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飯舘村長選公開討論会書き起こし(その2)

関口威人ジャーナリスト
飯舘村長選挙の立候補予定者による討論会(「e-みらせん」の動画キャプチャー)

福島県飯舘村長選に立候補した現職の菅野典雄、新人の佐藤八郎両候補は告示日に先立つ10月2日、南相馬市の原町青年会議所が主催した公開討論会で互いの主張を明らかにした。その内容を大まかに書き起こす。(敬称略、発言趣旨を変えない範囲で言い回しなどは筆者が編集)

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飯舘村長選公開討論会書き起こし(その1)

第1部・立候補者への質問事項(○×の紙を掲げる形式)

(3)東京電力からの補償は生活が安定するまで継続するべきだ。

菅野典雄 ○×(両方掲げる)

村民をこのような避難生活にさせたのはまさに東京電力の原発事故で、進めていた国の責任だ。従って当然の権利であるから、賠償はしっかりやってもらう。ただ、飯舘村はそれなりにその他の自治体と組んで、精神的賠償はどなたにも6分の7を、財物賠償は他の自治体より最長の6分の6とさせていただいた。これでいいというつもりはまったくない。しかし、賠償ということになると人それぞれが違う。国がどうしても一律の制度で来ると、非常に難しくなる。つまり、飯舘村だけでなく他の自治体もずっとあるわけで、どこにも均等にという話になると、なかなか簡単ではない。そこで私たちはいわゆる生活補償制度をしっかりと、東電ではなくて、今度は国の責任でつくるべきだという話をしている。ある程度年限を切って、1期目は3年、2期目は2年でも3年でもという形で、一生懸命やってくださる皆さんに生活補償を出す。最初は70%ぐらいまで、その次は50%ぐらいみますと、そうして未来を見せていくというか、先を見せていくことが大切。今はそのつどそのつど、1年後にならないと分からない。そこにわれわれ不安を増やしているのであって、生活補償制度を、国の責任で飯舘でやってほしいというのが今、われわれがしている話だ。

佐藤八郎 ○

私たち村民は何をしたわけでもなく、県内最下位の個人所得の村であっても、お互いに助け合い、思い合い、お互いさまと、幸福を追求して生きてきた。現村長も含め、一部の方には「賠償はもういい」「賠償は終われ」という声もあるが、多くの村民は、村に戻って何をすることで収入を得られるのか見えない。現実には国・東電は避難解除を早くするのみで、何も具体的に示していない。これまでの賠償は精神的慰謝料が1人当たり月10万円だが、移住先では1人や2人の家族の生活は大変な状況だ。営業・営農、財物など、村民1人ひとりが違うが、この原発事故で奪われた憲法上の私たちの権利はたくさんある。人としての幸福を追求しながら、基本的人権が回復するまでは、中長期的な加害者としての責任と役割がある。その事実を明確にするとともに、これまでの村民が受けた賠償実態を確認し、同じ村民にとって公正、公平であるか、国・東電の一方的な賠償となっていないか、被害を受けた者として検証することが5年を過ぎた今だからこそ必要であり、これから村民1人ひとりが自立して生きていくために欠かせない賠償問題だ。原発事故前の、元の生活には戻せない。新たな村づくりと、村民1人ひとりの自立した生き方としなければならない。そのためにも、ADRや訴訟などに真実を求めている多くの村民のために、村民とともに歩むことが求められると私は信じている。

(4)住民票の異動にかかわらず、今後避難区域が解除されても、飯舘村民の医療費は無償を継続すべきだ。

佐藤 ○

何と言っても、生活するには健康が一番。現在は「因果関係」という言葉で流されているが、どんな流れで現在があるかが重要だ。原発事故により、大空から放射性物質や危険物がまかれた事実を情報として早く分かった村民、特に子どもを育てる方々は自主避難をした。そして村民から村、村議会には文書で早期に村民の避難対策が求められた。長年にわたり村づくりにかかわった方々と良識ある専門家からは、ただちに避難すべきと申し入れがあった。しかし、村は全村避難しなくてよい、避難しないで生活ができる、とするために、多くの村民の声、願いに背くように、安心安全という専門家や学者の医師を講師として受け入れて、原発から30-50キロあり、放射能に対する知識の少ない村民をコントロールしたことから始まった。それでも、良識ある村民は健康手帳を作成し、自分たちが被ばくした実態を記録し、早期の健診と避難を要望した。過去の公害事件、原発事故で証明されたように、5年が過ぎたこれからが、放射能被ばくした村民の体にとって重要な時を迎える。これまでのごまかしをあらため、村民のためになる予防健診、治療など、世界の叡智を結集して、健康づくりを進めなければならない。そのためにも、これまでのあり方を検証し、村民1人ひとりの体が5年6カ月経過して今どうなっているのか、そして症状のある方にはどのような治療、支援が必要なのか、世界や日本で過去にあった公害事件などを十分に参考にして、1日でも早く健康な体、安心安全な生活にすることが重要だと考えている。

菅野 ○×(両方掲げる)

間違いなく、われわれはいまだかつてない大変な避難生活をし、今までの環境とはまったく違い、しかも放射能に不安を持っている。だから当然、村としてはただちに内部被ばくの検査の機械を買ったり、甲状腺検査なり健康診断なりを次々とやってきたところだ。ただ、近ごろ6年経ってみて、いろいろな研究機関や先生方から「放射能の影響が極めて低い」「ただ、だからといって安心はできない」「しっかりとこれから検査をしていかなければならない」という声が出ている。不安は拭っていただかなきゃならないと思うが、長期で医療を無料化ということになると、たぶん国民の合意を得られなくなる可能性がある。今でも、かなりいろいろな形で言われるようになっている。長くずっと続けられるのに越したことはないが、なかなかそうはいかない。ではどうするかということになると、当然これからしっかりとした体制を、長く受けられるようにする。それに対するフォローを国・県に求め、われわれも自治体として住民の健康に責任をもっていく形にしていくことが必要だ。ずいぶん多くの国民に合意をいただいたが、だんだん時とともに、忘れているわけではないだろうが、あまり長期の要求は国民の合意を得られないと思っている。

(5)教育機関の再開時期は平成30年4月ころを目処にすべきだ。

菅野 ○

徹底的な除染、賠償、村民の避難中の健康管理をしっかり守る、そして復興計画をつくる。そして、一番最後の難しい問題が必ず来る。それが学校の再開、子どもの教育ということではないか。やっとこのごろ自治体も県も感付き始めているなと思う。一つの例を上げたい。あえて名前は挙げないが、約2万人の人口があるところで今、小中生で本来なら1,800人いるところが、仮設の学校に27人しかいない。全国に1,700人以上が転校している。これが放射能の災害の特異性だ。本当に子どものことは大変だ。飯舘村は幸い、避難のときにちょっと時間はかかったが、村から1時間以内のところに90%の方々が避難をしている。他よりはかなりの子どもたちが仮設の学校に通っていただいている。例えば、平成23年度は全体で662人いたのが70.5%、次の年が61%、57%…そして今年度は36%。毎年どんどん下がっているわけだが、これはそれぞれの判断で、仕方のないことだ。そのときに、少しでも遅くなると学校が再開できなくなる。学校のない自治体に次の若者は残らないし、他から飯館村に住もうという方もいなくなる。できるだけ早くしっかりと環境を整えて、小規模でもいいから特色ある教育をやって、皆さん方に少しでも帰っていただける環境をつくっていくのが村の復興・再生にとても大切だと思っているので、30年4月スタートに今、全力を向けているところだ。

佐藤 ×

学校、幼稚園の村内再開についてはこの間、議会と村、教育委員会、そして何よりも子どもを持つ保護者と教育関係者の中で協議されている。私の知っている村のやり方は、誰と協議したのか分からないが、発表してから説明会、懇談会と極めて長くなるし、議会の調査で村や教育長が言ったことが嘘と分かった。この教育機関の流れをみても、小中一貫校として再開するとしているが、子どもや保護者の合意はどうしたのか。目に見えない、臭いのしない放射能により、全村移住させられた事実。村の全面積のわずか15%という不十分な除染で、残り約85%は大空からまかれた放射性物質が置かれたままの事実。村中にある汚染物が、運搬や処理される計画の見通しがない事実…皆さんはどう思われるか。子どもは未来のためにも、村の宝といえる大切な命だ。国は避難解除というが、村内の教育機関再開は言っていない。つまり、国は今後の健康問題などからして、子どもにまで事故責任は押し付けたくないのだ。村民の皆さんは、飯舘村の現状、ホットスポット、放射線量値などを十分知っている。しかし、病気を発症しても、因果関係で処理すれば、甲状腺をはじめいろいろ問題が出てくる。これ以上、子どもまで被ばくさせたくない。教育機関の再開は、自己責任を取らされる方の合意がない限り、延期すべきだと考えている。

その3に続く)

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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