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知ってる? 森林環境税の使い道

田中淳夫森林ジャーナリスト
日本は世界有数の森林大国。広大な森林を維持するには莫大な金がかかるのたが……。

日本には数多くの税金が存在し、否応なく徴収されているが、森林環境税を知っているだろうか。

地方自治体が独自に課税するもので、ようするに森林を中心とする環境保全に使うための目的税だ。ただ名前は、各県によって水と緑の環境税だとか森づくり税、水源環境保全のための県民税……などいろいろとある。

2003年に高知県が初めて取り入れて、その後広い森林を抱える多くの自治体が導入に踏み切った。現在34県で導入されている。

たいてい県民税への上乗せ方式だが、一人当たり500円~1000円程度。企業も資本金額に併せて徴収される。そのままだと目的税にならないので、基金をつくって森林整備や水源涵養に関わるとする施策に支出する仕組みだ。

これによって得られる税収は、県によって2~3億円から数十億円になる。皮肉なのは、森林面積の広い自治体は人口が少ないため多額になりにくい。逆に神奈川県や兵庫県など大都市圏を抱え人口の多い自治体ほど税収は多い。ただ昨年「みえ森と緑の県民税」をスタートさせた三重県は、わりと‘’重税‘’なのか、県の人口の割には多い10億円程度を集めるそうだ。

さて、これは私の感触だが、どうも各県は集めた税金の使い道に困っているのではないか、という気がする。つまり徴収したものの、適切な使い道が見つからずに苦労している……という状況が透けているように感じるのだ。

もちろん、県の担当者に直截に尋ねても、そんなことは絶対に言わない(笑)。税収はあればあるほどよいと思っているに違いない。事実、使い切っているのだろう。

ただ、折に触れて知る使い道にイマイチ統一感がないのだ。毎年、目的も交付先もバラバラなように見える。

各地で耳にする使い道の中には、伐採時の所有者負担分まで丸ごとこの税金で補ったり、街路樹の植え替え費用になったり、森林関係のイベントや県職員の林業研修に費やしたりしている。さらに県民税なのに隣県の山林に支出したと聞いては、なんだかなあ~と思ってしまうのである。

もともと導入時に、具体的な使い道を考えているケースはレアだ。抽象的な「森林のため」という目的しか示されない。

とはいえ、さすがに野放図な使い方はできないので、いくつか条件を設けておくのが普通だ。たとえば従前の間伐や造林補助金などに上乗せするのではなく新規事業に特定したり、住民や企業の多い都市部から多く徴収するのに支出は森林の多い過疎地域になりがちな逆転構造を正すため、都市部の緑の整備や森林ボランティア団体などにも支出するよう意識されている。

これが足かせ?になって、使い道が十分に定まらないのだろうか。だが樹木の時間で存在する森林に対して、長期的な視点が感じられない支出は残念だ。

森林環境税が広がりだした際、私は反対とは言わないまでも積極的に賛成する気にはなれなかった。それなのに意外だったのは、ほとんど反対運動が起きなかったことだ。

これは明らかに増税なのだ。誰もが嫌う支出増ではないか?。

どうも「森林のため」と聞くと、多くが優しく認めてしまうのはなぜだろう。森林のため、水や地球環境のため、ときれいごとの目的を掲げると、県民は納得してくれるとしたら為政者に便利だが……。それなのに具体的な使い道にあまり興味を向けないままである。

実は、私も某県の導入時に開かれたフォーラムに呼ばれたことがあるのだが、「単発事業へのバラマキは止めてほしい」「この税で森林に貢献できる人材育成の学校か塾をつくれないか」などと意見を述べた記憶がある。長期的な視点で森林に関わる使い道を考えてほしかった。

また別の機会では、納税者に結果を見せて「こんな素晴らしい森林ができたのなら、払ってよかった」「この税金は渋々払ったのではなく、未来への投資だった」と思わせてくれといった趣旨のコメントをした。

それらが多少とも取り入れられたのかどうかはここでは言及しない(笑)が、現在の各県の税金の使い方には今も違和感を抱いている。

日本の森は千差万別である。だから全国に画一的な政策を行っても、すべてが良策にはならない。しかし自治体は、国よりずっと近いところで森林を見ている。

故郷の森が今どんな状態で、どんな問題を抱えているか、何が足りないのか、何を施せばよいのかを知りやすいはずである。

しかも森林環境税は自治体の独自財源なのだから、国の方針とは一線を画して故郷の森に必要な処方箋をていねいに立てて長期的に実行できる好位置にあるのだ。故郷の森のグランドデザインを掲げて、そこに向かう原動力として使えないか。

ちなみに私も、森林環境税の納税者である。納めた税金は、払うことに満足を感じるような使い道を選んでほしい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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