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「就森」と「森林業界」を確立しよう

田中淳夫森林ジャーナリスト
「ツリークライミングの指導」という森の仕事を行う人々もいる。

熊本県水俣市にある愛林館の沢畑亨館長は、先に「就森」という言葉を生み出した。読んで字のごとく、森に就職する、森林に関した仕事に就くという意味である。

これは、年々森に関する興味を持つ人が増えて、職場にすることを望む人が増えていることを実感した中で作られた。

ただ、現状では「森で働く」というと「林業に就く」ことと同義になることが多い。事実、仕事として一定量あるのは、森林組合など林業現場しかないのである。

ところが、実際に林業職に就いたものの、違和感を覚える人も増えている。森と関わりたくて、森が好きで選んだはずなのに、現場の仕事は伐採が主流だからだ。それも、素人目にも荒っぽい、重機を使って森を痛めつけている現場が多い。またノルマがきつく、1日でどれだけの木材を搬出できるかが問われる。製材現場も、どんどん機械化が進んで人が関わる部分が減っている。

森を守りたい、木の息吹を感じる仕事がしたい、という思いとは相反している。そのため、せっかく就いたのに職場を離れる人も少なくなかった。

彼らの求めている「森の仕事」は、植林・育林のような森を育てる仕事だったり、森の魅力を紹介するガイドだったりする。伐採仕事にしても、一本一本ていねいに伐り、伐った木材を大切に使うお手伝いだったりするのだ。

実際、そんな仕事を自ら作り出している人が増えてきた。たとえば木に登って、上から木を伐ったり枝を剪定する特殊伐採(アーボリカルチャー)に挑む林業家が増えてきた。より木と向き合えるからだという。木を植えつつ、家具などをつくる木工職人もいる。また森の山野草を採取ではなく栽培して販売したり、林内で新たな商品作物を生産する試みも起きている。

森を案内したり森遊びをするツアーを主催する人や、森林環境教育専門のインタープリターとして独立する人もいた。山村の田舎暮らしを教える塾を開いたケースもあった。

既成の業界内にも新たな動きが起きている。これまで砂防だ治山だというと、コンクリートで固めることが多かったが、最近では近自然工法と呼ばれる自然界に則した方法を取り入れる業者や行政も増えてきた。森林公園などの整備や造園でも、森の生態系を活かした景観を考えた作業を指導する人や組織もある。

そんな木材生産だけの林業とは違う、広く森に関する仕事に就く、という意味で「就森」という言葉が作られたのである。

私も賛成だ。森の仕事は、もっと広く捉えるべきではないか。

森林を巡る職業を、狭く考える必要はない。いまだに世間では「森(山)の仕事と言えば林業」という思い込みが強いが、深く静かに森の新しい仕事は広がっている。森林の多面的機能に眼を向けられて長い年月が経ったことを考えても、もっと様々な仕事が生まれていい。いや、本来森の仕事とは幅広いものだろう。

もちろん木材生産を否定するわけではない。むしろ、森づくりにつながる伐採を提案しつつ、森に関心のある人々を多く取り込み,森のためになる「業界」を作りたい。いわば「就森」先すべてが「森林業界」である。

それは夢物語だろうか。たしかに仕事としては、まだ確立されていない面もある。十分な収入を得ることも難しいだろう。しかし、旧態依然とした林業界のままでは、仕事の可能性自体を縮めてしまう。幅広く人材を集め、新たなチャンスを作り出していく「業界」になることを期待したい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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