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地球温暖化対策税から森に還元を!

田中淳夫森林ジャーナリスト

再生可能エネルギーの導入について議論になると、話題になるのが炭素税である。

CO2を排出する化石燃料に課税する環境税の一種だ。コストが高い太陽光、風力、バイオマス……などの新エネルギー源と石炭石油などとの価格差を埋める目的で、化石燃料にかける税金だ。スウェーデン、オランダ、ドイツ、イギリスなどヨーロッパには導入されているところが多い。

ところで意外というか、一般人はほとんど知らないようだが、日本にも炭素税がある。具体的には、「地球温暖化対策税」が平成24年10月1日から導入されている。化石燃料の利用に伴うCO2排出量を抑制し、地球温暖化対策を強化するための財源としてつくられたものだ。化石燃料に課税するのだから、国際的には炭素税と一緒だろう。

一般に知られていないのは、石油石炭税の仕組みを利用して、CO2排出量に応じて税率を上乗せ徴収しているからだ。つまり、化石燃料の輸入者や採取業者などに課税されるため、一般消費者には見えなくなっている。とはいえ、最終的には、商品価格に反映され消費者が負担する。

「地球温暖化対策税」として上乗せされる額は、CO2排出量1トン当たり289円。

従来の石油石炭税の税率は、原油・石油製品は1キロリットル当たり2040円、ガスは1トン当たり1080円、石炭は1トン当たり700円……であり、そこに上乗せされても見えにくい。ただ計算上は、たとえば石油なら760円上乗せされることになる。ガスは780円、石炭には670円。小さくはない。

ただし急激な負担増になることを避けるため、「地球温暖化対策税」は、3年半かけて3段階で実施される。初年度は3分の1であり、今年4月1日以降は3分の2になった。満額徴収されるのは、平成28年4月1日からの予定だ。一般家庭の負担額は、最終的に1カ月平均で約100円程度と試算されている。

問題は、地球温暖化対策税による税収の使い道だ。

今のところ掲げられているのは、省エネルギー対策の強化と導入支援や、次世代の蓄電池技術の開発、分散型エネルギーの促進、再生可能エネルギー導入の推進などである。

だが自民党では、見直しのための検討チームが設けられて、議論が始まった。

そこで林野庁は、森林整備に使えるように要望を出した。今は補正予算に頼ることの多い森林整備費だが、なんとか安定財源が欲しいのだろう。言い分としては、地球温暖化防止条約で日本が国際公約したした温室効果ガスを1990年比で6%削減のうち、3.8%は森林の吸収で賄った計算が成されたことで目標を達成できたことが上げられる。

しかし、自民党内の検討チームでは、反対意見が圧倒しているそうだ。

もともとこの税は、経済産業省の主導であり、経済団体も導入見返りに新技術開発や再エネ支援に使われることを前提に賛成したのだから、他人の財布に手を突っ込むな、というところだろう。弱小官庁は言い返せないのか……。

私は、正直、森林整備(ようするに人工林の間伐)がCO2削減に寄与するという論法の科学性に疑問を持っている。そもそも現在の間伐の仕方は逆に森林を劣化させているのではないか、そして補助金で行った間伐による木材を野放図に市場に出したため、木材価格の下落を招いた……ことなどからも、あんまりピンと来ない。

しかし、森林整備が軽んじられることもむかつく。なんだかCO2削減の名目で国民から広く毟りとった金を、産業界だけにばらまいているかのようだ。森林の価値を示すためにも、ここは踏ん張りどころだ。

単純な間伐による「森林整備」とするからウケない。もっと魅力的なアイデアを出して、森林への還元も求めよう。たとえば人工林ばかりではなく里山の竹林や雑木林の整備によるCO2削減案とか、大規模な伐採跡地の再造林推進、いっそのこと獣害阻止ハンター倍増計画に薪ストーブ倍増計画……など、国民ウケする施策はないものか。世論を味方につけないと。もちろん理論武装は必要だが。

と、たまには? 林野庁を応援したくなるのである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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