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和紙は日本製か?日本の誇る伝統を原材料から見てみると……

田中淳夫森林ジャーナリスト
伝統の技を活かした手漉き和紙。しかし国産のコウゾやミツマタを使うところは数少ない

今秋は食品の産地擬装が話題になったが、その典型例は国産の食材と表示したものが外国産であるケース。だが、産地表示があるのは一次産品だけであり、加工品は書かれない。製造元が日本の企業であっても、その原料が外国産であることは、もはや珍しくないというより、多数派になってしまっている。

無形文化遺産登録が決まった日本の食文化だって、実は素材の多くが外国産に頼っていることは、皆うすうす感じているだろう。

それは食品以外にも広がっている。ここでは、いかにも日本の伝統品と思わせるものの実態をいくつか紹介しよう。

まず和紙。名称そのものが日本特産の紙なのだが、その材料は何か。

一般的にはコウゾやミツマタ、それにガンピが使われている。いずれも山野の一年性樹種だが、そのほとんどは輸入品だ。中国産が多いが、タイ、ベトナムなど東南アジア産も少なくない。それどころか、一部の和紙製造業者は古紙や木材のパルプを混ぜているという。古紙はもちろん、木材パルプは洋紙の材料である。こうなると、何が和紙で何が洋紙かわからなくなる。

付け加えると、これらの外国産原料では繊維をほぐすのに薬品を使うことも多く、和紙特有の繊維の強靱さは失われているケースもあるという。また漉き工程では、繊維の拡散に本来はトロロアオイを使うが、それも化学合成されたアクリルアミドが取って代わっている。

かつて「ジャパン」とも呼ばれた漆工芸の材料、漆(ウルシノキの樹液)も、99%は外国産だ。こちらも中国産が圧倒するが、東南アジア産もかなり入っている。

中国産は国産の漆と成分(ウルシチオール)は変わらない。ただし中国産漆は、採取方法が日本と違い、雑成分が入りやすい上に管理が悪く腐敗していることが多い。残念なのは、わずかに生産されている国産漆も、結局は中国産漆に混ぜられてしまわれがちなのだそうだ。

一方で東南アジア産の漆は、成分がチチオールやラッコール。本来の漆とは違う。また最近は、見た目は漆そっくりの合成塗料も開発されているから、本物の漆器・漆工芸品はどれなのか見破るのは難しくなってしまった。

葬式や神道行事に使われるサカキやシキミも9割以上が中国産。神棚や仏壇は、これらがなければ維持できない。日本の心、精神を祈るのに中国産を使わねばならないわけだ。そういえば葬式で多用される菊花も中国産が増えている。

さらに竹工芸品も、材料の竹だけでなく製造までが中国産が大半である。備長炭だって中国で焼かれているし、毛筆も外国産の毛を抜きに製造できない。

工芸品ではないが、腐葉土の原料である落葉も外国産(中国産、インドネシア産など)が増えているし、園芸土や有機肥料の材料である魚粉や海藻なども輸入原料。つまり地産地消を謳うことの多い有機栽培も外国産肥料なしでは成し得ない有り様なのだ。

もちろん、外国産原料をすべて否定するわけではない。むしろ、外国産がなければ国内の製造さえ途絶えてしまった可能性が高い。日本文化を守るために貢献してくれたと考えることもできる。

言い換えると、これらの供給が止まったら、日本文化です! と誇っているものが壊滅しかねない。目先の調達しやすさだけでなく、もう少し「産地」を大事に扱えないだろうか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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