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スマホのルールを考える1 刈谷市「夜9時まで」の賛否

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授

各地で取り組みが始まる

スマートフォンの普及が急速に進み、各地でさまざまな取り組みが行われている。今回は、話題に上ることが多い愛知県刈谷市の事例について考えてみたい。先日、文部科学省の会議で刈谷市教委の方と同席し、実際に学校から配布してプリントをご呈示いただいた。お許しを得たので、その内容を紹介する。「携帯電話やスマートフォン等の安全な使用のお願い」は、平成26年2月、PTA会長、PTA生活委員長、中学校長の連名で、保護者各位向けに配布されている。具体的な取り組みとして左のような3点が記載されている。

  • 必要のない携帯電話やスマートフォンを持たせない
  • 携帯電話やスマートフォン等を契約する際には、親子で約束をしっかり結び、必ずフィルタリングサービスを受ける。(解除しない)
  • 夜9時以降、お子さんから携帯電話やスマートフォンを預かる(保護者のめの届く場所に置く)

特徴は3つめの「夜9時以降、携帯電話やスマートフォンを保護者が預かる」という部分だろう。これには賛否両論があるが、論点は、学校(PTA)がどこまで関与してよいか、だろう。私自身は試行錯誤の一つとして、良い取り組みだと評価したうえで、課題を書いてみよう。

刈谷市の取り組みの課題

刈谷市が日本社会に与えた影響は大きく、仙台市など、多くの自治体が似た取り組みを始めており、歓迎している。

課題としてあげられるのは、この事例に、当事者であるはずの子どもたちの関与が見えないことである。いくら、学校とPTAが声高に規則を主張しても、子どもたち自身がどのように考え、どう対応するかによってその成果が変わってくる。そういう意味で、今後、このような取り組みには、子どもたちを巻き込んで検討していくことが必要だろう。

さらに、一律に「夜9時」と決めてしまうのではなく、「最終的には、各家庭で話し合って決める」等、余裕のある表現が必要だろう。昨今、塾等の習い事で、帰宅が9時を回ることも考えられるので、柔軟な対応が必要だる。

刈谷市の子どもたちの反応

手元に刈谷市の子どもたちの、9時以降禁止等の取り組みへの賛否を聞いたアンケート結果がある。示唆に富む内容なので紹介しよう。

中学3年生で賛成としたのは、31・4%。彼らにとっては、「急に9時と言われても……」というのが正直な反応なのかもしれない。

これに対して中学1年生で賛成としたのは、66・0%。中学3年生と比べると30ポイント近くの差がある。この差の理由を考えてみた。2つ考えられる。

1つ目は、彼らの生活習慣に携帯電話等が根付いているかどうかの違い。つまり、中学3年生にとっては、もうすでに携帯電話を遅くまで使う習慣が根付いてしまっているので、いまさら9時までといわれても対処が難しいのかもしれない。それに対して、中学1年生はまだそういう習慣はついていないので、9時に止めることが可能だから賛成できるのではないか。あくまで私見だが、十分に考えられることである。

だとしたら、小学生くらいからこのような規則を提示し、みんなで考えていけば、今回のような取り組みの成果が大きいのかもしれない。

2つ目は、反抗期・思春期的な反応。つまり、中学3年生になると反抗期・思春期であり、大人の一方的な提案を聞き入れることが難しいのかもしれない。それに対して、中学1年生は素直なので聞き入れる余地があったのではないか。

正解はわからない

どちらが正解かわからない。どちらも正解かもしれないし、どちらも不正解なのかもしれない。

ただ、この種の問題はまだ、どの自治体も経験したことがない。そういう意味で、いろいろな自治体が試行錯誤をし、子どもたちにとって、どのような提案がベストなのか考えていく必要があるだろう。今、試されているのは、実は日本の大人社会だと私は考えている。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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