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【政策会議日記3】14年度予算案の収支改善は(財政制度等審議会)

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

財政制度等審議会

12月24日に、2014年度政府予算案が閣議決定されました。私が委員を仰せつかっている財政制度等審議会財政制度分科会(財務大臣の諮問機関)では、来年度予算編成の過程で、「平成26年度予算の編成等に関する建議」を11月29日に取りまとめて、麻生太郎財務大臣に手交しました。私は、この建議を取りまとめる際の起草委員を務めました。

財政制度等審議会は、毎年度、来年度予算案を編成する過程で、重要な焦点となる項目について、委員の意見を取りまとめて「建議」を財務大臣に提出することが慣行となっています。<※末尾の「トリビア」も参照>

2014年度(平成26年度)政府予算案の焦点は、

  1. 2年に1度改定される医療費(診療報酬)がプラス改定で決着するか
  2. 国から地方自治体へ配られる地方交付税交付金がどれだけ抑制されるか
  3. 小泉内閣期や民主党政権期には減額傾向だった公共事業費や防衛費は増額されるか
  4. 景気好転と消費税増税で税収が増える中、基礎的財政収支はどれだけ改善するか

といったところです。今回は、その中でも、基礎的財政収支はどれだけ改善したかに注目したいと思います。他は次回以降に扱いたいと思います。

中期財政計画

2014年度予算編成過程の初期である2013年8月に、安倍晋三内閣が取りまとめた「中期財政計画」では、「国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す」(「中期財政計画」2ページ(PDF))とする財政健全化目標を掲げました。

「中期財政計画」によれば、この2015年度の財政健全化目標を達成するには、焦点となる国の一般会計基礎的財政収支赤字において、「少なくとも、平成26年度及び平成27年度の各年度4兆円程度改善し、平成26年度予算においてはマイナス19兆円程度、平成27年度予算においてはマイナス15兆円程度とし、これをもって国・地方の基礎的財政収支赤字対GDP比半減目標の達成を目指す」(同2ページ)と明記しています。

ちなみに、基礎的財政収支(プライマリーバランス)とは、税収等(国債発行による収入を除く収入)から国債費を除く支出(政策的経費)を差し引いた収支で、今年の税収でその年の政策的経費が賄えているかを表す指標です(さらなる説明は、拙ウェブサイト国債・地方債の持続可能性についてを参照)。

より正確に言えば、「中期財政計画」と同時期に公表された内閣府の「中長期的な経済財政についての試算(PDF)」(以下、「中長期試算」)に基づくと、国の一般会計予算における基礎的財政収支は、今年度当初予算で23.2兆円の赤字を、2014年度には18.9兆円の赤字にまで減らし、2015年度には15.2兆円の赤字にまで減らすことを想定しています。つまり、来年度では、今年度当初予算比で4兆円程度(23.2兆円→18.9兆円)の収支改善を行わなければ、2015年度の財政健全化目標の着実な達成が確保できないという訳です。

基礎的財政収支の改善幅

前掲の財政制度等審議会から財務大臣に提出された「平成26年度予算の編成等に関する建議」では、「2014 年度及び2015 年度においても、一般会計の基礎的財政収支を4兆円にとどまらず、出来る限り大きい規模で収支改善を図る必要がある。」(同建議8ページ)と提言しています。したがって、来年度予算編成の焦点の1つは、一般会計の基礎的財政収支が、今年度より4兆円を「できる限り大きい規模で」改善できるか、ということです。

さて、2014年度当初予算案では、一般会計税収が50.0兆円となる見通しで、2013年度当初予算の43.1兆円と比べて6.9兆円の増加です。この増収は、消費税増税によるものが4兆円強(税率引上げ初年度は旧税率適用の特例措置や消費税の課税時期と企業の決算期の不一致により、乖離が生じることと、地方消費税の税収がある点に注意)と、他の税目の自然増収(経済成長率が高まることにより税率を上げなくても税収が増加すること)によるものです。これに加えて、4.6兆円の税外収入(国債発行収入は含まない)があり、一般会計での基礎的財政収支における収入は、合計54.6兆円となります。

他方、一般会計の歳出では、社会保障費、公共事業費、防衛費などは増額となりましたが、地方交付税交付金は地方自治体の税収が増加することを受けて抑制したので、政策的経費(基礎的財政収支対象経費)は合計で72.6兆円となりました。

その結果、両者の差額である基礎的財政収支は、来年度当初予算で18.0兆円の赤字となりました。これは、今年度当初予算の23.2兆円と比べて5.2兆円の収支改善となりました。

結論的に言えば、確かに、財政制度等審議会の「建議」で提言していた通り、「一般会計の基礎的財政収支を4兆円にとどまらず」収支改善できたと言えるでしょう。2014年度に、前掲の内閣府「中長期試算」で目途としていた18.9兆円の赤字よりも改善したことから、2015年度の財政健全化目標に道筋をつけたと言えます。

ただ、歳出の内容を見ると、財政制度等審議会の「建議」で提言した「出来る限り大きい規模で収支改善」という域に達したかというと、もう一工夫すればさらなる収支改善ができたのに、と思います。つまり、歳出削減が、税の自然増収もあって微妙に緩んだという気がしています。

歳出の個別の内容については、次回次回以降の記事で詳述します。

* * * *

※ 財政制度等審議会トリビア ※

ちなみに、民主党政権では、発足当初財政制度等審議会は開催されませんでした。当時の状況を私なりに回顧すると、民主党政権が掲げる「政治主導」に沿うよう、財務省は審議会の開催に躊躇した(といいながら、厚生労働省や総務省等の審議会は民主党政権発足当初から公然と開催していましたが)、といったことがあったでしょう。行政刷新会議の事業仕分けがあったので、財政制度等審議会を開催するまでもなかったということもあったでしょう。そのため、民主党政権最初の2010年度予算案に対する「建議」は出されませんでした。

その後、民主党政権下でも、財政制度等審議会は再開されましたが、学識者だけを委員とする形で開催されました。労使等の民間人を委員とした財政制度等審議会は、第2次安倍内閣になって復活しました。政府予算案に対する「建議」という名は、2009年度案予算以来、2014年度予算案にて復活しました。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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