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2014年度予算は緊縮財政?

竹中治堅政策研究大学院大学教授

史上最大規模の予算?

2014年度予算の政府案が12月24日に閣議決定される。予算の規模は95.9兆円前後となる見込みである。2013年度の当初予算は92.6兆円であり、それに比べ財政規模は3.3兆円増えることになる。このことを踏まえ、新聞報道には「過去最大」「財政規律の弛み」などのコメントが目立つ。こうした報道からは予算が拡張的という印象を抱く方も多いのではないか。

実はそうではない。来年度予算は実質的に超緊縮的である。

2014年度予算と2013年度予算を比較し、規模を考える上では補正予算とあわせて考える必要があるからである。その際、考慮しなくてはならないのは前年度の補正予算である。つまり、2013年度予算は2012年度補正予算と併せて「実質的2013年度予算」を考え、2014年度予算は2013年度補正予算と一緒に「実質的2014年度予算」を計算する必要があるのである。なぜか。2012年度補正予算のほとんどは2012年度ではなく2013年度に入ってから執行され、2013年度補正予算もおそらくほとんどは来年度に実施されることがみこまれるからである。

いずれの補正予算案も年度終わりに近づいて編成された。このためほとんどの執行は翌年度に行われることになった、あるいは、なるはずである。2012年度補正予算案が閣議決定されたのは2013年1月15日であり国会で成立は2月26日である。2013年度補正予算が閣議決定されたのは12月12日である。成立は恐らく2012年度補正と同じ2月下旬であろう。

5.4兆円減の緊縮財政

2012年度補正予算は景気を刺激するために大規模となり総額で13.1兆円に上った。これに比べ、2013年度補正予算の規模は小さく5.4兆円である。

2013年度予算と2012年度補正予算を合算した「実質的2013年度予算」は総額105.7兆円、2014年度予算と2013年度補正予算を併せた「実質的2014年度予算」は100.3兆円。もちろん今後2014年度の補正予算が編成される可能性はある。ただ、現時点で、実質的な意味での2014年度予算は5.4兆円縮減された緊縮財政となる。

ところで、本予算以外に東日本大震災からの復興のために特別会計が設けられている。また、本予算には国債償還の予算も盛り込まれている。政策に関連する経費を計算する上では復興特別会計の額を加える一方で国債償還費を除いて考えてみる必要がある。この考えに沿って、2013年度と2012年度補正、2014年度と2013年度補正をセットで計算すると実質的に2014年度の政策関連の予算は78.1兆円になると見込まれる。一方、2013年度は実質的に84兆円であったので5.9兆円減となる。

言うまでもないが、2014年4月には消費税の8%引上げが待っている。この負担増が8.1兆円程度になると考えられている。一方、復興特別法人税の廃止を含め、さまざまな減税が行われ、その総額は1.5兆円になると推計できる。するとネットでの増税は6.6兆円となる。

12.5兆円の緊縮的スタンス

つまり、来年度の財政政策は予算収縮と増税をあわせて12.5兆円の緊縮的スタンスを採っているということである。2012年度のGDPは472兆円であり、GDP比でみた場合、12.5兆円は2.6%に相当する。

読者の中には5.4兆円の2013年度補正予算は消費増税の負担を緩和するために編成されたのではなかったのかと問われる方もいらっしゃるかもしれない。確かに、補正予算を編成した際の説明として消費税負担緩和が挙げられた。消費増税と2013年度補正予算だけ見れば、増税による8.1兆負担増は補正予算によって緩和され、負担分は2.7兆円、GDP比でみれば、0.6%程度に抑えられることになる。

だが繰り返しになるが、2013年度予算に先立って巨額の2012年度補正予算が編成されたことを考えると、消費増税の負担だけでなく、2013年度予算と2012年度補正予算の総額に比べ、2014年度予算と2013年度補正予算の総額が縮小されることによる負担も考えなくてはならないのである。

新聞報道では来年度の経済動向については消費増税の負担増、それに伴うに駆け込み需要と反動に関心を向けるものが多い。同様に注視すべきは財政支出の影響である。

安倍内閣が発足してから景気は回復してきた。これを支えたのは金融緩和とともに財政支出の拡大であった。来年度の経済の行方を占う上では、消費増税に加え、財政収縮をあわせたこの12.5兆円の緊縮的スタンスが及ぼす影響について留意する必要がある。もちろん増税のみならず、財政支出の変化の影響について経済学者やエコノミストは百も承知であろう。例えば、BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏が中心になってまとめた「Quarterly Economic Review」2014年1月号には消費増税負担に加え、今年拡大した財政支出がなくなることを織り込んで来年の経済成長率を計算している。予測される成長率は0.5%である。

ただ、来年度予算が緊縮的であるという見方は必ずしも十分浸透していないのではないか。

予算のあり方の見直しを

要因の一つは当初予算と補正予算が区別され、各年度の予算規模が把握しにくいことにある。そこで、二つ改革点を挙げたい。第一に、成立が年度末にずれ込むような補正予算は翌年度の本予算に組み込んで編成すべきである。第二に、政府は(当たり前だが)予算に関する情報を公開している。その際、当初予算を前年度の当初予算と比較することが多い。前年度予算の全体との違いを把握しやすくするために、前年度補正予算と合算した額と比較したものを示すべきであろう。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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