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国産材、本当に使いたい? ~木づかい運動の裏にある本音~

田中淳夫森林ジャーナリスト
奈良県銘木協同組合の初競りの様子

「今の仕事していなかったら、国産材を使うかなあ」

この言葉は、国産材の利用普及を推進している人々と会食していた時に出た言葉である。立場上、何より国産材を使わねばならない人たちなのだが、プライベートな自分に立ち返って「本当に国産材を使いたいか」と問われれば、躊躇する、と言ったのだ。なかなか表に出せない本音である。

現在の日本の森林は、有史以来最高と言われるほどの資源量を誇る。戦後営々と植林を続けてきた結果、1000万ヘクタールを超える人工林が造られ、植えて40年~50年以上たって収穫期が近くなった。少なくても間伐を行わねば、人工林は混みすぎて木々はもちろん、土壌保全などの点からも山の状態は健全にならない。そして間伐した材も、十分資源として使える太さに育っている。

だから、政府も「木づかい運動」を展開して、国産材の利用を推進している。国産材の需要が増えたら、林業が活発になって、山の整備も進むし、林業を基幹産業とする山村にもお金が落ちて地域振興につながるからだ。

ところが、よりによって、それを仕事として手がけている人が、本当に国産材を使いたいのか自問したら、迷う、いやもっとあけすけに言えば「使いたくない」というのだ。

実はこの手の本音は、木材を扱う業者や建築関係者の間では以前から出ていたことだ。彼らは、一般人より木材が好きであり森にも関心ある人が多い。しかし、木製品なら外材でもいいわけだし、国産材の現実を知っているだけに、国産材は使いにくい、使いたくない気持ちも生まれるのだ。

たとえば乾燥の問題がある。もともとスギなどは、含水率が高い材なのだが、木材は十分に乾燥させないと反ったり縮むうえ強度も高まらない。ところが、いまだに乾燥させた国産材は、全体の3割ほどなのだ。一方で乾燥機で含水率を低く下げたことを自慢する業者もいるが、高温短時間で人工乾燥させた材は、細胞が破壊されて強度が劣化していることが多い。乾燥技術は非常に難しいのだ。そのことを無視して「乾燥材だったらなんでもよい」と売り込む業者もいる。

さらに商品としてのアイテムが少ない、量がそろわず注文してもすぐに届かない、何よりも価格が高い(原木価格は外材より安くなっているのに、製材品となると外材よりはるかに高くなる不思議!)……など国産材の問題点はいくらでも指摘できる。

また営業努力の足りなさも指摘される。外材を扱う業者は、熱心に売り込みをかけてくるが、国産材の業者はあきらかに営業力が弱い。公共事業に使うよう政治的な「圧力」に期待する向きも目立つ。あげくに「日本の森を守るために買ってくれ」と言われても、直接木を使おうとしている消費者にはメリットが見えないだろう。

一般人の目線で考えると、木材はに対してほかのマテリアル(金属やプラスチックなど)より好感を持つ人はそこそこいるのだが、国産材にこだわる必要性はない。木材のよい点は、国産材でなくてもあるからだ。そもそも素人に外材と国産材の区別はつかないだろう。

また外材と国産材の価格や機能、調達の手間などを比べたら、それでも(高くても、使い勝手が悪くても、購入するのに手間と時間がかかっても)国産材商品を買います! と言えるだろうか。

この国産材を巡る本音を変えられないと、真の意味での国産材振興、木づかいは達成できないだろう。

ただ逆に考えてみると、国産材商品に疑問を持ちつつも、仕事で関わっている(単に職場というより愛着を持って取り組んでいる)人は、日本の森の状況や、苦労している林業の現場や疲弊した山村を知っているから、国産材を使うことで多少ともお役に立ちたいと思っている。また自分たちの手元に届くまでのドラマを知ることで、その木がいとおしくなる。そして外材とは違った日本の木ならではの機能や特徴を見聞きしたから不具合があってもクレームにならない。

これらのことを自覚して、そんな利点を一般消費者に伝えることから国産材の振興に取り組むべきだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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