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黄砂の予測は難しい?

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授

今年初の黄砂飛来

2015年初めての黄砂の飛来が、本日(2月23日)西日本の東シナ海沿いおよび日本海沿いで観測されました。黄砂の観測は、以前の私の記事「黄砂の観測はどのようにしているのか?」で解説したとおり、国際基準に従って、日本では各地の気象台が目視で行っています。観測データやコンピュータシミュレーションの結果から、今回の黄砂は、20日〜21日にかけてゴビ砂漠で起こった砂嵐で黄砂が舞い上がり、その黄砂が風に運ばれて22日に朝鮮半島へ飛来し、23日に日本へ到達したと考えられます。その原因は、23日現在、日本海北部にある低気圧がゴビ砂漠付近にあった時に、砂嵐を引き起こし、その低気圧から延びる寒冷前線に黄砂が吹き寄せられ、低気圧や前線が東へ移動するとともに、黄砂が流されたことにあると考えられます。

黄砂独特の予測の難しさ

日本では、気象庁が公式な黄砂予測を行っていますが、今回の黄砂は予測できませんでした。一方、私が運用しているSPRINTARSエアロゾル予測では、今回の黄砂現象を予測できました。この違いは、どこにあるのでしょうか?そこには、地球上の他の砂漠での砂嵐とは異なる、黄砂独特の予測の難しさの1つが潜んでいます。それは、黄砂が発生する中国内陸部での積雪の状況です。乾燥地帯であっても、雪が積もっていては砂嵐は起こりません。実際に、黄砂発生域であるゴビ砂漠は、冬季は雪で覆われています。その雪が解けると、黄砂のシーズンが始まるということになります。コンピュータシミュレーションによる予測では、乾燥域で雪がなく、強風が吹けば砂が舞い上がると計算しますので、今回の気象庁の黄砂予測システムでは、中国内陸部の積雪の状況を適切に表現できていなかった可能性が高いです。

黄砂とPM2.5の予測を比べると、黄砂の予測の方が難しいと考えられます。PM2.5は、主に燃料消費などで発生する人間活動起源の微粒子で構成されています。人間活動起源の微粒子は、人口が多くて燃料を多く使う場所から多く発生するなど、発生場所や発生量は短期的に見ればほぼ決まっています。したがって、コンピュータシミュレーションでは、そのデータを使い続けて予測するのが一般的です。一方、黄砂の場合は、上で説明したとおり、発生場所や発生量が気象状況に応じて時々刻々大きく変化します。したがって、その発生場所や発生量の予測を間違ってしまうと、大気中の風などの予測がいくら正確であっても、黄砂の予測を外してしまうことになります。

本日(2月23日)は、PM2.5の濃度も若干高めなので、黄砂とともに、人間活動起源の微粒子も混ざっていると考えられます。ただし、いずれの濃度も、環境基準(人の健康の保護や生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準)を大きく超過するほど高くはありません。PM2.5や黄砂に敏感な方は、注意されると良いと思います。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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