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伊勢海老高騰で考える、木材価格を上げる方法

田中淳夫森林ジャーナリスト
熱帯地域から輸出される木材。外材には、違法伐採されたものが数多い。

伊勢海老価格が高騰していることがニュースになっていた。

価格が1・5倍からほとんと2倍になっているという。こんなことは「50年エビを扱う仕事をしていて初めて」という業者の声も紹介している。

原因は、伊勢海老漁が行われる8月から10月にかけて台風が相次いで、十分に出漁できず、水揚げが少なかったことのほか、食品擬装問題が響いているという。

これまで伊勢海老の名でロブスターなど輸入物の別のエビを使う料理が横行していたのだ。それが相次ぐ擬装発覚により、本物を使わざるを得なくなった……という解説だ。

ニュースでは、伊勢海老を取り扱う業者の困った顔や、高くて食べにくくなった消費者の声を紹介していたが、高値で売れるのは、伊勢海老を獲る漁師にとっては有り難いことだ。おかげで通常なら漁を終えているはずなのに、12月になっても出ているという。

このことで連想したのは、木材価格だ。現在、消費税増税に備えて住宅建設の駆け込み需要が起きており木材価格が高騰している。

しかし、これは一過性で長く続くまい。むしろ木材価格は低迷し続けてきた。

そして木材価格を上げるのは無理と言われている。なぜなら木材は国際商品であり、国産材だけを高くできないからだ。高くなれば、すぐ外材輸入が増えて価格を抑えてしまう。そして木材の輸入を規制することは、自由貿易の立場から不可能だ。WTO違反に問われるだろう。

だが、伊勢海老騒動で気づいたのは、擬装のような違法行為は取り締まれるということだ。そして木材、とりわけ外材には違法伐採が非常に多いのである。貴重な原生林を破壊しつつ伐りだされたり、大規模皆伐で出された木材が流通しているのだ。

違法伐採された木材を取引することは、国際的に禁止されている。日本でも合法証明を付けないと、公共事業では使えなくなった。幸い日本の林業は、ほとんど人工林で行われている。

だが、外材の場合は、偽の合法証明書が発行されることも多い。また産地を書き換えて出荷される場合もある。国家間の木材の密輸が横行しているのだ。

これを厳しく取り締まれば、おそらく外材輸入が激減するだろう。そうなると、国産材に光が当てられて価格も上がるのではないか。しかもWTOなどから文句を付けられるいわれもない。それどころか環境を守るために貢献するという称賛を期待できる。

こうしたことは以前から指摘しているのだが、なかなか行動に移されないのは、まず海外の違法伐採(もしくは合法証明の真偽)を確実に指摘されないことがある。伐採現場まで追跡して合法か否かを調べなくてはならない。これは結構大変な作業となる。

そして、もう一つ理由がある。日本ではたいてい合法証明が付けられるようになったが、これは業界が独自に行っていることだ。第三者機関ではないのである。これでは信頼性が担保されていない。つまり国産材も完全な合法証明をされていないことになる。もし、適切な合法証明にするよう求めたら、おそらく業界が猛反発するだろう。

しかし、国産材が使われるよう莫大な補助金をばらまくより、はるかに正当で効果もある方法ではないか。材価が上がれば、林業は自立できるし、勘に頼った古い経営も是正できる。また長期計画で森林経営にも取り組めるだろう。そうすれば後継者も出やすくなる。挑戦する価値はあるだろう。

仮に違法な外材を締め出したにもかかわらず、国産材がその穴を埋めるだけの合法を証明された木材を供給できなかったら、今度こそ需要は非木材素材に向かうだろう。家は鉄骨やコンクリートでも建てられるのだから。その時こそ、本当に日本の林業は終末を迎えるのではないか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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