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ネット炎上が続く理由を考えた(高校、大学生への聞き取り調査から)

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授

この夏、ネット炎上事件続発

7/06 専門学校,患者の臓器写真を投稿

7/14 コンビニ,アイス用冷蔵庫に寝転んだ写真投稿

7/15 コンビニ,サッカー選手来店の防犯映像投稿

7/23 コンビニ,アイス用冷蔵庫に寝転んだ写真投稿

8/05 ステーキ店,冷蔵庫に入った写真投稿

上は、私が8月10日に、「この夏のネット炎上」を調べた際に注目した事件である。実際にはこれら以外にも多数報告されており、たった1ヶ月の間に立て続けに起こった印象である。

これらを投稿した高校生や専門学校生たちは、ネット上で氏名を公開されたり、退学になったり、閉店の損害賠償を請求されそうになっていたりと、かなりの社会的制裁を受けている。にもかかわらず、以下のような炎上事件が続発している。

ピザ屋でピザを顔につけた写真投稿

線路に降りた写真を投稿

パトカーにのった写真を投稿

なぜ繰り返されるのかを明らかにするために、高校生、大学生に聞き取り調査をした。分析、考察の途上であるが、現段階でわかってきたことの一部を記載してみる。

投稿する側の問題

問題の写真を投稿する側は、「自分は大丈夫」と思っている可能性が高い。彼らは「身内だけ」のつもりで投稿しており、それがまさか拡散され、全国的な話題になるとは思っていない。危険をわかっていないのは「リテラシーの問題」「スマホの操作性の問題」「新聞をよまない」等が主な原因だと現段階は把握している。

リテラシーの問題

彼らは投稿が不特定多数に見られる可能性を知らない。高校生や大学生の多くは、最近、ガラケーからスマホに移行した。彼らの多くはガラケーでは、mixi等を利用していたが、スマホでの使用がよりスムーズなTwitter に移行した場合が多い。

ミクシーには、投稿が不特定多数に簡単に拡散される機能(Twitter は「リツイート」、FACEBOOK は「シェア」で、ボタン一つで「友達」等、全員に内容が転送できる)が使われておらず、今回のような炎上事件は起こりにくい。

そのため、ミクシー等でこれまで使用していた者は、TwitterやFACEBOOKで自分の投稿が簡単に多くの目に触れてしまう危険性を知らない可能性が高い。

スマホの操作性の問題

スマホでの画像投稿は、簡単で時間がかからない。ボタン数回の操作で、時間的にも撮影から投稿まで1分以下。操作性の向上、高速回線化(LTE等)が理由である。

そのため、以前は投稿しなかったような場面(機械が苦手であったり、時間的に余裕がない状況)でも躊躇なくできてしまう。投稿に複雑で長い時間を要すると冷静になって考え、投稿を回避できる可能性もあるが、今は判断する以前に投稿できてしまう。

新聞を読まない

投稿する者の多くが新聞を読まない。これは投稿者に限ったことではなく、若者の多くが紙の新聞を読まず、ニュース等の情報源は、「Yahoo!ニュース」等、ネットで配信されるものの場合が多い。

従来の紙ベースの新聞の場合、関心のないテーマのニュースでも、パラパラとページをめくっている間に大きなニュースの見出しが目に入って来るが、ネットニュースの場合は、関心のある内容をクリックしなければ詳細を知ることができない。つまり、自分から探っていかなければ関心のない内容に触れることはない。そのため、若者の知識が偏っていっており、それに伴い、関心も偏りだしていると筆者は感じている。

このような状況のため、ネット炎上が社会問題のようになっている状況を、投稿した若者達は知らなかった可能性が高い。

炎上させる側の事情

次に炎上させる側の事情を「操作性向上の恩恵」「マスコミがさらに煽っている」「成功体験」の3つについて書いてみる。

操作性向上の恩恵

炎上させる側も操作性向上の恩恵を受けている。

『拡散希望』と書いて、「シェア」や「リツイート」すれば、簡単に広めることができる。しかも、ボタン一つである。

また、度重なる炎上事件を経験し、炎上させることが一つのブームようになっていて、新しい標的を待ち構えている気配さえある。

さらに、スマホの検索能力は高く、簡単に炎上のネタになる写真投稿等を検索することができる。

マスコミがさらに煽っている

社会問題化しているので、炎上事件の初期段階からマスコミが報道する場合が多く、期せずしてマスコミが炎上を煽ってしまっている状況がある。現状では、新聞、テレビが最大の拡散装置になってしまっている。

成功体験

投稿拡散により社会全体の大きな話題になり、それによって特定の者が窮地に追いやられてしまう体験を、もしかしたら「成功体験」と捉えて何度も繰り返している若者が一定数いるのかもしれない。

投稿者が社会的な大きな制裁を受けるまで、関係機関や企業に制裁(被害届提出や退学)を促す投稿や電話を繰り返すケースも多くみられる。

電話での制裁要請は「電凸(でんとつ)」と呼ばれている。「電話突撃」をもじったものと考えられるが、一連の流れになりつつある。

教育の必要性

炎上している写真を見ると、確かにひどいもので、許されないと感じる。しかし、再起できないほどの社会的制裁を受ける場合が多いことは危惧している。

二度と同じような悲しい事件が起こす若者が出てこないように、家庭や学校等で教育する機会を早急に用意する必要があると強く感じている。

しかし、親や教師もよくわからない場合もあるので実際は難しい。そこで、そのための資料づくりが急務だと考える。

筆者自身もゼミ生等と教材づくりに奔走しているが、社会全体で使いやすく、わかりやすい教材づくりに取り組んでいくべきだろう。

家庭レベル、学校レベルでは無理で、最低でも市町村や都道府県レベル、できれば国単位での取り組みが必要だろう。

筆者と研究室に集まってくる大学生有志で、近隣の小中学校や市教委、警察等に出向いて、教員、保護者、警察官等に対して、炎上問題対策の講演や勉強会を実施している。講演会は好評で、成果が上がっていると感じているが、私の大学近辺でしかできてない。

大学生も(もちろん筆者も)、わかりやすい教材づくりや説明に一生懸命頑張っているが、時間的にも技術的にも限界があり、「焼け石に水」になっていないかと自問している。実際、講演会は、この春から夏の間で20回程度しかできていないが、これ以上は事実上無理で、抜本的な対策を考える必要性を痛感している。

今後、複数の市教委や警察等と連携していくことになっているが、国レベルでの取り組みが必要かもしれないと思い始めている。

一部の若者だけの問題ではなく、私たち社会全体で考えていかなければならない問題であろう。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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