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ゴルフ場のハイブリッド経営に学ぶ空間利用

田中淳夫森林ジャーナリスト
ゴルフ場内で行われている林業。敷地内にあるスギ林から木材を伐採搬出している。

ゴルフ場は、ゴルファーのプレー料や飲食費で稼ぐ……と思っていたら、最近はそうでもなくなってきたようだ。ゴルフ以外のさまざまな事業展開するところが増えてきたのだ。

まず流行りは、太陽光発電である。空いたスペースを利用してメガソーラー施設を設置するコースが増えている。すでに20~30のゴルフクラブで実施、もしくは建設中である。

たとえば、群馬県のローズペイカントリークラブは、4万1000平方メートルもの敷地(一部安中市有地)にソーラーパネルを敷きつめた「ビッグクリーンエネルギー安中発電所」を今年9月に開設した。420万kwh/年の発電をする予定だ。ほかにも栃木県の鬼怒川カントリークラブの1500万kwh/年(来年秋予定)や、島津ゴルフクラブの900万kwh/年(来年春予定)などが目白押しだ。

具体的な場所は、コースのバックヤードなどの遊休地や余った駐車場のほか、減ホール(27ホール、36ホールといった巨大コースが来客数に見合った数にホール数を閉鎖するもの)、さらにクラブハウスや駐車場の屋根などを利用するケースも少なくないそうである。経営は、別会社にすることも多いが、草刈りなどメンテナンスではゴルフ場の人員や設備が利用できるのが有利だ。

今後は日本の人口減少が続き、ゴルファーも減っていくことが見込まれる。また客単価も落ちる一方だ。その中で生き残るには、ゴルフだけにこだわってはいられないのである。

ゴルフ場が乗り出したプレー外事業を調べると、多くの例がある。

コースの一部にビニールハウスを設置して野菜を栽培するほか、ニワトリを飼育して卵を生産し始めた倶楽部もあった。それらはクラブハウスのレストランで提供するだけでなく、ゴルファーに販売するのだそうだ。そうした動きが拡大して、コース周辺の農地を借りたり、隣接する閉鎖したレジャー施設の土地を使って農業生産法人を設立して取り組み始めたところもある。

またゴルフ場内で刈り取った草や落葉で作った堆肥も人気になって売れだした。

さらに売店で、クラブハウス内に設置している薪ストーブの販売を行ったところ、薪そのものの注文もたくさん来るようになった。ゴルフ場では、常に樹木の剪定を行っているから、薪の生産は簡単だ。むしろ、これまで処分に困っていたものが商品になるようになった。

なかにはコース内にあるスギやヒノキ林から木材の生産を始め、それを拡大して地域の森林管理まで請け負う計画も生まれている。

変わったところでは、夜のクラブハウスやグリーンを利用して結婚式を催し、ライトアップしたり花火を打ち上げるなどゴルフ場でなければ不可能な式を演出するケースもあるという。また乗馬クラブを併設してコース内のトレッキングを楽しんでもらうコースも登場した。

まさにハイブリッド経営という状況だが、今後ゴルファーの減少が避けられぬ中、収益源を多様化する動きは増すだろう。

そう言えば、なぜか私のところに「ラジコン飛行機を飛ばす飛行場としてゴルフ場を使えないか」という相談が来たことがある。日本ではラジコンを飛ばすところがなくて困っているのだそうだ。ラジコン系のファン層は想像以上に分厚くて、世界中に広がっている。そして日本のユーザーは常に上位クラスに食い込んでいる。有望ではなかろうか。

そんなアグレッシブなゴルフ場経営の状況を追いかけていると、同じことは森林地域にも可能だし、またやらねばならないのではないか、と思えてきた。もはや木材生産だけの林業では、森林経営は立ち行かない。木材価格は下落の一途だし、そもそも人口減少は住宅着工数の激減となり、木材需要も縮んでいくだろう。しかし森林管理をないがしろにすれば、自然災害も誘発しかねない。

そこで広い空間を利用したさまざまな事業を展開すべきではないか。そして可能だと思えるのである。

すでに林間を利用した薬草や山菜、ツマモノの栽培などは行われている。あるいは牛や馬の林間放牧は地方で行っているところがある。またキャンプ場経営や、山野草栽培と販売も行える。

岩手県にはスギ林の林床にアジサイを何ヘクタールも植栽した林家がいる。最初は趣味だったのだが、花の季節になると見学客が絶えないため、有料のアジサイ園をオープンした。すると単に入場料だけでなく、飲食コーナーも設けて、大きな収入を上げるようになった。さらに花の時期が過ぎると、枯れた花を収穫してブリザードフラワーの材料として出荷できるようになった。おかげで地元の雇用も生み出している。

発電事業なら、ソーラーも可能かもしれないが、風力発電が有望だろう。すでに山岳地帯には多くの風車が林立している。

少し前に管直人衆議院議員が、「森林地帯の稜線部を利用して風力発電を行い、そのために尾根に林道を通せば、林業にもプラス」という構想をぶち上げたことがあった。具体化するには難しい面もあるが、林業+エネルギー事業という森林経営のアイデアは、悪くない。

今後は木材生産にこだわらず、森林空間を利用することをもっと真剣に考えるべきだ。副業で確実な収益を確保すれば、長期的な視点で森林経営もできるだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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