猛練習について聞いた。そこには練習量をこなして投手陣との信頼関係を構築することだけにとどまらない、真の意味があった。

〈後編につづく〉

スポーツライター

たかた・ひろふみ/1969年生まれ。徳島県出身。プロ野球独立リーグ、高校野球、ソフトボールなどを取材しながら専門誌、スポーツ紙などに原稿を寄稿している。四国アイランドリーグplus は2005年の開幕年より現場にて取材。「現場取材がすべて」をモットーに四国内を駆け回っている。

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