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林業女子へのセクハラ行為?にご注意

田中淳夫森林ジャーナリスト

いまだ納まりがつかない、都議会のセクハラ野次騒動。

議会という場や、その前世紀の化石的な言葉は、野次というより質問者への揶揄であり、侮辱でありハラスメント(いじめ)そのものだから弁解のしようがない。そのうえ、いまだに全員が名乗り出ない往生際の悪さも引き立つ。

ただ、改めて自らの発言に引き寄せて振り返ると、妙齢の女性と話していると「結婚する気はある?」とか「彼氏はいるの?」とか尋ねることは、それなりにある。これらの言葉は、よほどTPOを選ばないといけないなと身を引き締めている。

そこで気になるのが、林業女子を巡る状況だ。

このところ、林業に関わりたいという女性が増えてきた。これまでも「森が好き」という女性はそこそこいたが、もっと狭い林業界に興味を持つ人が多くなってきたのだ。関わり方はさまざまだが、林業を応援したいという女子による「林業女子会」も全国各地で結成されている。

ここでは、林業現場で自ら働く女性に話を絞る。彼女らは、文字通り山の現場に出て働くことを希望した。それも植林などに留まらず、チェンソーで木を伐採したり、重機を操ったりと八面六臂の活躍をしている。

問題は、それらの職場はほとんど男の世界であることだ。また職場が山だと、たいてい近くの山里に住まねばばならない。つまり田舎暮らしを送るわけだ。

彼女らは、はたして周囲に上手く溶け込めているのか。

セクハラにあうことはないのか。

そんな事情に少し踏み込み、複数の林業女子に本当のところを伺ったことがある。

すると、表に出ない部分で彼女らの苦労が思いやられた。まず林業現場や田舎の生活では、「結婚」や「出産」、さらに下ネタなどの話題

は日常茶飯であること。話し手にはセクハラなんて意識は毛頭ない、挨拶代わりであり、天気なみだ。

また、過疎地では最大の課題が人口を増やすこと。だから若い女性なら地元の男と結婚して居ついてほしいし、さらに子供をたくさん生んで人口を増やしてほしいという思いが口に突いて出てくる。世代が若ければ多少の遠慮はあるのだが、親の世代以上だと、止めようがない。

一方で田舎は監視社会だ(笑)。もし林業女子が男と逢っていたり家に招き入れようものなら、あっと言う間に情報は拡散する。夜まで男がいたら、もはや村あげての騒ぎになる。早く結婚を、と言いながら男の接近には神経質なのである。

それらを笑って聞き流せないと女子は田舎で暮らしていけない状況であるらしい。

逆に言えば、男以上に覚悟を決めて山の世界に踏み込んだ彼女らを追い詰める要因にもなっている。新規就業してなれない暮らしに山仕事、体力、技術、すべてにおいて苦労する中で、セクシュアルな話題は彼女らのストレスをより高めているからだ。

そのうえ、ハラスメントにならない辛さもあるそうだ。とくに女子ゆえの優遇はいらだつらしい。

たとえば、現場で男同士はため口なのに、彼女だけにていねいな言葉づかいされる、重い荷物を持たせてもらえない、トビによる丸太の移動に苦労していたら、脇からヒョイと手伝われた……こうした扱いがイヤだと某林業女子は明かした。

そういわれると、男として辛い……。私も、無意識にそうしたことをやっているはずだ。そういえばチェーンソーのエンジンをかけるのに苦労している女子がいたので、つい手伝ったことがあったが、それが嫌われる元になっていたのか!

だが、男に伍して働こうと覚悟を決めた彼女らにとっては、特別扱いされることは神経を逆撫でされるらしい。

とはいえ、徐々に技術を身につけて仕事ができるようになると、力仕事などは男に任せる「度量」が生まれてきたそうである。むしろ女子であることを利用して現場を上手く動かせるようになった……と語ってくれた林業女子もいた。しかし、この境地に立つまでには「修行」が必要なのだろう。

男女間の言葉のやり取りはいつの世も難しいが、そこに田舎暮らし問題も絡むと、実にやっかい。心して向き合わないといけない。

最後に、言い訳じみるが、男だって似た目にしょっちゅうあっている。

仕事上のパワハラに近い言葉もかなり酷い。

私の場合なら、フリーランスであることを揶揄されたり、取材した人に語句チェックをお願いしたら、微妙なニュアンスの違いを言い立てて侮辱の言葉で返ってくることもある。読者からもトンチンカンな罵声的メールが届いたりする。

この世にハラスメントは満ちている。

とくに言葉による暴力は、いわば心を引き裂く行為である。その傷は深く潜行し、いつかしっペ返しを狙うことをお忘れなく。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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