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第2エンド「男子カーリングを巡る考察その1。カーリングって男子もやってんの?」

竹田聡一郎スポーツライター
4月の世界選手権で日本代表史上最高位である4位入賞を果たしたSC軽井沢クラブ

リオ五輪は過去のものになり、めっきり寒くなってきたのでいよいよカーリングシーズンの到来だ。カナダや欧州ではすでにワールドカーリングツアーが始まっていて、日本のチームも男女共に各地で奮闘している。

と、書くと、「ん?男女?」とひっかかる人が出てくるだろう。

カーリングの取材をしている、と人に話すと、必ず尋ねられる三大質問がある。

まずは「あのブラシは何?」だ。氷上にある水の粒「ペブル」を履いてストーンを伸ばして…と説明することになるのだけど、それは割愛して、次は「なんでみんな女の子はあんなカワイイの?」だ。それについて「知らん。元がいいんじゃないのかな」とかいう模範解答をすることもあれば「みんなカワイイわけじゃなくカワイイ子を中心にメディアが露出させてるだけ」という元も子もない返答をすることもある。あんまりこれを言及していくと各方面に怒られそうなので、最後、いわゆる本題に進むが、以下の質問も多い。

「カーリングって男子もやってるの?」

あくまで一般のイメージだが、日本国内における近年のカーリング界は、カーリング娘。のイメージが先行し、それはチーム青森であって、マリリン(本橋麻里)であって、アンナ様(近江谷杏菜)であって、ミヨ姫(市川美余)であって、サヤカタン(吉村紗也香)であるという、連綿と続く美女がアイコンだった。ちなみに僕が別の記事内でつけて定着しなかったものも混ぜてある。みんな可愛いことには変わりはないけれど。

最近では、母親となってアイスに復帰した小笠原歩や船山弓枝などが、スポーツ新聞を中心に“カーママ。”と呼ばれたりもする。選手たちがそれをどう感じているかはさておいて、カー娘にしてもカーママにしてもキャッチーであることは確かだ。カーリングを知らなくても見出しだけは覚えている、という方も多いのではないか。

そこでやっと男子の話になるのだが、女子に比べると知名度も露出も残念ながら低い。カーラーの間でこそ、98年長野五輪でスキップを務めた敦賀信人(つるがまこと)はレジェンドで、現在の日本代表SC軽井沢クラブのスキップである両角友佑(もろずみゆうすけ)はプリンスだが、渋谷スクランブル交差点で顔写真と共に「この人、誰?」と聞いたら何人が解答できるだろうか。

理由はといえばこれが難しい。ただ、この夏の五輪もそうだが、女性アスリートの場合は「可愛い」「キレイ」からブレイクするケースが少なくない。「女性は泣くから絵になりやすい」と言い切るテレビ関係者もいた。男性誌や一般誌は定期的に「美女アスリート特集」を組むし、ネットでは「美しすぎる~選手」と食傷気味のまとめサイトも競技の数だけある。

しかしそれならば、男子カーリング選手にもイケメンはいる。前述の“マコちゃん”こと敦賀氏は爽やかな好青年だし、両角のケミストリー堂珍感はハンパない。両角の実弟である両角公佑はよく笑うので小動物的人気を博しそうだし、同じくSC軽井沢の山口剛史はガチマッチョである。日本選手権2位のチーム東京のスキップ・神田順平は椎名桔平的雰囲気で東大卒というハイスペックだ。札幌の雄「4REAL」のサード・松村雄太はプリンス顔だし、セカンドの林佑樹は「氷上のチョイ悪」とかいって売り出したいキャラクターでもある。

ここ数年で、彼らに「カーリング息子」や「カーパパ」「マッチョすぎるカーラー」「氷上の椎名桔平」なんて具合にネーミングをつけて、一般誌や女性誌に企画を何度か出したことがあるが、9割方、ボツになった。

僕のネーミングが悪いという可能性は捨て切れないが、主な理由は女性誌が「でも既婚者でしょ?」で、一般誌は「五輪に出られる?そしてメダル獲れる?」だった。

短絡的かもしれないけど、真理ではある。例えば男子冬季選手のスーパースター羽生結弦は独身で、世界で結果を出している。

ただ、前者はそれぞれの人生だし、読者のニーズがあるから仕方ないとしても、後者の「五輪出場と、メダル獲れる?」については18年平昌では十分、可能性がある。

今季、日本選手権4連覇を達成し世界選手権に出場したSC軽井沢クラブだが、世界の舞台で、強豪相手に総当たりのリーグ戦を8勝3敗の3位で予選通過し、男子カーリング史上最高位の4位という快挙を達成した。これは98年の長野五輪以降、五輪出場を逃し続け、世界選手権も万年中位だった同クラブだけではなく、日本の男子カーリングにとってエポック・メイキングと言っても過言ではない。

しかも彼らの場合、女子よりもスポンサーや支援企業の数は圧倒的に少ない。

例えば女子のソチ五輪代表チームは、北海道銀行フォルティウス。北海道銀行の全面的なサポートで活動するチームだ。合宿や遠征など、経済的なバックアップが望める。現在の日本代表であるロコ・ソラーレ北見にしても主将の本橋はNTTラーニングシステムズ株式会社、スキップの藤澤五月は株式会社コンサルトジャパンと、それぞれ所属先がある。個人にスポンサー企業がついて広告宣伝活動をすることでカーリング選手として資金面でバックアップを受けているいわばセミプロで、カーリングに集中できる環境は整いつつある。

しかし、男子カーリングの場合、基本的にはそれがない。自ら働いてチームの強化費を捻出させる必要がある。一体、どのような勤務形態で動き、どの時間を練習に充てているのだろうか。日本代表であり、世界4位のカーリングチーム・SC軽井沢を紹介していきたい。

(つづく)

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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