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飯舘村が引き受けるあまりにも大きな焼却炉建設計画

関口威人ジャーナリスト
全村避難直前の飯舘村蕨平地区。豊かな里山の風景だった(2011年5月、関口撮影)

福島で除染廃棄物などを「燃やしまくる」政策は着々と進められている。相変わらずブルドーザーのように強引に、そこに暮らす人たちの心を引き裂いて、だ。

26日、環境省は福島市飯野町にある飯舘村の役場支所で、村南部の蕨平(わらびだいら)地区に建設が決まった「減容化施設」について住民対象の説明会を開いた。環境省と村が計画を発表した昨年10月から3カ月以上たっての説明会。住民の姿はまばらだった。

「までい」じゃない

環境省が飯舘村民を対象に開いた説明会。中央が菅野典雄村長
環境省が飯舘村民を対象に開いた説明会。中央が菅野典雄村長

住民といっても、避難指示が続く村人はそこに住んではいない。そして、この日の説明会は当の蕨平の住民向けでもない。その「周辺」地区の人たちが対象だ。

「除染を進めるために仮設焼却炉が必要だという話は震災当時からあった。しかしいざ現実化してくるとどの地区でもなかなかOKが出ない。そういう中で蕨平行政区が引き受けてもいいと、スタートすることになった。輸送の問題では村中をトラックなどが動くわけだが、中でも蕨平に通じる行政区の皆さんの不安を少しでも取り除くのがきょうの説明会。つらい話だが、そこを一歩でも前に加速させて復興に結びつけていきたい」

菅野典雄村長はこう切り出し、環境省の担当室長が事業の説明を引き継いだ。

だが、「私たちの知らない間に決まってしまった。村長は住民の同意を得たように言うが、それは蕨平の一部の人たちだけのことでないか」「全村民に話すのが筋だ。きょうこの説明会を受けて村民が認めたという話にはしてもらいたくない」と住民側から反発の声が上がる。

「村長は『までい』じゃない」

物事を丁寧に行う意味の村のキャッチフレーズを引き合いに、厳しく批判する村民もいた。

6市町分含め20万トン超を処理

計画されているのは蕨平地区の一画に1日240トンを処理できる仮設焼却炉と同10トン規模の仮設資材化施設などを建設、焼却灰を中間貯蔵施設や管理型処分場が整備されるまで一時保管する施設だ。

持ち込む廃棄物は飯舘村内から出た除染ごみなど約14万トン、除染土壌の一部約500トンに加え、福島市と相馬市、南相馬市、伊達市、国見町、川俣町の周辺6市町から出る農林業系のごみと下水汚泥の合計7万トンを見込む。原発事故後、汚染された廃棄物を他市町からも受け入れる施設が造られるのは福島で初めてだ。

仮設焼却炉の入札はすでに公告され、2月上旬には業者が決定、3月末までに着工し、1年後の来年度末をめどに運転が始まる。その後3年程度で処理する予定だが、村内の廃棄物量が当初より上回る場合、さらに2年間延長できるとの取り決めが環境省と村の間で交わされている。

焼却灰中のセシウムは高濃度に濃縮される。1キログラム当たり10万ベクレル以上の灰は、コンクリートボックスなどで遮へいして一時保管することも取り決められた。当初、環境省はコンクリートボックスを使うのは100万ベクレル超の灰と想定していたが、安心できないとして菅野村長が「10分の1に下げさせた」とする基準だ。しかし、場所を取るコンクリートボックスの使用に消極的な環境省は、この日も「コンクリートボックスと同等のもので遮へいするという意味で、まだタイプは決まっていない」と言葉を濁し、村長との思惑の違いを垣間見せた。

24時間稼働、トラックが行き交う村に

相馬市で昨年2月から稼働している仮設焼却炉。1日270トンの処理能力がある
相馬市で昨年2月から稼働している仮設焼却炉。1日270トンの処理能力がある

施設規模は震災前に1日3トン級の焼却施設しかなかった村にとっては巨大だ。相馬市では8,000ベクレル/キロ以下の除染廃棄物を1日270トン処理できる仮設焼却炉が稼働中だが、工業団地の中でも威圧感があるそれに近い設備が、飯舘の里山に出現する姿を想像できるだろうか。

廃棄物を運ぶトラックは「5、6分に1台」村を行き交い、施設は「24時間、日曜祭日も稼働する」計画だと明かされた。

「そんなこと、議会でも聞かされていない」

出席していた村議の1人はあ然として、「これでは盆の墓参りもできない。村民のことを配慮できないのか」と注文を付けた。

輸送中の廃棄物の管理はもちろん、排ガスを冷却する大量の水の確保なども懸念材料。そして事故などの安全対策は言わずもがなだ。

環境省の仮設焼却施設では、実証実験中の福島県鮫川村で昨年8月、炉の一部が爆発する事故が起きた。

飯舘の説明会で環境省側はあえてこの事故に言及し、「起こしてはならない事故を起こしてしまったことを深くおわび申し上げる」と謝罪した。しかし同時に「事故原因を分析して管理体制の強化や多重の安全対策をまとめ、鮫川の住民に説明をして何とかご理解をいただいた」と主張。鮫川の施設は28日にも改修工事を終え、村内外に残る再稼働反対の声を振り払って、近く運転再開に踏み切るつもりだ。

「双葉や大熊はもっと大変なんだから」

菅野村長は中間貯蔵施設の受け入れに苦悩する周辺自治体などを気づかい、「お互いさま」を強調して住民に理解を求めた。一方で「放射能に関してはそれぞれの考えがあり、総意はできにくい。大局に立って決めた」。国の態度と重なる強気な姿勢を見せた。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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