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日本での長期的なPM2.5濃度の傾向

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

私が毎日運用しているPM2.5予測で約1週間前から予測されていたとおり、26日午後から西日本を中心としてPM2.5濃度が高くなり始め、27日には広い地域でさらに高濃度となりました。今後1週間ほどはPM2.5濃度が高めの状態が西日本で継続する傾向を予測していますので、大気汚染物質の影響を受けやすい人は注意が必要です。

PM2.5が高濃度になる状態は春が最も継続しやすいのですが、数日間にわたって高濃度が続くのは、今年は今回が初めてです。春が終わりかけている今になって、今年初めての長い高濃度状態ということは、PM2.5の越境飛来は改善傾向にあるの?という疑問が湧いてくるかもしれません。今回の解説では、ここ20〜30年間のデータをもとに、PM2.5の長期的な傾向を示してみます。

長期的な「煙霧」の記録

といっても、PM2.5濃度を専用の測器を使って、20〜30年以上にわたって継続的に観測しているデータは非常に限られています。一方、私の以前の記事「PM2.5と黄砂の情報の問題点」で解説しましたが、目視ではあるものの、黄砂以外で空が霞んだ場合に、各気象台は昔から「煙霧」を記録しています。現在では、「煙霧」の原因のほとんどはPM2.5の高濃度です。

東京の空は劇的改善!

下の左図は、東京で記録された煙霧の時間を、1990年から2015年までの年ごとに積算したデータです。一目瞭然ですが、2000年頃から煙霧の状態が大きく減少しています。この減少の大きな要因の1つとして、ディーゼル排ガス規制が挙げられると考えられます。当時の東京都知事が、ペットボトルに入れた黒色炭素(スス)粒子を示して記者会見をしたことを覚えている方もいるのではないでしょうか。つまり、2000年頃までは、首都圏自らが排出していた大気汚染物質の影響が非常に大きかったということです。1年は8760時間ですから、1990年代の東京は、約30%の時間が煙霧状態だった年もあったということです。

下の右図は、同じく1990年から2015年までの煙霧のデータを、月別に示したものです。若干ではありますが、11月や12月の煙霧状態が多いことを示しています。現在の中国の都市部でPM2.5が高濃度になりやすいのは冬ですが、それと同じ傾向です。これは、大気汚染物質の主要発生源の地域の特徴で、冬は大気が安定しやすいため、大気汚染物質がその地域に留まりやすいことが大きな要因です。

西日本は高止まり

一方、下の図では、同様のグラフを、福岡で記録された煙霧と黄砂について示してみました。煙霧と黄砂を積み重ねて示したのは、黄砂の観測はどのようにしているのか?で解説したように、2000年代前半までは、黄砂と記録した中には、本来は「煙霧」と記録すべき事例が含まれているためです。つまり、下の図は、いずれにしても空が霞んだ時間を示しているわけですが、中国の経済発展が本格化した1990年代後半から煙霧の状態が増加して、その後は年ごとに変動しつつも、はっきりとした長期的な変化は見られません。

月別のグラフを見ると、福岡は3〜6月に悪化することが明らかです。PM2.5濃度の急激な変化の原因で解説したとおり、この季節は、移動性高気圧と低気圧が交互に、西から東へ大気汚染物質を運ぶためです。

上で示したグラフの注意点は、東京と福岡とで、縦軸のスケールが異なることです。つまり、近年では九州での越境大気汚染が知られるようになりましたが、2000年頃までの東京の空気の方がよっぽど悪かったということを、このデータは示しています。ちなみに、大阪は、東京と福岡の傾向のハイブリッドです。長期的な煙霧の状態は明確な減少傾向ですが、越境飛来の影響も受けるので、月別では3〜6月に煙霧が記録されることが多い傾向にあります。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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