Yahoo!ニュース

黄砂の観測はどのようにしているのか?

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授

5月27日以降、連日黄砂の飛来が日本各地で観測されています。27日は九州地方だけでしたが、28日には西日本一帯、29日と30日は西日本のほかに、北海道や東北地方でも黄砂が観測されました。ただ、黄砂のシーズンは主に春ですが、今年は日本への黄砂の飛来の頻度が少なめのようです。

黄砂の飛来は誰が観測している?

黄砂は、タクラマカン砂漠・ゴビ砂漠・黄土高原などの東アジアの乾燥地域から舞い上がった砂粒のことで、風に乗って運ばれます。「黄砂」という用語は、東アジアから舞い上がった砂粒にのみ使います。世界の他の地域に目を向けると、サハラ砂漠やアラビア半島などからは、東アジアよりも大量の砂粒が舞い上がります。

さて、黄砂が日本へ飛来したという情報の発信源は、どこかご存知でしょうか。黄砂は、気象現象という扱いなので、気象庁が観測して情報を提供しています。実際には、気象庁管轄の各地の気象台が観測しています。これは多くの方々がご存知でしょう。

各気象台は黄砂をどのように観測している?

それでは、各地の気象台は、どのように黄砂を観測しているかご存知でしょうか。「観測」という言葉から、何か機器を使っていると思っていた方が多いのではないでしょうか。実は、気象台での黄砂の観測機器は、「人間の目」です。気象台の担当者が空を見て、黄砂が飛来してきているかどうかを判断しています。同時に、何キロメートル先までの建物や景色が見えるか(「視程」といいます)も記録して、黄砂の飛来量が多めか少なめかも、大雑把に確認することができます。

黄砂を目視で観測するというのは、国際標準の方法です。世界各国の気象台では、「晴れ」「曇」「雨」などの天気を、基本的に目視で確認しています。そのような天気の種類の中に、つまり、「晴れ」「曇」「雨」などと同列で、「砂塵(さじん)嵐」というのもあるのです。「黄砂」は「砂塵嵐」の一種です。したがって、「晴れ」「曇」「雨」と同様に、「黄砂」も目視で確認しているのです。

しかし、黄砂を目視で観測することの問題点も…

例えば、常に乾燥している砂漠の近くで、周囲の人口があまり多くない観測所であれば、砂嵐が発生して視程を悪くしていることは、すぐに判断がつくでしょう。しかし、現在の日本で視程を悪くしているのは、黄砂だけでしょうか?昨年から急速に用語が広まった「PM2.5」も、視程を悪くする原因であることはご存知でしょう。黄砂の濃度が非常に高い場合には、空も何となく茶色っぽくなるので、黄砂が飛来していると確認できる場合もありますが、そのようなことはあまりありません。黄砂もPM2.5も、一粒一粒の大きさが〇・数ミクロンから数ミクロン程度なので、人間の目だけで両者の違いを判別するのは、なかなか難しいのです。

その結果、越境大気汚染が本格的に始まった2000年代前半には、気象台が黄砂を観測したという記録の中に、視程の悪化の主な原因が、人間の社会経済活動により排出された、大気汚染を引き起こす微粒子によるものである事例があると考えられています。当時は、PM2.5に特化した測器がまだ各地に普及しておらず、また、黄砂かどうかを即時に判別できる専門的な測器も多地点には展開していませんでした。

現在の黄砂の観測

各地の気象台が発表する黄砂観測は、現在でも国際標準の目視であることには変わりありません。しかし、2000年代後半から、専門家による測器が多地点に展開され、利用できるようになったことにより、各地域で黄砂が多いか少ないかをすぐに判別することができるようになりました。それらの測器は、大気中に浮かんでいる微粒子に、相対的に大きめのものが多いのか、小さめのものが多いのか、また、球形のものが多いのか、球形ではないものが多いのか、という特徴をつかむことが可能です。黄砂はサイズが大きめで、球形ではないという特徴があります。気象台の担当者は、それらの専門的な測器のデータを参考にできるようになりましたので、気象台が発表する「黄砂」観測の信頼度が高くなりました。

27日から現在(30日)まで、普段より相対的に大きめで、かつ球形ではない微粒子が空気中に多いことが、専門の測器によって確認されています。したがって、気象台が発表しているとおり、日本の多くの地域に黄砂は飛来しているようです。ただし、光化学オキシダントの濃度や、主に大気汚染微粒子により構成されているPM2.5の濃度も高めで推移していますので、単純に砂粒だけが飛来しているわけではなさそうです。

また、気象台による黄砂飛来の確認は、今年は少なめですが、専門的な測器を使った観測によると、微量の黄砂が飛来したり、上空高く黄砂が通過していったりしたという痕跡は何度かあります。ただし、目で見てわからない程度では、気象台は「黄砂」を観測したとは記録しません。

ちなみに、霧や黄砂が原因ではなく、PM2.5などの微粒子により空が霞んで、視程が10キロメートル未満の場合、気象台は「煙霧」を記録します。「煙霧」も天気の一種なので、目視で確認します。ただし、昨年から、順次PM2.5の観測情報や予測情報が流れるようになりましたが、それは各自治体が情報の発信源です。少しややこしいですね。

それから、黄砂の「観測」情報と「予測」情報を混同している場合が、報道機関を含めてあるようです。「予測」情報であるにもかかわらず、黄砂がすでに飛来しているかのように伝えている場合があります。予測は外れることもあります。

PM2.5については、後日少しずつ解説していく予定です。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

竹村俊彦の最近の記事