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質の林業は、誰がつくる?~プレミアム国産材は現代の銘木~

田中淳夫森林ジャーナリスト
無節のヒノキのフローリング材。新たに生み出された「銘木」だ

先日、大阪と東京で開かれた産地共催交流セミナーに足を運んだ。

なんだか難しい名称だが、主催は株式会社古川ちいきの総合研究所。セミナーと言っても、実態は各地の林業地や製材・木工所が自慢の商品をプレゼンする催しだ。聞き手は建築家や工務店の人が多く、気になった商品があれば商談へと移ることもある。

私が惹かれたのは、ここで使われた「プレミアム国産材」という言葉である。これは質の高い高級木材、いわば「現代の銘木」を指すからだ。

今、国が推進しているのは、「量の林業」である。とにかく日本の山にはたくさん木がある、どんどん伐って出し、どんどん使おう、と政策的に後押する。だが、その使い道は、安い合板材料やバイオマス燃料などばかり。木質も問われず、曲がっていようが傷があろうがかまわない、とにかく量を、というわけだ。

だが、そんな安い木材がいくら売れても林家に利益は出ず、荒っぽい伐採は山を傷めるし、地域経済も疲弊していく。一方で消費者にも、そんな製品ばかりでは安くて使い捨てするものというイメージが根付きかねない。

今必要なのは、高付加価値の木材であり、誰もが美しく感じる木材と木製品をつくること……つまり「質の林業」ではないか。「プレミアム国産材」では、それを見られるのでは、と期待したのだ。

さて、セミナーでは12の産地の「プレミアム国産材」が登場した。

なかには、文句なく高品質の木材であり、歴史も古く、知名度のある産地を強調したところもある。吉野杉などはその代表だろう。伝統的な産地ではないが、地域の知名度を活かして新たな銘柄をつくったケースもある。高野山の寺領から出た木材だということを売り物にした「高野霊木」や、富士山麓に産地が広がることから「富士檜」と名付けたものだ。家具の産地の会社が、建具全般に商品枠を広げる挑戦もあった。

また、今や希少化した国産マツ材を専門に扱うことを目玉にする業者や、天然無垢の信州カラマツ材から外装材を製造し、美しい木の外観を持つ住宅を建築を行う会社もあった。杭など安物のイメージの強い小径木の丸棒が、高級アパレル店の内装に使われた事例も紹介された。

自分で削りだすカトラリーキット(西粟倉・森の学校)
自分で削りだすカトラリーキット(西粟倉・森の学校)

一方、材質の価値を強調するよりも1本の木を無駄なく利用して建材から家具、オモチャ、そして割り箸まで作って使い尽くす戦略を披露した西粟倉村のようなところもあった。総額として木の価値を上げようというわけだ。逆に、施主のどんな要望でも応えます、欲しい木製品に加工してみせます、と打ち出した木工所もある。

私か気になったのは、兵庫県上月町の「上月檜」のフローリング材だ。

実は上月町は、ヒノキの産地ではなかった。ただ昭和の頃より手入れをして高級和室向きの四方無地(4面のどこにも節のない柱)材をつくろうと努力してきた地域なのだそうだ。しかし、ようやく木が育った今になって、和風住宅の建築は極端に減少し、四方無地の柱も売れなくなった。

なんとかしたいと、その森を手入れしてきた森林組合の吉田義弘氏が独立して、四方無地のヒノキを上月檜と名付けてフローリンク材にして売り出したのだ。これは行き場を失った木材を加工によって新たな価値をつけようという挑戦だ。山から消費者までのトレーサビリティを付けた無節のヒノキのフローリング材なんて、滅多に手に入らないだろう。

繊細な図案をレーザー加工した間伐材(ばうむ合同会社)
繊細な図案をレーザー加工した間伐材(ばうむ合同会社)

また高知県本山町からは、大径木は将来に残すため手をつけず、あえて細い間伐材を使った商品で勝負を挑むばうむ合同会社が出展していた。間伐材にレーザー加工により複雑な紋様を彫りこみ高級化を計った内装材を提供するというアピールだ。小物のほか、壁材や欄間のような使い方ができる。

「質の林業」とはこうしたものではないか、と思う。

木材の量ばかりではなく、良材(真っ直ぐ、節なしなど)生産に眼を向けるべきという声はある。しかし今から山の木を手入れして、50年後100年後に育った木が高く売れるようになっても、今を生きる人にとっては間に合わない。

必要なのは、今ある木材をいかに高付加価値にするか、今売れる商品にするか、だろう。

柱材が売れないのなら特徴あるフローリング材や家具にする、曲がった木を曲がりを活かした使い道を提案する、間伐材でもデザイン的な処理をすることで価値を付ける、あるいはトータルで利益を出せるように商品構成を考える、さらに産地の歴史や名所を利用して物語性を付与し、買い手の満足感を高める……これこそが現代のプレミアムな林業だと感じたのである。

「質の林業」の担い手は、川下の分野にいる。それは木の生長に何十年もかけるのではなく、アイデアと技術勝負だ。ある意味、一発逆転もありえる。現代の銘木づくりは、材質だけで勝負するのではなく、加工と売り方によって生み出してほしい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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