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「夜9時以降ケータイ・スマホ禁止!」刈谷市学校の保護者への要請の意味と課題

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授

刈谷市の要請の概要

愛知県刈谷市の全21校の小中学校が保護者に以下のような呼びかけをする。

1.必要のないスマホや携帯電話を持たせない。2.契約時に約束を決め、「フィルタリング」を設定する。3.午後9時以降は親が預かる。保護者と連携し、刈谷市児童生徒愛護会(市教委、小中高校、警察など)で発案し、各学校から保護者に要請される。すでに過半数の学校で要請がなされているが、4月からは全校で行われるという。

刈谷市の要請の意味

多くの学校、保護者がケータイ・スマホの問題に頭を抱えていて、学校がこの問題のイニシアティブを取ったという意味で、一つの方向性だろう。

私は多くの小中高校生対象にケータイ・スマホ問題の聞き取り調査をしているので、子どもたちの生の声に接する機会は多いのだが、子どもたちからも実は、「学校でルールを決めて欲しい」という声が少なからずある。LINE等のやりとりが深夜におよぶことがあり、本当は途中でやめたいときもあるが、なかなか言い出せないことが多く、そういう時に、「学校のルールがあったら、『あ、時間だ、先生に怒られる』とか言いやすい」という。そういう意味で、歓迎し、救われる子どもも実は多いと予想される。

ケータイ・スマホ問題は、各家庭の躾に任されてきた部分が多かった。啓発も保護者や本人に情報提供し、自分たちで考えてもらう方向が多かった。保護者が買い与えて、家庭で使用するので、妥当だったと考えている。しかし、スマートフォンが普及し、LINE等での「会話」が日常的になってきた今、児童生徒への影響は深刻であり、各家庭での判断だけでは立ちゆかないレベルにまで達してきたとも感じている。

そういう意味で、今回の刈谷市の要請は、学校からの提案として意義深いと考える。子どもを預かる学校として、決意を示した形の要請だと受け止めている。

刈谷市の要請の課題

ただ、課題も併せ持つ。子どもたち自身の問題と親子関係の問題である。

まずは子どもたち自身の問題について。今回は、大人が話し合って、大人が要請した。当事者である子どもたち不在での要請である。「なぜ、フィルタリングしないのか」「9時に親に預けるのは可能か」など、子どもの意見を充分に聞いて、できれば話し合いに子どもたちの代表を参加させると要請に深みがでるし、実効性が上がるだろう。私は各地で、子どもたち自身のスマホ関連の取り組みに関わっているが、子どもたちに腹をくくって任せるとしっかり考えるものだ。兵庫県猪名川町の「猪名川スマホサミット」が好例だ。

次に親子関係の問題について。今回の要請を受けて、各家庭で保護者が「学校の決まりだから守りなさい」とだけ使ったら、成果は上がりにくいだろう。今回の刈谷市の要請は各家庭への問題提起と考えたらいいだろう。要請を受けて、各家庭で妥当なルールを考える。そういう使われ方がベストだろう。家庭にはさまざまな事情がある。塾が10時までであるとか、保護者の帰宅が深夜であるとか。それぞれの実態に応じたルールを各家庭で話し合うと要請に魂が入る。重要なのはこのあたりだろう。

ケータイ・スマホはよく、「親子断絶のツール」とか言われているが、逆に親子の会話が促進され、世代を超えた意見交流がなされる方向に持って行くことが可能だと私は考えている。もっと言えば、ここにしか解決の糸口はないだろう。

まとめにかえて

今回の刈谷市の要請の日本社会に与えるインパクトは大きい。「学校が決めるなんてナンセンス!」「家庭の問題に学校が口出しするな」等の反応も当然だし、ある意味あたっている。しかし、ケータイ・スマホの与える影響の大きさは、そういう反応を予想してたうえでも、このような要請を出す原動力になったのであろう。

生徒自身に話し合わせること、各家庭での話し合いを促すこと。この2点ができれば、充分に成果のあがる取り組みになると考え、今後の同市の動きに注視していこうと思っている。

ケータイ・スマホ問題は、日本の子どもたちの未来を考えていく上で、大きな課題であるし、可能性だとも考えている。詳しくは近著「家庭や学級で語り合う スマホ時代のリスクとスキル」を読んでほしい。

この種の問題について、私たちの社会はまだ正解を持っていない。私の今回の投稿も問題提起にすぎない。読者の感想を期待している。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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