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薪はスイーツ! 木質エネルギーの本質を見誤るな

田中淳夫森林ジャーナリスト
森の中で行う焚き火の楽しさは、薪ストーブに通じるものがある。

猛暑から一転、秋色濃くなり朝晩など寒さの感じる季節となった。寒い地方では薪ストーブに点火したという頼りも届く。

薪ストーブの愛好家は徐々に増えてきた。最近は「里山資本主義」という言葉(と同時に書名)が知られるようになり、薪を始めとした木質バイオマスによる燃料への見直しも進んでいる。そこで薪と木質バイオマスについて考えてみたい。

以前、薪ストーブ用の薪を販売している業者に取材したとき、面白い言葉を聞いた。

「薪はスイーツです」というのだ。どういう意味かというと、「薪は主食にはなれない。お米やパン、あるいは肉、魚、野菜のように食べるのではなく、食後のデザートのように別腹で楽しむもの」だという。

言い換えると、暖房などの熱エネルギーとしては、やはり灯油やガス、あるいは電気のようなエネルギーと張り合った主力のエネルギーにはなれない、ということである。資源量、熱量、手間、トータルコスト、いずれを取っても負ける。

が、肝心なのはその後だ。

「でも、スイーツは美味しい店があると聞けば、遠くまで電車乗って買いに行ったり、一口何百円しても購入するでしょ。『美味しい』薪なら高くても売れるんです」

実際、この業者の薪は、安くはない。ただし薪ストーブユーザーの家まで配達するし、何より1年以上寝かせており完全に乾燥していて燃えやすい。また広葉樹の見映えのよい薪づくりにこだわっている。

「薪をテーブルの上に置いて眺めて楽しむくらいじゃないとダメなんです。以前,ちょっと腐れが入った薪を出してしまったことがありましたが、クレームが来て交換しました。もちろん腐っていても燃料としては問題ないわけですが。でも次から注文は来なくなりましたね」

だからコケが生えたり土がつく、虫食いなどで汚れた薪は問題外だという。

たしかに薪ストーブを好む人、とくに都市部のユーザーにとって、薪ストーブは必需品ではない。薪の調達に困る上、ストーブそのものが高いし、点火の手間や定期的な薪をくべる手間、そして消火と残された灰などの処理、煙突掃除と決して楽ではない。

それでも好むのは、薪および薪を燃やすことに熱を得るのとは違う別の何かを求めているのだろう。木が燃えるのを眺めるのが好きだったり、薪から森の風景を想像して楽しんでいるのかもしれない。

私は、焚き火を好む。とくに森の中で静かに焚き火をするのが好きだ。小さな火がくべた細い薪に移り、やがて太い薪が萌えて大きな炎を上げるのを見たい。また火種を長くくすぶらせるように薪のくべ方を工夫するのも楽しい。とくに焚き火の火で調理したり、暖をとらなくても、炎を見るためだけに焚き火をする。

おそらく薪ストーブの楽しみは、そういった感覚に近い。だから薪ストーブは、室内で行う焚き火のような感覚で見ている。

だから薪はスイーツなのである。燃える光景が見えることが重要だ。点火する楽しみもある。残念ながら、最近はなかなか焚き火もできない。庭でごくわずかな木々を燃やしたところ、10分とせず苦情が来たこともある。

薪と同じ木質バイオマスである木質ペレットは、どうしても好きになれない。点火やその後の供給が楽であることを売り物にしているが、それのどこが楽しいのだろう。焚き口がほとんど見えない、見えても小さな覗き窓だけで、くべる楽しみもないペレットストーブは、甘くないスイーツではないかと思ってしまう。

だから、木質バイオマスの価値に、CO2を出さないとか森林整備につながるなど環境に優しいお題目を掲げるのは、あまり感心しない。無理に自分を納得させているだけではないか。(ちなみに木質ペレットが本当に環境に優しいのか疑問だが、その点は今回触れない。)

また木質ペレットやチップを燃料にしたボイラーは別だ。純粋に熱源として利用することを目的としている。ただ、それも木質バイオマスが潤沢にある、安く手に入るという前提だろう。わざわざ山の木を伐って、チップにしたりペレットを製造したうえで燃やすべきではない。

木質バイオマス、とくに薪の良さを伝えるのに、環境だとかオルタナティブな資源などを持ち出すべきではないだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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